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認知バイアス 実例集

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ダン・アリエリーの「予想通りに不合理」で紹介されている、ヒトの認知のクセについて、短く要約,抜粋して整理しました。
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2022年9月の記事一覧

「チャンス」に騙される1

アリエリーらは、「扉ゲーム実験」を考案しました。

 プログラムを立ち上げると、画面に三つの扉が表示されます。それぞれの扉は、赤、青、緑に塗られています。

 被験者は、扉をクリックすれば、どの部屋にでも入ることができます。一つの部屋に入ったら、クリックするたびにある範囲の金額(1セントから10セントのうちの一つの金額)をゲットできます。部屋ごとに、ゲットできる金額の範囲が異なります。部屋から部屋

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「チャンス」に騙される2

三つの扉の実験の続きです。

 扉を消したくないという気持ちが強く、結局損をしてしまう行動に及びやすいことが分かったので、扉を消さないためには、3セント払わなければならないという条件を追加しました。

 これでも結果は同じでした。ますます損失を増やすことになってしまったのです。

 優秀な学生ならば、事前に練習をすれば、何が得か理解できると思って、練習の機会を与えても、その期待は見事に裏切られてし

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ブランド戦略1

 もう相当前の話ですが、「ペプシチャレンジ」というコーラの飲み比べCMが放映されていました。日本では、ペプシかコカ・コーラか分からないようにして飲み比べてもらったら、ペプシの方がおいしいという人の方が多かった、というのがCMの概要です。

 アメリカでも同じようなCMがペプシによって放映されましたが、日本と違うのは、これに対抗して、コカ・コーラも、飲み比べてもらって、コカ・コーラの方がおいしいとい

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ブランド戦略2

 「ペプシチャレンジ」及びそれに対抗する「コカ・コーラチャレンジ(迎えうちというべき?)」は、飲んだ人にペプシ・コーラとコカ・コーラのどっちが良かったか答えてもらうもので、きわめてざっくりとした調査であるということになります。

 これをもっと客観的、科学的に捉えなおしてみようという人達がいたそうです。それぞれのコーラを飲んだ人の脳のどの部位にどのような変化が起こるのか、その違いをデータ化して比較

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プラセボ効果1

 鎮痛薬の効果を調べるためとして、ボストン在住の成人100人を対象として実験を行いました。

 診療所のような雰囲気の部屋で、被験者は、その鎮痛薬のパンフレットに目を通すよう促されます。

 「べラドン(鎮痛薬)は、オピオイド系の新薬です。臨床試験の結果、二重盲検比較試験でべラドンを服用した患者の92%以上が、わずか10分で痛みが大きく軽減したと報告し、その効果は最高8時間まで持続しました。」とい

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プラセボ効果2

 実験には続きがあります。

 鎮痛剤(実はプラセボ)の値段は、2ドル50セントとしてありましたが、今回の実験では、その値段を消して、わずか10セントとしました。

 結果は、痛みが軽減した人の数が約半分になってしまいました。

 このとき、直近に鎮痛剤の世話になった人は、他の人よりも値段の変化に敏感に反応したそうです。

 これらの実験に類する調査をアイオワ大学で行いました。

 ひと冬の間にひ

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共有地の悲劇1

 「共有地の悲劇」としてアリエリーが紹介している例です。

 中世のイングランドでは、教会の教区に共有地があり、教区民は決まった数の牛や羊をそこで放牧しても良いことになっていました。家畜の数を抑えておけば、ちょうどいい具合に新しい草が生えてきて、牧草の状態はずっと保たれます。農夫たちがみんな規則に従っている間は、なかなかうまいやり方でした。しかし、不幸なことに、一部の農民が自分の財産状態をよくした

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共有地の悲劇2

 裏切りが人々の不信感を募らせ、結局誰もが損をする「共有地の悲劇」を招き、一度失われた信用は取り戻すことが容易でないと言われています。しかし、信用を回復する方法がないわけではありません。

 1982年9月、シカゴで7人の人が市販薬を服用した後に亡くなりました。テロリストが薬のカプセルにシアン化合物を混入したのが原因であることが判明しました。この薬の製造販売を行っていたP&G社は、この危機の当初か

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ズルを減らす十戒1

 「世界一長い川の名は?」
 「白鯨の著者名は?」
 「ギリシャ神話において愛の女神とされるのはだれか?」

 このような問題を50問、ハーバード・ビジネススクールの学部生及びMBAを対象としてやってもらいました。

 時間は15分。その後、答えをマークシートに書き写し、教壇にいる試験監督にマークシートを提出します。試験監督は、正当の数一つにつき10セントを支払います。

 最初はこれだけの実験で

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ズルを減らす十戒2

1 主が唯一の神であること
2 偶像を作ってはならないこと(偶像崇拝の禁止)
3 神の名をみだりに唱えてはならないこと
4 安息日を守ること
5 父母を敬うこと
6 殺人をしてはいけないこと(汝、殺す勿れ)
7 姦淫をしてはいけないこと
8 盗んではいけないこと(汝、盗む勿れ)
9 隣人について偽証してはいけないこと
10 隣人の財産をむさぼってはいけないこと

モーゼの十戒は以上のとおりです。こ

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ズルを助長するわな1

 先に紹介した実験(ズルを減らす十戒)で用いたのと同じ、二つを足してちょうど10になる組み合わせを探す問題(5分間で20問実施)を今回も使い、1問正解するごとに50セントを渡すことになっています。対象者はMITの学生で、おおむね均質な集団と考えられます。

 今回は、3つのグループに分けて行います。実験の始まりは同じですが、終わり方が違います。

① テスト後、解答用紙を提出させ、正答数に応じて5

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ズルを助長するわな2

 ばれないと分かっているときには、多くの正直な人達も少しばかりズルをします。その際、ズルをして手に入るのが現金の場合には抑制が利きやすいのに対し、現金ではなく、現金との引換券が手に入る場合は、抑制の利きが悪くなることを先に紹介しました。

 現金を使わないことによって、消費の際に抑制が利きにくくなることは、社会のデータが示しています。

 アリエリーが紹介しているのは、10年以上前のアメリカの例で

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場が引き出すバイアス1

 カロライナ・ブルワリーにおける無料サンプルビールの注文実験をアリエリーらが実施しました。研究費として1400ドルのビール代をMITが支払ってくれたようですが、MITの会計係には詳細な説明を求められ、苦労したと感想を述べています。

 無料のサンプルビールは4種類あります。それぞれがどんな特徴を持ったビールかを省略しても実験の要点は伝えることができますが、アルコール飲料の話になると関心が高まる人が

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場が引き出すバイアス2

 ダン・アリエリーの「予想通りに不合理」を読んできましたが、今回が最終回です。

 前回、無料のビールが4種類提供されるとき、4人グループ中で順々に注文を聞かれると、最後の人は、独自性を出そうとして、他の人の注文していないビールを頼み、満足感が得られないというような話題を取り上げました。

 この実験を香港でやってみると、独自性を出そうとするのではなく、逆に周囲に同調しようとする人が多いという結果

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