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母に死後を託されたら「ヤダァ!」だし、母の死はもっと「ヤダァ!」なのだ。~「虎に翼」第12週59話から~

#20240620-418

2024年6月20日(木)※ネタバレあります。
 NHKの連続テレビ小説「虎に翼」にハマっている。
 登校するノコ(娘小5)を居間の窓から見送れば、すぐ8時になる。私はTVテレビの前に正座して番組がはじまるのを待つ。

 ノコとむーくん(夫)は、毎回は観ていない。
 大抵、夕餉の食卓で私が本日の内容を興奮しながら身振り手振り交えて説明してしまうので、それで観た気になってしまうようだ。
 いや、観てほしい。
 でも、語りたい。
 困った!
 昨夜は珍しく録画を3人で観た。私は朝観て、昼も観たので3回目だ。寅子ともこの母親であるはるが倒れたシーンで終わった。

 小学校から帰ったノコがおやつを食べている。
 これから習い事があるので、テキパキおやつを食べ、テキパキ宿題をやってほしい。
 「昨日の、どうなった?」
 ノコが棒付きキャンディをくわえたまま、首を傾げた。
 「なんのこと?」
 「虎! お母さんが倒れた」
 私としてはいつまでもキャンディをしゃぶっていないで、宿題をはじめてほしい。
 「お母さんはお亡くなりになりました・・・・・・」
 「えええええ! どうして、どうして! どうして死んじゃったの!」
 ノコが両腕を広げて近寄り、抱っこしろとアピールする。
 しぶしぶ私がラグの上に正座をすると、ノコがすとんと膝の上に向き合って座った。
 「え-、(語りを)やるんでしょうか」
 「知りたい! どうして死んじゃったの!」
 「今、やるべきことは宿題だとママは思うのですが」
 「続きが知りたくて、ママママ、宿題できない!」
 膝の上でノコが大きく体を揺さぶる。小柄とはいえ、ノコはもう30kg近い。正座していても倒れそうになる。
 私は天井を見上げる。
 宿題も大事だが。大事だが――こういうひとときも大事なのだろうなぁ。

 腹をくくり、私は今日のあらすじを語りはじめる。
 「ヤダァ……ヤダッ、ヤダッ! 死んじゃヤダッ! お願い、いなくならないで。ずっとそばにいてよ! 寅子ともこが叫ぶとね、お母さんがやさしくいうの。
 母さんはね、なぁんも悔いはないの。悔いは何ひとつない。この家のことは2人になら任せられる。先のことはよろしくね」
 死を前にして、はるは自分の死後のことを娘である寅子とその親友であり、戦死した息子の嫁である花江はなえに伝える。花江は目を赤くして泣きながらも静かに「はい、任せて」と答えるが、寅子は駄々っ子のように「ヤダァーーー!」と叫ぶ。娘もいる成人女性が幼子のように泣きながら布団に横たわる母親にすがりつく。 
 「ヤダヤダヤダーッ!!!」
 ノコまでも体を大きく揺らしながら叫ぶ。ラグに接した足首に2人分の体重がかかる。
 「痛い。ノコさん、揺れない。ママ、痛いって」
 私ははるさんの口調を真似て続ける。
 「寅子ともこ……『はい』といいなさい。『はい』と」
 ぴたりとノコが静止した。
 「ママママ、ママママ。なんでヤダっていっちゃダメなの? 寅のママが死んじゃうんでしょ。嫌じゃん。ママが死んだら嫌じゃん。嫌なのになんで『はい』っていわなくちゃいけないの。私……ママが死んだら」
 ぎゅうと強くしがみついてから、ノコは先よりさらに激しく、もはや暴力的に体を揺らした。
 「ヤァダ、ヤァダ、ヤァダ!!!! ママは死んじゃダメ! 死んじゃダメ! ママが死ぬなんてダメー!!」
 声もさらに大きくなる。
 ノコのいう通りだ。はるのように頼れる母が世を去ることは嫌なことでしかない。
 「お話だよ、お・は・な・し」
 私はノコの背をなでる。ノコは私の胸に顔をうずめた。
 「ねぇ、ママママ。想像したら悲しくなっちゃって、もう宿題できない」
 しおらしくノコはつぶやく。
 「ええええ、お話してっていったの、ノコさんでしょ。もうすぐ習い事の時間だから、漢字ドリルだけでもやっちゃって。習い事から帰ってからやるのはしんどいでしょ」
 「ヤダァ、ヤダァ、ヤダァー!!!」
 ノコが膝の上で大きく揺れる。
 「ママだって、ヤダァ、ヤダァ、ヤダー!! ほれ、早く宿題やっとくれー!」
 抱き締めたまま、負けじと揺らすとノコはのけぞって笑う。
 「ほれほれ、宿題やっとくれー!」
 「ヤダァ、ヤダァ、ヤダァー!!!! ママが死ぬのは許さなーい!」

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