実子と里子、通ずるところと違うところ。
#20230809-193
2023年8月9日(水)
今日はノコ(娘小4)と遠出だ。
ノコの習い事の特別レッスンがいつもの会場ではなく、片道1時間半の会場で行われる。1時間半といっても交通機関の接続がよければの話なので、途中トイレに行きたいなど不測の事態を考えると、2時間前には家を出なければならない。
ノコが我が家に来て4年。
慣れない場所へ連れて行く度にむーくん(夫)に年休を取得してもらうわけにもいかないので、私も連れていくが、未だに緊張する。気が重い。
ノコがむーくんより私と2人きりでいるときの方がワガママになるせいもある。
「トイレに行こう」と誘っても行かない。
駅のホームにある自動販売機の前で「これ飲みたい」と動かなくなる。
ちょっと急いで手を引けば、「足痛いから歩けない!」と全体重をかけて踏ん張る。
後ろに並ぶ人がいるのに、突然歩きはじめたばかりの幼児のように階段をよちよちと下りだす。まず右足を置いて、次に同じ段に左足を置いてと1段に両足をつく。
まぁ、遅刻しても死ぬわけじゃあない。
親が焦って急けば急くほど、子どもは反対のことをしはじめる。
――よくあることだ。
そう自分にいい聞かせて気持ちを切り替えるのだが、トイレ宣言がいつも突然過ぎる。慣れない場所だと頭が真っ白になる。
「ママ、トイレ!」
「さっき、『トイレに行く?』って尋いたときは『出ないから行かない』っていったよね?」
今、いっても仕方がないことをついいってしまう。
「だって、さっきはしたくなかったんだもん。ねぇ、漏れる!」
あぁ、そうだよね。尿意センサーがまだ未発達だものね。
――まぁ、これだってよくあることだ。
ふう……
17時からのレッスンなので、会場近くで早めの夕飯にする。
ノコ希望のファストフード店に入る。ありがたいことに全国どこにでもある。私が食べたいものはないのだが、ノコが食べることが最優先だ。揚げ物だろうが、炭酸飲料だろうが、もう食べてくれるだけでありがたい。
店内に入ると、同じレッスンを受ける母娘が2組いた。
ノコは馴染みの顔にはしゃぎ、駆け寄る。私とノコも混ぜてもらう。
隣接しているが、子どもたちは子どもたち、母たちは母たちのテーブルにわかれる。普段は小食のノコも友だちがいるとパクパクとよく食べる。チキンナゲットにフライドポテト、ほかの子が「もういらない」といったものにまで手を伸ばしている。
私たち夫婦が里親であること、ノコが里子であることは隠していない。
むしろ委託直後はオープンに周囲に話していた。それが次第に話さなくなっていった。
今、ここにいるメンバーは、だれも私たちが里親子であることを知らない。
母たちのテーブルでは、何度同じことをいっても子が改めない、これはどうしたもんだ話で盛り上がっている。
たとえば、食事のマナー。左手が登場しないのは、ノコに限らずこの面々では「普通」のことらしい。食器に添えられることなく、左腕は垂れたまま。
「いわれるほうだって嫌だと思うんだけどね。注意してせっかく左手を出したのに3秒後にはまた左手が消えてるわよ」
「みっともない食べ方でゲンナリするわよね」
「いつになったら、気付くんだか……」
「いい続けるしかないんでしょうね……」
そろって、母たちが遠い目をする。
「でもさぁ、たまぁに食べ方がきれいな子っているわよね」
「いるね」
「たまぁーにね」
「あれって、どうやればなるんだろう」
さらに遠い目になる。
母たちの延々と続く愚痴なのか、悩み事なのか、諦め事なのか、わからない話に私は安堵してしまう。困った笑みを浮かべながら、コクコクとうなずく。
――実子も里子も関係ない。生もうが生まないが関係ない。
実子の子育て経験がないため、はっきり比べることはできないが、実子と里子は通ずるところもたくさんある。
特別レッスンが終わった帰り道。
同じ方面へ帰る親子が集結していく。
電車内では、大勢で帰るのが嬉しくてじゃれあう子どもたちに声を絞るよういう。賑わいが大きくならないよう目を配りながらも、親たちは親たちでお喋りを続ける。
ノコがある父娘のあいだに割って座った。その父親は日頃の送迎を見ていてもとても面倒見がよく、今も娘らの相手をしてくれている。手遊びにちょいとおふざけも交えて、「ずるい!」「もう1回!」など盛り上がっている。
相手をしてくれる大人が大好きなノコがその父親に抱きつかんばかりに興奮している。
――あぁ、距離が近過ぎる。
母親であっても違和感を覚える距離なのに、まして父親だ。
「ノコさん!」
思わず、本当に抱きつく前に制止せねばと声が出てしまう。少し離れるよう手の動きで伝えると、ノコが私を睨みつけ、「あっちへ行け」とばかりに私を足で蹴る仕草をする。
ノコにからまられるとしんどいのに、ノコがよその親と親密にしていると胸がざわりと落ち着かない。
妬きもちとは違う。
多分、きっと、妬きもちでは、ない。
「ノコちゃん、人懐っこくていいわよねぇ」
その言葉を今の私は笑って受け流せない。
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