「なんで赤ちゃんがほしくなくてもセックスするの?」子どもへの性教育、どうしていますか?
#20240207-354
2024年2月7日(水)
70代後半になる母は、世代によるものだろうか、性的な話題をしたがらない。
出産経験があるのに、「わからない」「知らないわ」という。自分の体のことを知らないほうがずっと不安だと思うのだが、避ける。
私の子ども時代は、高度経済成長期が過ぎた頃とはいえ、日本はまだ週休1日が一般的で、働き盛りの父の帰宅は遅かった。それでも日曜日になれば、公園やハイキングと出掛けていたのを覚えている。時折、ゴルフ――今思えば接待だったのだろう――で早朝から出掛けてしまうときもあったが、限られた時間のなかで家族との時間を大切にしていたと思う。
だが、両親から性教育を受けた記憶はない。
当時、TVの2時間もののサスペンスドラマには、お決まりのようにベッドシーンがあった。母はさりげなく席を立ったり、父は本当か嘘か眠そうに瞼を閉じたりしていた。
「あれ、何してるの?」
そう尋ける雰囲気ではなかった。
父が好んでいたらしく、動物番組もよく見た。
「野生の王国」というドキュメンタリー番組が多かったように思う。サバンナで肉食獣が獲物を狩る様子や群れで暮らす草食獣の出産などが夕餉の食卓に流れた。
母は血がしたたる肉食獣の食事風景に顔をしかめたものだった。
「お食事中にやめてよ」
私はTV画面のなかの野生動物も、外にいる私たち人間もどちらも食事しているだけなのに、なぜ母が嫌がるのかわからない子どもだった。
人間も動物だという意識が強かったため、動物の交尾を通して人間の性交を理解した。もちろん学校でも教わり、性の知識が補足されていくのだが、根本的なところは動物番組にある。
両親から性教育を受けなかったこともあり、親子間で性に関わる会話が難しかった。
私は子どもを育てる機会があったら、性に関することを自然に話し合えるようになりたいと思っていた。
里子であるノコ(娘小4)は、幼稚園年長児に我が家に委託された。
私の生理痛が重かったこともあり、わりと早くに生理の説明をした。鎮痛剤を服用してもなかなか痛みが引かないし、外出すればトイレの個室に一緒に入っていた。入浴もある。
ごまかすより、正しく伝えるほうがよいと判断した。
生理の説明から性の話へと少しずつ広がっていった。
「ママママ、なんで赤ちゃんがほしくなくてもセックスするの?」
よい質問過ぎて、笑ってしまう。
ノコは疑問をすぐ私に投げてくれるので助かっている。
性のことに限らず、生い立ちや実親についてもまず私たち里親に尋ねれば教えてくれるという信頼関係が築けているのは嬉しい。
「すっごくいい質問だね。セックスはね、赤ちゃんを作る方法だけど、それだけじゃないんだ」
私はノコを抱き寄せ、膝にのせる。
「大好きだよー、愛してるよー、ということを伝える方法でもあるの」
ぎゅうぎゅうと私に抱き締められて、ノコが笑いだす。
「大好きー、大好きー、大好きー」
それから、腕をふっとゆるめ、ノコの目をじっと見る。
「でもね、赤ちゃんを作る方法でもあることを忘れちゃいけない。大好きだけでセックスして赤ちゃんができても育てられるかは別でしょ」
ノコの目から笑みが消える。
「まだ働いていなくてお金もなくて、お料理や洗濯とかお家の仕事もできない人が赤ちゃんを育てられるかな?」
「……育てられない」
うつむいて、ノコが首を振った。
TVのニュースを通して、児童虐待や育児をせず子どもを死亡させる事件をノコも知っている。
「まだ育てられなくて、児童相談所さんに『助けて』っていえるのならいいけど、そういう人ばかりじゃないのはノコさんも知ってるよね。ノコさんのパパとママは育てられなかったけど、ノコさんに生きて幸せになってほしいから児相さんにお願いできた。今はノコさんが森谷のお家に来てくれたから嬉しいけど、いろいろ大変だったよね」
しんみりしてきたので、私はノコのやわらかい頬をふにふにと揉む。
「だから、大好き大好きでセックスしちゃう人もいるけど、ノコさんは赤ちゃんができることも忘れないで」
ぎゅうと強くノコを抱き締めると、ノコも強く強く抱き返してきた。
今日の説明はここまで。
あまりあれこれ詰め込んでも、まだ小学4年生だ。忘れてしまう。
まずは、肝心なところが伝わればいい。
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