マガジンのカバー画像

分人創作エッセイ

4
Twitterにつぶやくのが苦手なので、代わりに日常のエピソードから創作した文章を載せています。掌編小説ですが、わたしの中では日常に即しているため「エッセイ」としています。お楽し…
運営しているクリエイター

記事一覧

分人創作エッセイ『笛宮に遭った』シリーズ~「整心院」

分人創作エッセイ『笛宮に遭った』シリーズ~「整心院」

(2400字程度)
 中本は、取引のある漢方薬屋から買っておいた高麗人参の内服液を喉に流し込む。午後の施術が始まって15分。すでに客で膨れ上がった待合室から順繰りに中待合いに呼び、ひとりひとりをさばいてゆかねばならない。客によっては、少し話を聞いてやる程度ですんなりと処置できるが、やはり日に2,3人は泣き喚く中、力づくで吐き出させざるを得ないようなひどくてこずる客が来る。木曜の午後ともなれば中本も

もっとみる
分人創作エッセイ『笛宮に遭った』シリーズ~フラミンゴの憂鬱

分人創作エッセイ『笛宮に遭った』シリーズ~フラミンゴの憂鬱

 今日は、ヱリ子ちゃんの件で。ええ、よく覚えていますよ。あんな可哀想なことになったんだから、忘れられるわけないじゃないですか。あ、私もいいんですか、ごめんなさい、じゃあ珈琲で、ええアイスで。こういうのって経費で落ちるんですね。まあ、タウン誌の記者さんなら、そりゃそうか。
 お教室でも、別に親しかったってわけじゃないんですよ。あのバレエ教室は、半分くらいはA学園の初等部の子たちで固まってましたからね

もっとみる

分人創作エッセイ『笛宮に遭った』シリーズ~「ひつじ折り師」

(約1800字)
 三角形の右側を線の位置に合わせて上に折り、折り目をつける。もう一度開いて右の角を内側へ入れ込むように折ってから、右に倒す。左も同じように折り、左右対称にする。これはひつじの耳になる。細く整えた紙の先が、指先で寸分の狂いもなく目的どおりの鋭角を作るとき、斗真はいつも恍惚となる。顎骨にあたる部分を中折れにすれば、ひつじは完成する。これまでに、きっと数千匹は折っている。いや、ひょっと

もっとみる
分人創作エッセイ『笛宮に遭った』シリーズ~立っている女

分人創作エッセイ『笛宮に遭った』シリーズ~立っている女

大型マンション沿いにあるカナメモチの植え込みの陰に潜り、むくむくと進む。もう艶やかな赤い若葉が出始めている。ちょうど三角公園に出るところで、女が一人突っ立っているのを我の鋭い目がとらえた。足はぴたりと止まった。思えばスカアトを履いているから女だと考えるのも安易だが、脚が隠れきる丈のスカアトで女装した男というのを我はまだ見たことが無かった。奇妙な体の形を隠そうとロングのスカアトを履くのは、たいてい女

もっとみる