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工芸士×グラフィックデザイナー 理想を追求したテーブルウェア #作り手インタビュー vol.1 Kiwakoto(1/2)


from Magazine インタビューシリーズでは、fromで取り扱うプロダクトの生産に携わる方々にものづくりの背景をお伺いしています。

今回はお花を象ったテーブルウェア等を展開しているブランド『Kiwakoto』(キワコト)の 株式会社A・STORY ディレクター・吉村 優さんにご登場いただきます。

ブランド名は、古語で「格別であるさま」という意味を持つ「きわこと(際殊)」に由来し、その名の通り唯一無二のプロダクトを生み出しています。


こちらのインタビューは音声でも配信しています。
Apple:https://apple.co/3ELdQiH
Spotify:https://spoti.fi/3xJJc82


聞き手:yuki shinohara / megumi endo / yui sakida (from by nae Inc.)



日本ならではの“KOGEI” を世界に向けて発信する、Kiwakotoのものづくり


篠原 
本日はインタビューをお受けいただきありがとうございます。まず、A ・STORYという会社のことや、ブランドKiwakotoをご紹介いただけますか。


Kiwakoto Director 吉村 優(以下、吉村) Kiwakotoは、京都の伝統工芸の技を生かした・プロダクトやサービスを生み出しています。

ブランドのスタートは、「伝統工芸 × カーライフ」という発想です。こだわりを持った方々が乗る”車”に工芸がうまくマッチするのではというところから始まりました。今fromで取り扱っていただいているテーブルウェアのシリーズは去年夏に販売を開始しました。

車を装飾するビスポークサービス・クラフトカーで、車の内装で使う生地、インテリアパネル等に装飾する箔や漆の技術なども含め、車を通して京都のいろいろな伝統工芸士の方々とネットワークを築く中で、工芸についていろいろと考える機会をいただきました。私はディレクターという役割で仕事に従事させていただいていますが、工芸士の方々とお話している中で、日本ならではの「工芸」という概念にすごく共感しました。「工芸」って英語では翻訳できる言葉が存在せず、ローマ字で「KOGEI」になる。


海外だとアーティスト(作家)/アルチザン(職人)は二極化しているのですが、日本の工芸士は作家(アーティスト)として自分の思う最高の作品を作り、世の中に発表しながら、もう一方ではお客様のニーズに応えていく職人(アルチザン)的な動きを取る。作家(アーティスト)と職人(アルチザン)を行ったり来たりしながら、市場のニーズや求められる技術を常に磨いていく。同時に感性も磨いていくという職業って、あるようでないと思います。そんな工芸士の生き方、工芸のあり方に、ブランド立ち上げ当初から強く惹かれてきました。そして、一点物を作る作家的な部分と、機械をうまく使いながら量産で物作りをする、この相反するものをうまくミックスさせて発信していくにはどうしようかと考えた結果、コロナ禍で、家で過ごす時間が非常に長くなっている今、日本の美意識を器に落とし込んだテーブルウェアのシリーズを開発するきっかけになりました。


篠原 記事でラグジュアリーカーとコラボしているのを拝読しましたが、あれがビスポークのサービスですね。


吉村 はい。ブランド立ち上げ時から提供しているクラフトカーというサービスです。ブランドを立ち上げるとき、今まで伝統工芸と車・カーライフを掛け合わせているところってないよね」と話し、工芸だけで世の中に発信していくのは限界があるので、何かしら掛け算を生み出していこうと考え、車・カーライフをフィーチャーしました。ブランドをリリースしたのが、2018年の「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 」でして、その時のイベントのメインスポンサーがBMWさんでしたので、BMWの車の内装を変えたものを展開したのが始まりです。実績やノウハウを積み重ねていくことで、BMWさんが展開された日本の匠との共演。日本の工芸を活用した限定車のプロジェクトをご一緒させていただいています。

篠原 レクサスとかもそうですけれど、最近車に日本の伝統技術を使うところも結構増えてきていると思うので、そういった流れとも非常にマッチしたんですね。


吉村 クラフトカーやカーライフを中心にとらえた商品開発では、いわゆる“一点物”の「個体差があって楽しい」「人と被らない」といったところを大事に取り組んできました。テーブルウェアシリーズでは、先ほど申し上げたような、より多くの方のライフスタイルに取り入れていただける、職人と作家の中間に立つ商品を提供したいという思いからスタートしました。完全に機械によるオートメーションではなく、職人の手仕事が生産工程には入ります。個体差があることが美しく魅力となるテーブルウェアを追求し、一定の品質を保ち、数をつくることのできる体制をKiwakotoが中心となって構築することで、職人がより多くの仕事を手掛けることができるのです。このような新たなものづくりにチャレンジしています。


コロナ禍での新たな挑戦 後発としてのテーブルウェアブランドの在り方


篠原 お花を象った器等のテーブルウェアの展開にあたり裏話や開発の苦労をお伺いできますか。

吉村 世の中にテーブルウェアはすでにたくさん出ている中で、後発の後発である我々がやる意味、どう展開していくのかなどいろいろ頭を悩ませました。コロナで外に出られなくなって、より日本人が元々持っている自然への賛美や、自然と共生すること、自然を愛でる感性をうまく食卓に持ってくることができないかなというところから、和花をモチーフに、家紋を作るように図形に落とし込んで器にすることにしました。海外の方から見ても日本の方々にとっても、愛でる象徴でありつつ普段使いできるものに落とし込むというのがテーブルウェアシリーズで試みたことです。



篠原 グラフィックデザイナーとコラボレーションして作られたとお聞きしましたが、どういうきっかけがあったのか、背景も教えていただけますでしょうか。


吉村 海外の方々がぱっと見て「SAKURAね」っていうことではなく、もう少し深いところで「日本の美意識・物作りっていいよね」と感じていただけるようなアイテムにしたかったので、プロダクトデザイナーではなく、情報を視覚的に第三者へ伝えることをミッションとしているグラフィックデザイナーを起用し、「伝統工芸の魅力」という情報を視覚化することにしました。

ものをデザインするのがプロダクトデザイナーと呼ばれる方々だと思うんですけれども、グラフィックデザイナーはどちらかというと、どう見せていくのか、どうやってストーリーを世の中に届けるのかということも含めて形にしてくださる方々だと認識しています。プロダクトデザイナーはものを作ることのノウハウはすごく持っていて、この機械であればこういう設計図であれば綺麗にできるんじゃないかというようなことはいろいろ考えてくださるということは、これまでの経験上、理解をしていました。

けれど今回の器で我々は後発も後発。「こんなものあったらいいよね」とか、「こういうふうなものが今世の中に求められてるんじゃないか」という理想だけで作っていただいて、あとは自分たちで培ってきたネットワークやノウハウを駆使してなんとか形にするということをやりたくて。グラフィックデザイナーというストーリーを作ること、絵にすることに長けている方と組んで、やらせていただくことにしました。

篠原 素晴らしい取り組みですね。僕はプロダクトデザイナーですけれど(笑)、嫌な意味ではなく、ものづくりのプロセスとしてはすごくいいやり方だと思います。プロダクトデザイナーも実際はそういう理想像を描いて、技術面ではちょっと無理をお願いしながら進めたい思いが最初はあるんです。けれどやっていく中で、製造ノウハウがあるがゆえに、「これは難しいよな」とか、「これをお願いするのは気が引けるな」というようなバイアスが入ってしまう部分もあって。その部分を知らない方にあえてお願いすることで、バイアスを払拭して理想を追求したものづくりができると思うので、良いプロセスだなと思います。


吉村 我々はモデリングの作業を大事にしています。今回の器で一番大変だったのが、二次元のデザインを、作家が三次元にしていく過程でした。

作家の感性をうまく取り入れたかったので、器の幅の「一番大きい部分は26センチでお願いします」というようなことだけ伝えて、それ以外の高さや深さ・ディテールは、作家さん自身の考える使いやすさや美しさを形にしてくださいとお願いしました。



初めはプレートに寄ったものが上がってきて、「ちょっとこれはさすがにプレート過ぎる。洋食屋さんに出すものではないから違うんじゃないか。」といった話になり、作家さんも「じゃあもうちょっと深くがいいかな」と理解していただいて、そうすると次は思ったより深いものが上がってきて「うどんを食べるにはいいけど普段使いは難しいかも。」といったことの繰り返し。

二次元で制作した図を元に、工芸士さんと「これがいいんじゃないか」「もっと淵は丸みをだしてほしい」「繊細さや緊張感を感じるようにもっと薄く」とラリーのようなやり取りになりました。職人的なところもある工芸士ではあるものの、自分がこれいいと思ったものを世の中に出している作家的側面もあられるので、ブランドとしてものづくりをしている我々としてはどこまで追い求めるのかのせめぎ合いが難しいポイントでした。



篠原 なるほど。グラフィックデザイナーの方は、いわゆる上面図と呼ばれるものだけを納品して、側面図的な、高さにあたる部分は作家さんが詰めていく、という形でやったということですよね。

吉村 そうですね。

篠原 本当に新しいコラボレーションのあり方ですね。プロダクトデザイナーだと、側面含めた3次元のモデルを作って、全部やっちゃうので。



吉村 モデリングをしたものをうちの従業員にみてもらったり、実際に使ってもらって「使い勝手どう?」といったやり取りを経て、プロトタイプを決めて量産フェーズに入りました。器を量産していくときの基準をきっちりわかった状態でやったわけではなく、手で作る最終系をなんとか量産化したいという思いでしたので、型屋さんと呼ばれる量産をするために型を作っていただくところに行ったときに、「こんな薄いものは作れないよ」と言われてしまったり。

篠原 うん。


吉村 「だけど僕らはこれを作りたいです」と掛け合って。2次元を3次元にすることと、立体にした個体を量産することの二つ、ハードルがあると感じました。

側から見たら「君達おかしいんじゃないの」と思われるんだな、と理解したエピソードがあります。我々は今回「鋳込み成形」という、泥を流し込む穴がある型に、空気が入らないように圧力をかけながら土を流し込んで器の形にする技術を用いているのですが、鋳込みだと、器に一定の厚みがないと型から取り出せなかったり、ハマというところに圧力がかかることによって下がってしまったりなど、難しいんです。なので、世の中にある量産の器はある一定以上の厚さがあるのが一般的。プロトタイプ通りで最終形態ができないのであれば、途中までは鋳込みでやり、もう一度職人に戻して職人がそれを削ってという手段を使ってでもプロトタイプに近づけるしかないね、と。それで、鋳込んだ土を乾かし、我々が職人の元へ届けることにしました。

焼く前の生の粘土の状態を運ぶのですが、普通の粘土が固まっただけの状態なので、初めの方は運び方もわからず、車でちょっとした道でガタンとなってしまうだけで折角運んだ半分ぐらい割れてしまって。

「そりゃそうだろう」「粘度の状態で運ぶ人がどこにいるんだ」と、他産地さんには言われましたけど、それを徐々に積み方等工夫することによって、今ではほぼ割れずに持ち運びができるようになっています。そこまでこだわることで、この薄造りならではの表現ができているというのが、我々がブランドとして展開することで、今までやってこなかったことを実現できているのかと感じているところですね。



篠原 面白いですね。誰もやりたくないところをやるからこそ可能な差別化に繋がっているんですね。実物を見ていただくと本当に薄くて、ちょっと緊張感が生まれるくらいなんですよね。本当に良いプロダクトだなと僕も拝見して思って。最初吉村さんと出会ったのはギフトショーなんですけれども、弊社の遠藤と一緒に「なんか目を引くね」とKiwakotoのブースの前で一瞬立ち止まってしまったんです。職人さんがそうやって手間を加えていると伺って納得しました。



篠原 実際購入したお客さまからはどういうお声や感想がありますか。


吉村 リアルの店舗・催事含め、いろんな場所でお客さまと接点を持たせていただいているんですけれども、買われる前は「割れそうだけど大丈夫?」とか。

篠原 うん。


吉村 不安要素から入られる方々が結構多いです。けど、「食洗機使えます」「電子レンジ使えます」「長石っていう石を多く含んで作っているのでシミになりにくいです」とお伝えすると、「そうなの」と。「割れそうなのに」「焼き締めのお皿ってシミになりそうなのにそういうことにならないの」となって、「一度使ってみるわ」とご購入いただいて、その後ありがたいことに同じ形の色違いのものをご購入いただいて、「集めるのが楽しくなってきた」と言っていただいたり。日常の中に取り入れていただきたいという思いで展開したものなので、「思ってたより本当に使いやすくて、大事な日しか使わんものかなと思ってたけど、毎日のように使ってます」というお声など、きちんとお客さんに届いているのを聞くと非常にありがたいですし、嬉しいです。


篠原 僕たちも見ていてテンションが上がるのでその声はわかります。

僕は「空」のシリーズが好きです。fromではまだラインナップとしては「ASAGAO」などしか扱っていないんですけれど、実はもっといろんな形のお花の種類もあるので、季節に合わせて、弊社でもシリーズを増やしていきたいなと思っています。


ASAGAO 空

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