「買って/買わない」「被って/被らない」「つける/つけない」ともめる、もめる。
#20231108-283
2023年11月8日(水)
習い事が終わり、外に出るととっぷり日が暮れている。
家に着いたら、すぐノコ(娘小4)をお風呂に入れて寝かせて・・・・・・と気が急く。
小学校はインフルエンザが流行中で他学年ではあるものの、学級閉鎖が続出している。ノコは熱もなく、元気だが、朝晩に少し咳をすることがある。季節の変わり目、アレルギー的なものかもしれない。高熱が出ない限り、安静なんてできないので、とにかくよく寝てよく食べ、身に迫る病原菌と戦ってほしい。
「さぁ、帰ろう。パパが待ってる」
足早に駐輪場へ歩きはじめると、ノコが立ち止まっていう。
「ママ、水、買って」
いくらいってもノコは水分補給をしない。学校に持って行った水筒がそのままの水量で帰ってくるのはざらだ。珍しく飲んだのか。
ちょうど口をつけていない私の水筒があるので、ノコの水筒に移せばいい。ノコはミネラルウォーターを嫌い、水道水派だが、「買って」というだから今はミネラルウォーターでも構わないのだろう。
「ママの口つけてないから、水筒に入れてあげるね」
「ヤダ!」
間髪入れずノコは叫び、水筒を押さえた。
「ママのはヤダ!」
「口、つけてないよ? 買ったお水と同じだよ?」
「なんで飲んでないわけ!」
ノコの習い事待機中にカフェで読書しているからなんだけど、それはいわない。
「買って!」
「買いません」
「買って!」
ノコは私を憎々しげに睨んで、人が行き交う夕闇の駅前で足を踏み鳴らした。
「お水がないのならともかく、あるんだもの。そんな無駄遣いはしません」
ペットボトルの1本くらい買ってあげればいいのかもしれない。だが、これから出掛けるのではない。水は私の水筒にあるし、自転車で走れば家に着く。
「ママのいうことって、私の思った通りだね!」
こういうとき、下手にノコに触れれば、ヤカンのように沸騰する。手を引いたりすれば、癇癪の引き金にしかならない。
「帰るよ」
じっとノコを見てから、私はゆっくり駐輪場へ向かった。
駅前のバスロータリーは、クリスマスに向けてライトアップをしている。街灯に店先の明かりといくつもの光源が路上に影を作っていた。振り返らなくても、ノコがついてきているのは小さな影でわかる。
駐輪場に着くと、まずノコの子ども用自転車を傾斜ラックから引き抜き、ノコが乗れるようにする。
それから、ずっしり重い私の電動アシスト付き自転車を出す。
仕事からひと足早く帰宅しているむーくん(夫)に駐輪場を出ることを連絡する。帰宅したら、ノコがすぐに入浴できるようお湯張りもお願いする。ペダルに足を掛けて振り返ると、ノコがヘルメットを手にしたまま私を睨んでいる。
「ヘルメット、被ってね」
「被りたくない」
ノコの機嫌は低迷したままだ。
「ノコさん、危ないからヘルメット被ってね。頭打ったら、大ケガだよ」
「ヤダ! 被らない。邪魔だし、被りたくないし」
水を「買って/買わない」の次はヘルメットを「被って/被らない」か。
「学校でも警察の人が来て、ヘルメットが大事だってお話したよね。被らないのなら、いいよ、自転車を押して帰ろう」
「ヤダし。取れちゃったから、被れないし」
なぜ、それを先にいわないのだろう。
ノコからヘルメットを受け取ると、確かにベルトを顎下でつなぐプラスチック製のバックルが片方なくなっている。往路はあったのだから、ノコの自転車を駐めた付近に落ちていそうだ。
急ぎ探しに向かおうとすると、ノコが怒鳴った。
「探さなくていいから!」
「だって、行きはあったんだから、あの辺に落ちてるよ。ヘルメットが被れないのなら乗れないよ。本当に押して帰ることになるよ」
ノコは上着のポケットに手を突っ込んだままいう。
「ここにあるし」
「じゃあ、ちょうだい。ベルトにつけるから」
「ヤダ!」
次はバックルを「つける/つけない」か。駐輪場でもめている限り、いつまで経っても家に着かない。
早く寝て免疫力を上げてほしい。
体調を崩してほしくない。
元気でいてほしい。
それだけなのに、それだけなのに。それをノコ自身がぶち壊す。
家に着いたら、ノコのお世話はむーくんに丸投げしよう。
今日はもうこれ以上ノコに関われば、こじれるばかりだ。