場が引き出すバイアス2

 ダン・アリエリーの「予想通りに不合理」を読んできましたが、今回が最終回です。

 前回、無料のビールが4種類提供されるとき、4人グループ中で順々に注文を聞かれると、最後の人は、独自性を出そうとして、他の人の注文していないビールを頼み、満足感が得られないというような話題を取り上げました。

 この実験を香港でやってみると、独自性を出そうとするのではなく、逆に周囲に同調しようとする人が多いという結果が見られたそうです。アメリカでの実験結果と方向は逆ですが、最後に同調して不本意な注文をした人が満足感を得にくくなるという点では同じです。要は、ヒトの集団の中で、自分の欲求よりも、周囲からどう見られるかを気にするために、自分の満足感を最大化することができないということです。

 「ヒトは経済合理性に基づいて行動する」ことを前提とした古典的な経済学では、こんな不合理なことは起こりません。

 バイアスをかけるのは、無料のビールの例では社会的要因ですが、認知のクセ6で書いた性の場合は、生物学的、生理的な要因です。ヒトは、様々な要因によって、経済合理的でない行動を選択します。

 なぜでしょうか。

 おそらく、それが生きる戦略だからでしょう。アメリカでは独自性を発揮することが、そして香港では周囲に合わせることが、その地域で生きていくために有利なのです。さほど魅力を感じない異性に対しても、挑発によって性衝動を刺激されれば、抑制が低下してしかるべき行為に及んでしまうのも、種を保存するための生存戦略です。

 生存戦略は、ヒトの社会においては、必ずしも経済合理的ではない行動をもたらすものだということでしょう。

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