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④今世ではもう、誰も傷つけたくない。



前回の続きです。


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19歳の時にジャックは王子付きに任命された。


“王子付き”という役職。

王子付きの人の雑用からの昇格。


それはレオンさんと同列の5人の中の一人である。




王子付きの雑務を行っている時は王子と直接謁見する事はなく、

大祭の時や遠巻きにレオンさん達といる姿を見かけたりするくらいであった。



王子はジャックよりも2歳年下で、

大祭の際も王の後ろに控えていて、

声も聞きた事は無い。

そして常に表情は変わらず冷たい印象があった。



王子付きに任命され、

王子に謁見を許されて挨拶したが、その時も何も言葉はくれなかった。



誰に対してもそのような様子だったので気にはしていなかったが、

ジャックにとってはどちらかというと苦手な分類であった。






前任と引き継ぎをし、

数日が過ぎたある夜、

王子に部屋へ呼ばれた。



緊張しすぎて王子の部屋の前でボーっと立ち尽くしていた。



“何で呼ばれた…?

不備があった!?

しかも、部屋。

何で部屋!?

部屋って何?ここだよな?”


ぐるぐると思考を巡らせる。


何かやらかしたか…?



何分たっただろうか。



「何してるんだ。」



その時いつの間にか歩いてきていたレオンさんに後ろから小突かれた。



そして…ノックをし、


レオンさんに続いて王子の部屋に入った。



王子の部屋は本当に王子の部屋だった。


沢山の本がある本棚。

見たこと無い置き物、家具。

装飾の美しい鎧。

絵画。

絨毯。



奥にはベッドルーム。



珍しい物ばかりでキョロキョロとしていると、


「ジャック、ここに座れ。」


聞いた事のない落ち着いた声がとんできた。


レオンさんの背中で見えなかったが奥に王子がいた。

王子と王子付きの他三人がソファーに座っていた。



驚いたのは王子の普段の姿とは違う、

部屋着のようなラフな服装。


ラフな服装でも品はあった。


王子たちの目の前にはワインやそのつまみのようなものが沢山置かれていた。




座っていた王子は柔らかい表情をしていた。

雰囲気が全く違う。


指示された場所に座り、

いきなり飲めとワインを渡される。



状況が分からなくて目を白黒させていた。


他の王子付き達は笑いを堪えている。



「何だ、聞いてないのか。」


王子はそう言い、

ジャックを歓迎しようと集まったと教えてくれた。


その後は同僚となる王子付きの人達にワインをついでもらったが、

コント程手が震えてワインが零れそうになったり、

酔っているのか酔っていないのか分からない精神状態で色んな話を聞いたりしていた。


その中で、王子が笑っていた。

ビックリした。


楽しそうに笑った。



そうか。


この人は…



普段、どれだけの重圧の中を生きているのか。

どれだけの命を背負って生きているのか。



守るものや背負うものが多すぎる。


冷たい印象だと思っていた自分が恥ずかしくなった。




この年齢で


“王子”


という役割を背負っているんだ。



すごい人だ。



あぁ…。

この人を、命をかけて守ろうと思った。


守らなければいけないと思った。






そうジャックは心に決めた。









王子付きの仕事は普段二人組で行う。


常に王子についているのは二人。

ずっと王子に張り付いている。


そして残りの三人で雑務をこなす。



自分が空腹の時に王子の食事に立ち合う事もあった。


「王子の食事中腹をならすのはやめなさい。」

レオンさんはこっそりパンのようなビスケットをくれたりした。


「忙しくてもちゃんと食べなさいね。」


忙しい時ほど声をかけてくれた。




時々、王子に呼ばれてお酒を飲んだ。


普段王子はほとんど喋らない。

笑わない。

無表情。

しかし、お酒が入った時は喋るし、

よく笑う。

国民への思いや、

目指す国の形。

熱く話してくれる。


しかし、次の日は全く覚えていない様子であった。



仕事にも慣れ、忙しいながらも充実していた。



家族からの便りは頻繁に届いていたが、なかなか返さずにいた。



数年たった頃。


バタバタと廊下を走る足音。

大声で繰り出される怒号のようなやり取り。


ジャックは大きな会議室にいた。







王様が亡くなった。 




急死であった。


次の王位について。


時代の転換期である。




王位継承者は、


王子と、もう一人。






今後後継者を決める事になる。







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