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兄弟姉妹と一人っ子。

#20240211-356

2024年2月11日(日祝)建国記念の日
 今夜の献立は、親子丼。
 食が細いノコ(娘小4)がわりとよく食べるメニューのひとつだ。今もせっせと口に運んではいるが、お喋りも止まらないので食事がちっとも進まない。
 言葉と言葉のあいだに咀嚼そしゃくすることはできないのだな、とその動く口元を見つめながら思う。

 「○○の一番上のお兄ちゃん、朝、全然起きないんだって。だから、○○が起こさなくちゃいけなくて、大変なんだって」
 ○○ちゃんのお兄ちゃんは、確か大学生だ。
 曜日によって登校時刻が違うかもしれない。
 「せっかく起こしてもウッセーって怒るんだってさ。でね、△△さんちは毎日お葬式なんだって」
 話題が△△家に移ったはいいが、「毎日お葬式」がわからない。高齢の親族が立て続けに亡くなったのだろうか。
 「おじいちゃんとかおばあちゃんがお亡くなりになったの?」
 ノコが箸先を振り、わかっていないなぁ、という顔をする。難易度が高い。
 「ご飯のとき、お葬式みたいに誰も喋んないの。喋ると、お兄ちゃんがムカつくこというから」
 ノコは葬儀に参列したことがない。「お葬式」という表現は△△さんがいったのだろうか。
 「そんでね、みんなね、ノコは一人っ子でいいねっていう」

 私は思わず笑ってしまう。
 施設育ちのノコは子どもがたくさんいる生活のほうが馴染み深いのか、よく兄弟がほしいという。それとも、ノコを孤立させるわけではないが、どうしても3人家族だと大人と子どもという対立になりやすい。子ども勢を増やしたいのかもしれない。
 兄姉はもちろん、弟妹を産むことは難しい。ノコのほかに、里子を迎える手立てもあるが、まだ進級だの環境が変わるとノコの情緒が揺れ動くため厳しい。
 「そうだねぇ・・・・・・」
 私はもう食べ終えるというのに、ノコはまだ四分の一も食べていない。
 「たまぁに、やさしいお姉ちゃんやお兄ちゃん、弟や妹もいるかもしれないけれど、喧嘩もよくするかもね
 「そうしたら、ママ、大変だね」
 「疲れちゃうね」
 ノコが目玉をくるりとまわした。
 「ママママ、あのさ、□□先生が学校休んじゃったのって、私と◇◇ちゃんが毎日喧嘩してたからかな」
 3年生のときの担任教諭が後半休職したのを思い出したらしい。保護者への説明はなかったので、真実はわからない。
 「そう思うの?」
 「だって・・・・・・」
 とろみのあるなめこの味噌汁はなかなか冷めない。熱いものが苦手なノコはスプーンですくってちろりと舐める。
 「毎日毎日、まーいにち、喧嘩してたもん。先生、疲れちゃったんだと思う」
 そうかもしれないし、そうでないかもしれない。

 先日あった里親のランチ会で、小学3年生の里子を養育中の里母がいっていた。1、2年生の頃は男女関係なく遊んでいたが、3年生になった途端、女子と遊ぶようになった。仲がいいのか悪いのか、連日喧嘩をし、それなのに互いにくっつくのだという。
 まさに昨年のノコだ。
 ノコは幼稚園年長で我が家にきた。子育てはノコがはじめての私たち夫婦は、年長から現在の小学4年生までの子どもの様子なら少しわかるが、それより幼いと未知の生物だ。子どもがいなかった頃と変わらない。
 かわいらしさは感じるものの、心身にある記憶と重なることはない。
 妊娠にはじまり、乳児から4歳児までが記憶が抜け落ちたように空白だ。

 「公園でお兄ちゃんとその弟と遊んだんだけどね」
 どうやらお兄ちゃんは同じ小学校の1年生らしい。その子が弟と2人で公園へ来ていたという。
 「弟のほうがさぁー、公園から飛びだそうとしたからぎゅって掴んだらさぁー」
 公園は車道と面している。
 「バカヤローっていうし。危ないからっていっても、バカヤローバカヤローバカヤローって」
 ノコが口に入っていたおかずをようやく飲み込んだ。
 「あれは傷ついたなぁ。あんなにいうことないじゃん」
 「弟だからって、いつもお姉ちゃんお姉ちゃんって甘えてくれるわけじゃないしね」
 私は食べ終えた食器を重ねると、手を合わせた。
 「ごちそうさま」
 「一人っ子でいいかなぁ、私
 流しに向かう私の背にノコがいうので、思わず笑ってしまった。
 兄も、姉も、妹も、弟も。
 難しいけどね。
 一人っ子もいい、と思うようになったんだ。

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