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NLP 学習進化の5段階モデル―深層能力の抽出 ―良いプレイヤーが良いコーチになるとは限らない

 さて、セラピーでも、スポーツでも、さまざまな芸事や技能を学び、そのスキルを高めていくプロセスには、或る共通した習熟(進化)のプロセス/パターンがあります。

 NLP(神経言語プログラミング)の中では、そのような学習進化のプロセスについて、5段階の発展モデルが知られています。

 つまり、人は、何かのスキルを高めていく時、次のようなプロセスをたどって、その能力を高めていくというものです。
 実は、このモデルは、とても有効なものであり、NLP(神経言語プログラミング)のような浅い技芸よりも、より深い次元での習得プロセスを有するものに当てはめた場合、より示唆に富むものとなっているのです。

①第1段階「無意識的無能」  …何も知らない。
②第2段階「意識的無能」   …意識してもできない。
③第3段階「意識的有能」   …意識すればできる。
④第4段階「無意識的有能」  …意識しなくてもできる。
⑤第5段階「無意識的有能(能力)に対して意識的有能(能力)」 …他人に(秘訣を)教えることができる。


これは、たとえば、楽器の演奏など、何か芸事を学び、上達させるプロセスをイメージすると分かりやすいでしょう。

①第1段階「無意識的無能」 …何も知らない。

 第1段階は、そもそも学ぶ対象が無い状態です。そこでは、私たちは、何も不足することなく、安穏としています。しかし、成長するということもありません。

②第2段階「意識的無能」 …意識してもできない。

 第2段階は、何か学ぶ対象ができて、それを学びはじめた当初の段階です。頭で考えて、意識的に努力していてもなかなか上手くできないという段階です。
 主観的には、一番つらい時期です。苦心惨憺しても、失敗ばかりが続くからです。ここで、多くの人は、学ぶことを断念してしまいます。挫折してしまいます。しかし、この状態をめげずに頑張り続けていくと、次の状態がやってきます。

③第3段階「意識的有能」…意識すればできる。

 第3段階は、「意識すれば、なんとかできる」ようになるという段階です。まだまだ、注意深くやらないと上手くできませんが、頑張って、気を弛めないでやると何とかやれるという段階です。
 この状態を続けていくと、段々と「慣れて」きて、少し気を弛めても、なんとかできるようになってきます。つまり、「意識しなくても」できるようになってくるのです。
 そのため、この段階が一番重要であるということです。
 当然、この段階の中にも、「難易度のグラデーション」があります。
  「困難の多い初期段階」から、「慣れて楽にできる段階」までが含まれているのです。
また、「試行錯誤のバリエーション」というものもあります。
 ひとつのパターンだけを習熟するなら、まだ易しいといえます。それだけやっていればいいのですから。
 一方(通常は)、さまざまなパターンを試しながら、習熟していくので、余計に時間がかかるし、苦労も多い形となります。
 新しいパターンには、いちいち「困難の多い初期段階」から着手する必要があるからです。
 しかし、さまざまなパターンの習熟は、潜在能力の幅を増やすこと(柔軟な底力をつけること)につながるので、苦労は甲斐のあることになっているのです。

④第4段階「無意識的有能」 …意識しなくてもできる。

 第4段階は、意識しなくても、できるという段階です。あまり意図しなくとも、勝手に「無意識的に」それを行なえる状態です。
 つまり、技が、潜在意識とからだ(身体、肉体)になじんでいて、その個々の技の感覚が腑に落ちていて、努力や意識の感覚無く、楽に、一定レベルのことが行なえる状態です。
 一通り、それが、「できる」と、人にいえる状態になったわけです。


▼より「総合的な」能力へ

 ところで、ここに、NLPでは指摘されない、重要な岐路(分かれ道)があるのです。
 以下は、筆者の指摘です。

 この段階で、自分は、もう充分に「できた」と思い、そのやり方を、その後も繰り返していくだけの人の能力(スキル)というものは、その技のレベル(水準)で止まります。

 一方、今の「できる」状態を、まだ限定的なものと考えて、もっと他のパターン(新しいやり方)を習得しようとする人がいます。
 才能がある人というのは、そういう傾向があります。より自己の全体性を実現しようという意欲があるからです。より高みを目指すわけです。
 しかし、その人は、新しいやり方の部分については、再び、元の第2段階「意識的無能」に戻ってしまいます。前記した「困難の多い初期段階」です。
 せっかく、「楽にできる」ようになったのに、また、新たに辛い状態が戻ってしまうのです。
 しかし、この状態を乗り越えて、第3段階、第4段階へと進んだとき、この人のその能力の全体は、元々の能力を倍増させたような、爆発的な進化を遂げることになるのです。こういう人々は、そのプロセスを繰り返す傾向があります。

 そのように、ある能力について、その学習パターンを知り、「意図的に」学習を進めることは、私たちの能力を、 相乗的に限りなく高めていくことになるのです。なぜなら、個々の部分のスキルの向上は、同士で、相乗的に働き、元々の能力以上の幾何級数的な飛躍を、その能力自身にもたらすことになるからです。
 そのため、このような学習パターンを知っておくことは、他のやり方(新しいやり方)を試すときに感じる、つらさを乗り越える動機づけをつくるためにも、重要なことであるのです。

⑤第5段階「その無意識的能力(有能)にについての意識的能力(有能)」…他人に(秘訣を)教えることができる。

 さて、ここ第5段階で、学習についての「本質的な次元」が上がります。
 そのため、ここから先は、一般的には理解が難しいことになります。
 現代の「学校教育」(特に日本)では、根本的に、このような能力/スキルへの見識が欠落しているからです。

 第5段階は、これまでのものよりメタ(上位)レベルに位置する能力段階であり、①~④の学習進化の、単純な延長上に来るものではありません。
 そのため、NLP講師でも、ここをまともに教えられる人がほとんどいないのです。

 第5段階は、自分が①~④「無意識的プロセス」で習得した、潜在意識の中にある事柄を、「対象化」して、外に出せる(表現できる)能力です。または、言語化できる能力です。
 第4段階までで、自分の中で育った無意識的な能力を、「感覚的実体(機構)」としてつかまえて、取り出して、説明できる能力です。

 そもそも、自分の内側(内部)にあるものを「対象化」できる能力とは、その前段階のものより、ワンランク高い、メタ・レベルの能力に属しています。
 子どもにこれはできません。ある程度、自我の感覚があって、これはできるのです。(そのため、子どもに、読書感想文を書かせるのは間違いだと思います。子どもは、「自分の感覚」を対象化できないからです)

 ここにきて、学習は、第5段階に達したといえるのです。
 無意識的プロセスの一部(システム)自体が、意識化され、「対象化されて」取り出せるようになったのです。
 この「対象化」の能力に必要なのが、その対象を一塊の「ゲシュタルト」をとらえる感覚の力です。

 さて、実践的な話ですが、この第5段階に至るには、まず、その前の第4段階の習熟を徹底的に突き詰める必要があります。
 第4段階の技が飽きるほど(熟れるまで)繰り返されて、さらに前記のように、さまざまな関連のパターンも加えて習熟して、自分中にその能力についての「情報的余剰」がつくり出すことが必要です。臨界値に達するということです。
 このような「情報的余剰」が溢れだし、「臨界値」を超え出てきた時、はじめて第5段階が得られるようになってくるのです。
 この「余剰」さがとても大切なのです。
 そうすると、情報的冗長性が生まれて、その事態に、気づき awareness やすくなるのです。
 そのようにすると、「潜在意識的、無意識的な機構」を取り出しやすくなるのです。

 さて、第5段階は、さまざまな事柄が、意識的にコントロール可能になったパワフルな状態です。
 通常のハイ・パフォーマンスを生み出すには、①~④の学習進化だけでも充分とはいえます。
 しかし、そのコツ(秘訣)を他者に教えられるには、学習プロセスを、第5段階に進めている必要があります。

 現役時代のパフォーマンスが素晴らしくとも、人に教えるコーチとしては、優れていないという人も多々います。 
 そのような人は、この第5段階の学習に不足しているところがあるということなのです(もしくはそういう努力をしていないのです)。

 しかし、私たちが、自分の経験と能力の真相をよく知り、それを対象化し、取り出し、他人に説明したり、創造的に活用したりするのに、この第5段階の学習は、必須なものです。
 そして、このモデルは、NLPのモデルとして知られていますが、実は、このモデルの「真に深い意味合い」は、NLPの中ではよく理解されていないのです。
 それは次のような事柄です。

 この段階に達すると、私たちは、今までの自分の学習の旅路が何であったのかについて、深い統合感をもって反省できるのです。
 そして、何か学習の障害が出たり、行き詰まりが出た時に、第4段階までの「無意識的な学びの誤り」を、この第5段階からの洞察で見抜いていくことができるのです。
 その「意味合い(領域/状態)」は、ベイトソンの学習理論で見る、二次学習の落とし穴についての、階層的な視点と重なるものともいえるのです。

 そのレベルまで実践の中でつかめていくと、このモデルは、単純な認知モデルを超えて、より存在論的なレベルで、私たちの役に立つものになっていくのです。


【ブックガイド】
変性意識状態(ASC)やサイケデリック体験、意識変容や超越的全体性を含めた、より総合的な方法論については、拙著
『流れる虹のマインドフルネス―変性意識と進化するアウェアネス』
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。
ゲシュタルト療法については基礎から実践までをまとめた解説、拙著
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
をご覧ください。

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