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幸福日和 #064「問いを愉しむ」

みなさんは「問い」と「答え」の
どちらが好きですかと聞かれて、
どちらを選びますか?

もちろん選びきれるものではありませんが、
あえて選ぶとするならば、
僕は答えを発見することよりも、
悩みながら「問い」に向かっている時間が、
好きなのかもしれません。

この世界に答えは無数にあるけれど、
自分が向き合える問いは、驚くほど少ない。

だからこそ「問う」ことを大切にしてゆきたい。

そして、答え無き時間を愉しんでゆきたい
そんな気持ちもあります。


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僕自身、20代、30代の頃は、
問うことよりも、闇雲に答えばかりを探し求めて、
社会を這いずり回っていました。

日常生活を振り返ってみると、
僕たちは「問う」ことよりも「答え」ばかりを
優先しながら毎日を過ごしている気もします。

例えば「お金」。
収入を得るために血眼になって
稼ぐ方法ばかりを必死に探し出そうとするけれど、
そもそもなんのためにそのお金が必要なのかと
自分にきちんと問えるだろうか。

また、肩書きを得ることに一生懸命になるけれど、
そこにこだわるあまり、本来の目的を放置したまま
競争の中で周囲の人を傷つけてはいないか。
その肩書きを使って自分が何をしたいのかを
自分に正しく問えるだろうか。


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4年前、フィレンツェでの思い出。

現地に滞在する友人の紹介で、
とあるアトリエを訪ねたことがあるんです。

そこに住んでいたのは
すでに80歳近くの金細工を手がける一人の芸術家。
彼は建築の窓枠を華やかに彩る装飾物から、
指輪の細やかなデザインまで手がけていました。

その仕事の全てが繊細で、
優しさと想いが込められていて、
アトリエに置いてある彼の数々の試作品を眺めながら、
世界には人の目に触れられていない美が
そこら中にあるのではないかと思った。

その人が言った言葉が今でも忘れられないんです。

「若いアーティストはすぐに美しいものを作ろうとするでしょう?」
「でも本当は、何を問うかこそが大切なんですよ。」

彼が言うには、
作り始めた先に作品や仕事があるわけではなく、
何かを作り始める前の「問い」にこそ
その真髄がすでに宿っているというんですね。

手を動かす前に、
その目を通じて世界をどのように眺めているのか。
その問いこそに大きな意味があるのだと。

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「どうやって感覚を磨いてこられたんですか?」

ふとそんなことを訪ねてしまったんです。

「そうだね、どうして美しいと思えるものが、そう感じるのかを(自分に)問い続けることですよ」

歳を重ねたその芸術家は、
優しい笑顔でそう答えてくれた。

例えば自分が美しいと感じたり、
心地がいいと思える音楽を思い浮かべてみる。

そうしたら、
どうしてそれが心地良いと思えるのか、
美しいと思うのかをひたすら自分に問い続けることが大事なんだそうです。

ここで大切なのは、
他人にとって美しいものではなく、
自分が美しいと思えるものを見つけ問い続けていくということ。

なぜ、この色を使っているのか、
なぜ、この形で支えているのか、
なぜ、この楽器で奏でているのか、
なぜ、この音のリズムなのか。

とにかく腑に落ちるまでひたすら
問いを掘り下げて続けていくと、
その分だけの深みのある視点が身につくのだそう。

見方を変えれば、
時代をこえて伝わえるものの多くは、
作り手の「途方も無い自問自答の繰り返し」によって内側から支えられていることに気がつきます。

問うことで見えてくるもの、
問うことで深まること。

そこに自分にとって大切な何かがあるのだと思います。

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みなさんにとっての問い。
それはなんでしょうか。

今日向かおうとしている場所、
手にしようとしているもの、
取り組もうとしている仕事や、
読もうとしている本まで。

どうしてそこに向かうのかと自分へ問いかけてみると、
自分の根底を支える大切なものが
浮かびあがってくるのかもしれません。

長く一度きりの道のりだからこそ、
無数の答えに翻弄されることのないよう。

数少ない「自分だけの問い」と
じっくりと向き合ってゆきたいものですね。


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