骨盤帯・股関節の臨床評価①〜構造の理解と触察術〜【サブスク】
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骨盤帯の構造と運動
骨盤帯の骨構造
骨盤帯は、仙骨、尾骨、寛骨で構成され、関節は左右の仙腸関節、恥骨結合、仙尾連結があります(図1)。
図1 骨盤帯の骨と関節
寛骨は、腸骨、恥骨、坐骨で構成されます(図2)。
図2 寛骨を構成する3つの骨
腸骨には、腹筋群(腹横筋、内腹斜筋、外腹斜筋)、背筋群(腰方形筋、腰腸肋筋、最長筋、広背筋)、股関節屈筋群(腸骨筋、縫工筋、大腿直筋)、殿筋群(大殿筋、中殿筋、小殿筋、大腿筋膜張筋)、内閉鎖筋が付着します。
恥骨には、股関節内転筋群(恥骨筋、長内転筋、薄筋、短内転筋、大内転筋)、腹直筋および錐体筋、外閉鎖筋、骨盤底筋群(深会陰横筋、肛門挙筋)が付着します。
坐骨には、股関節伸展筋群(半膜様筋、半腱様筋、大腿二頭筋長頭)、股関節外旋筋群(内閉鎖筋、大腿方形筋、上・下双子筋)、坐骨海綿体筋が付着します。
骨盤帯の関節構造
【恥骨結合】
恥骨結合は、上恥骨靭帯、恥骨弓靭帯と後方にある薄い靭帯によって制動され、 2mmの動きと1°の回転のみ¹⁾可能とされています。妊娠中や出産中の女性ではいずれも増加します(図3)。
図3 恥骨結合
【仙腸関節】
仙腸関節は、仙骨と腸骨で構成される滑膜性関節です。仙腸関節の運動範囲は、最大で2°~4°未満の回転運動と1~2mmの並進運動¹⁾と非常に小さいです。
図4 仙腸関節
仙腸関節の運動学
仙腸関節の小さな動きのなかには以下の4つの運動があります。
・ニューテーション(図5)
図5 ニューテーション
ニューテーションとは、矢状面上で、腸骨に対して仙骨が前傾または仙骨に対して腸骨が後傾する運動をいいます。仙骨および腸骨の運動は同時に起こる場合もあります。
・カウンターニューテーション(図6)
図6 カウンターニューテーション
カウンターニューテーションとは、腸骨に対して仙骨が後傾または仙骨に対して腸骨が前傾する運動をいいます。仙骨および腸骨の運動は同時に起こる場合もあります。
・インフレア(図7)
図7 インフレア
水平面上で、寛骨が内方へ回旋する運動をいいます。この時、ASIS(上前腸骨棘)は内側へ、PSIS(上後腸骨棘)は外側へ偏位します。
・アウトフレア(図8)
図8 アウトフレア
水平面上で、寛骨が外方へ回旋する運動をいいます。この時、ASIS(上前腸骨棘)は外側へ、PSIS(上後腸骨棘)は内側へ偏位します。
インフレアおよびアウトフレアは、単独の運動として起こることはないとされています。
インフレアでは矢状面上での寛骨の前方回旋(前傾)、アウトフレアでは矢状面上での寛骨の後方回旋(後傾)との複合運動で生じると考えられています。
多くの文献や書籍では、以上の4つの運動が紹介されている場合が多いですが、実際には、前額面上でみる寛骨の下方回旋および上方回旋も知っておく必要があります。
・寛骨の上方回旋および下方回旋(図9)
図9 寛骨の上方回旋および下方回旋
前額面上で、寛骨の上方回旋は左右の腸骨稜は近づいたアライメント、下方回旋は左右の腸骨稜は離れいわゆる骨盤が開いたようなアライメントになります。
寛骨の下方回旋位が腰痛症状を引き起こす要因となっているケースが臨床でも多くみられます。
仙腸関節を制動する筋肉および靭帯
仙腸関節の運動を制御する筋肉および靱帯について以下に整理します。
・ニューテーションを制御する筋肉および靭帯(図10)
図10 ニューテーションを制御する筋肉および靭帯
仙結節靱帯¹⁾²⁾
上後腸骨棘と後仙腸靱帯から付着し、坐骨結節の内側縁まで続きます。繊維は3部に分かれ、外側帯は上後腸骨棘ー坐骨結節、内側帯は尾骨ー坐骨結節、上方帯は上後腸骨棘ー尾骨を結びます。大腿二頭筋長頭腱(図11)、大殿筋、多裂筋、梨状筋と直接付着しています。仙骨のニューテーションを制動(タイトネスでニューテーションを制限)します。
図11 仙結節靭帯と大腿二頭筋腱との連続性
<仙結節靭帯の触診(図12)>
仙結節靭帯は坐骨結節の内側かつ頭側で触れることができます。深く指を潜り込ませてバンド状の繊維を触知します(緊張が高いとコリコリします)。上方に辿っていことで尾骨外側までの連続性を確認することができます。
図12 仙結節靭帯の触診
🎥仙結節靭帯の触診動画(セルフ確認用)
🔻仙腸関節性腰痛の評価は下記noteで学ぶことができます🔻
仙棘靱帯¹⁾²⁾³⁾
仙骨と尾骨の外側面から坐骨棘に付着します。薄い三角形状であり、仙結節靱帯とともに仙骨のニューテーションを制動する役割があります。
前仙腸靱帯²⁾
仙骨翼と仙骨前面から腸骨前面に縦に長く、横断方向に走行して付着します。仙腸関節前面の離開を制動し安定性に寄与しています。
・カウンターニューテーションを制御する筋肉および靭帯(図13)
図13 カウンターニューテーションを制御する筋肉および靭帯
カウンターニューテーションを唯一制動することがわかっているのが長後仙腸靭帯です。侵害受容器が豊富にあり、PSISの直下で圧痛所見がみられやすいです。
股関節外旋筋群の機能解剖学
股関節の外旋作用を持つ筋肉には、以下が挙げられています。
大殿筋(図14)
図14 大殿筋
大殿筋は最も強力な股関節伸展および外旋筋で、上部繊維と下部繊維に分けられます。
大殿筋の上部繊維は、主に外転作用を有し、腸脛靭帯に停止します(図15)。
大殿筋の下部繊維は、内転作用を有し、大転子の後下方にある殿筋粗面に停止します(図15)。
図15 大殿筋の上部繊維および下部繊維と作用
ただし、上部下部繊維ともに股関節内転運動よりも外転運動で筋活動が高い⁴⁾⁶⁾と報告されています(図16)。
図16 大殿筋の作用方向
6)より画像引用
歩行においては、大殿筋の下部繊維が踵接地の直前に先行して活動し、足底接地前に筋活動のピークを迎えます。一方で、大殿筋上部線維は踵接地後より活動しはじ め、立脚中期あたりで筋活動が最大となり、その後の踵離地に向けて漸減していきます⁷⁾⁸⁾(図17、18)。大殿筋の上部繊維は中殿筋とともに股関節外転作用によって骨盤の対側下制を制動していると考えられています。
図17 歩行における大殿筋下部繊維および上部繊維の筋活動パターン
図18 歩行周期における股関節のモーメントと筋活動
8)より画像引用
内閉鎖筋(図19)
図19 内閉鎖筋
内閉鎖筋は、股関節外旋作用が最も強く、わずかな伸展と内転モーメントアームを有するとされています。しかし実際には、解剖学的肢位における最大等尺性収縮では、股関節伸展で最も筋活動が強く、次いで外旋、外転が筋活動が高い⁴⁾⁹⁾と報告されています(図20)。
図20 股関節運動時の股関節外旋筋筋活動
9)より画像引用一部日本語改変
また、安静状態から股関節伸展や外旋の等尺性収縮を徐々に行おうとすると、多くの場合に大殿筋や梨状筋、大腿方形筋よりも内閉鎖筋が先に収縮する傾向にある⁹⁾と報告されています(図21)。
図21 股関節運動時の股関節外旋筋の収縮タイミング
9)より画像引用一部日本語改変
内閉鎖筋は、大転子の内側面に向かうように130°変える滑車としての役割があり、大腿骨が十分に固定された立位では、骨盤を反対側に回旋させる作用があります³⁾。加えて内閉鎖筋が生む力は股関節を圧縮します(図22)。
図22 内閉鎖筋の配置と作用
3)より画像引用
さらに、内閉鎖筋は閉鎖筋膜を介して肛門挙筋と直接的に解剖学的な連結がある³⁾ことから、骨盤底機能障害に対しても着目されています。中には、内閉鎖筋の90秒間のリリースによって、股関節可動域改善、多裂筋硬度への変化、骨盤底筋・腹横筋の収縮機能への改善効果の可能性が示唆された¹⁰⁾との報告もみられます。
その他、梨状筋症候群の原因の一つとして、内閉鎖筋や上・下双子筋による後方への圧排によるもの¹¹⁾が挙げられています(図23)。
図23 坐骨神経と股関節外旋筋
<内閉鎖筋の触診(図24)>
内閉鎖筋は、坐骨結節から上方に辿っていくと、大殿筋の深層で2〜3横指上方でコリっとした筋腹に触れることができます。または、梨状筋と大腿方形筋の間で、上・下双子筋と共に触れることができます。内閉鎖筋自体の筋腹はあまり大きくはないため、上・下双子筋と個別に触り分けるのは難しいです。
図24 内閉鎖筋の触診
🎥内閉鎖筋の触診動画
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