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「地政学」が世界の動きをすっきり理解するための最強のツールだった件

フォレスト出版編集部の寺崎です。

今日は【他社本研究】ということで、いま静かなブームとなっている「地政学」に関する良書をご紹介します。

地政学ブームの流れはここ数年前からありましたが、ウクライナ侵攻以降、一気に加速した感があります。

こちらの「サクッとわかるビジネス教養シリーズ」の『地政学』はすでに20万部突破とのこと。

ところで今日ご紹介するのは、田中孝幸『13歳からの地政学ーーカイゾクとの地球儀航海』(東洋経済新報社)という本です。

田中孝幸『13歳からの地政学ーーカイゾクとの地球儀航海』(東洋経済新報社)

2020年2月発売・現在4刷。紀伊国屋のデータをみると、読者はだいたい男女半々、30~40代中心のようです。

取次のデータを見ると、売上上位3店舗がいわゆるエキナカ書店(駅の構内にある書店)であることから、「立ち読みでパラパラと眺めて面白そうだったので購入した読者像」が想像されます。

地政学というと、だいたい「エリアごと」の構成であることが多いです。

たとえば、最初に挙げた奥山真司監修『サクッとわかるビジネス教養 地政学』(新星出版社)の場合だと・・・まず「地政学とは?」から始まり、
日本、アメリカ、ロシア、中国、アジア、中東、ヨーロッパとエリアごとの地政学の解説が展開されています。こういう作りがオーソドックスな構成ですが、『13歳からの地政学』は対話形式の物語なんです。

高校生・中学生の兄妹と年齢不詳の男「カイゾク」との会話を通じて、
「地政学」が楽しくわかりやすく学べる一冊

田中孝幸『13歳からの地政学ーーカイゾクとの地球儀航海』(東洋経済新報社)
アマゾン紹介文より

登場人物は3人。

■大樹(だいき)
県内の進学校に通う高校一年生。学校の勉強は得意で、上位の成績を収めている。

■杏(あん)
地元の公立中学に通う大樹の妹。中学一年生で、勉強よりもおしゃれや流行のアイドルのほうが好き。

■カイゾク
近所の子どもたちにその風貌から「カイゾク」と呼ばれる年齢不詳の男。アンティークショップの店主のようだが……

アンティークショップのウィンドウに「時価」の札が掲げられて飾られていた古い地球儀に魅了されたふたりが、ふらり店内を訪れると「わたしの7日間の講義を受けて、最後のテストに合格したら、譲ってあげよう」と告げられるのが物語のはじまりなのですが、7日間の講義がすこぶる刺激的かつユニークで面白いのです。

とおりいっぺんの構成ではなく、次のような展開です。

■1日目 物も情報も海を渡る
■2日目 日本のそばに潜む海底核ミサイル
■3日目 大きな国の苦しい事情
■4日目 国はどう生き延び、消えていくのか
■5日目 絶対に豊かにならない国
■6日目 地形で決まる運・不運
■7日目 宇宙からみた地球儀

田中孝幸『13歳からの地政学ーーカイゾクとの地球儀航海』(東洋経済新報社)もくじ

「海を制すること」が国家にとっては一大事

「こうして見ると地球って海ばっかりね」杏は地球儀をくるくる回した。
「たしか地球の7割が海、3割が陸地ですよね」
大樹は背筋を伸ばしてカイゾクに言った。
「そうだ。では国から国へ物を売り買いして運ぶ時、船と飛行機のどちらが多く使われていると思う?」
「貿易の話ですね」
「うむ、例えば日本が自動車を作ってアメリカに売り、アメリカは牛肉を日本に売る。国や国民が豊かになれるかは、ほかの国との売り買い、つまり貿易をうまくやれるかどうかでかなり決まってくる。だからとても大事だ。世の中で最も大事な営みの一つと言っていい」
「貿易ってそういうことかぁ。私はやっぱり、みんな飛行機を使うと思うな。そのほうが早そうだし」
「いや、船のほうがたくさん荷物を積めるんじゃないかな? 日本は島国だし、貿易の6割くらいは船かな。世界中では半分くらいでしょうか」
実は世界中の貿易は9割以上が海を通っている。つまり船で運ばれている。特に日本は海に囲まれた島国だからその比率が高くて、99%以上が船による貿易だ」
「99%! じゃあ船で貿易ができなくなったら日本は大変ね」
杏が言うと、カイゾクは地球儀をくるりと回しながら言った。
「日本はもちろん、スーパーに並ぶ外国産の食べ物のほとんどが船で運ばれているのは、世界どこでもあまり変わらない。別の言い方をすれば、船を使った貿易ができなくなれば、世界の経済は一瞬にして止まってしまう。では、この海ばかりの地球で一番強い国はどこかね?」
「強いと言えばアメリカでしょうか」
大樹の答えに杏もうなずいた。
「そうだ。そしてアメリカが超大国と言われているのは、世界の船の行き来を仕切る国であるからだ。アメリカは世界最強の海軍を持ち続けるために、毎年10兆円以上のお金を投じていて、世界各地の海に軍艦を展開している。自分の国と遠く離れた地球の裏側までだ。ほかにそんなことをしている国はない」
「う~ん、地球の裏側なんて、自分の国に関係ないよね。なんでアメリカはそんなに軍艦にお金を使うの?」
「まず、国同士、けんかした時に勝てるということがある。例えばアメリカが、どこかの国とトラブルになったとしよう。海をおさえていれば、その国の貿易を止めることで倒すことができる。貿易を止められてスーパーに商品が何もなくなってしまったら、飯が食えなくなる。けんかどころではないからな」
「国同士のけんか、つまり戦争になった時に勝てるように、海を見張っているということですか」
「うむ。それに世界で一番強い国であるということはとてつもないメリットがある。その地位を守るためでもあるのだよ」カイゾクは紅茶を一口飲んだ。

田中孝幸『13歳からの地政学ーーカイゾクとの地球儀航海』(東洋経済新報社)

こんなやりとりから始まって・・・
◎なぜドルが世界中で使われるのか?
◎なぜ、船で運ぶのか?
◎情報が行き来する海底ケーブルを制する話

といった話題が地政学的観点から解説されます。

世界で最も大きい海水体積を持っている日本

個人的に「なるほど!」と思ったのが、日本が「世界で一番大きな深海を持つ国」であるということです。

「世界中で最も大きな海はどこか?」というカイゾクの問いから始まりくだりです。

「太平洋だよね? えっと、あった。ここ」
杏は、一本足の地球儀に書いてある文字を指さした。
「思ったよりも広いですね。地図ではこんなに広いとは思わなかった。世界の半分くらいはありそうですね」
「そうだな。太平洋は、2番目に大きい大西洋の2倍くらいある。それと、この濃いブルーになっている部分が結構多いのもわかるかな」
「色が濃い部分は深くて、逆に薄い部分は浅い海だということですよね」
「その通り。太平洋の平均の深さは約4200メートルだ。大西洋は3300メートルで、やや太平洋のほうが深い」
「う~ん、深すぎてピンとこないなぁ」
杏が首をかしげているのを見て、大樹が言った。
「富士山が3776メートルだろう。富士山が逆さになってるようなものってことだよ」
「ふむ、このように、海を深さから立体的に考えてみよう。排他的経済水域という言葉は学校で習ったね?」
「はい。自分の国の陸地の近くの海のことで、そこで獲れた魚や海底の石油を独り占めにできる、縄張りのようなものですよね」
「そうだ。ほかの国はそこで勝手に魚を捕ったり、海底の石油を掘ったりすることはできない。これを立体的に考えてみると、自分の排他的経済水域にある海の深さが深ければ、その分自分の縄張りも大きいことになる」
「深いほうがお得ってことね」
「では、自分の縄張りにおさめている海水の体積で言うと、日本は世界何位くらいにつけているだろうか?」
「う~ん、結構上位にくると思います」
「そうえ、地球儀で見ると日本の周りは濃いブルーが多いもん。10位くらい?」
「実は、正解は4位だ。日本の近くにはたくさんの深海がある。水深6000メートル以上の深海だかをみると、世界で最も大きい海水体積を持っているのは日本だという報告もある
「そう考えると、日本って小さな国に見えて実は大きいんですね」

田中孝幸『13歳からの地政学ーーカイゾクとの地球儀航海』(東洋経済新報社)

こういう視点は正直なかったですねー。

ここから、2日目「日本のそばにひそむ海底核ミサイル」の話に進んでいくのですが、「核兵器は他国に知られないところに隠す必要」があり、そのために深海にひそむ「原子力潜水艦」を核保有国は持っています。

核保有国は核ミサイルを「深海」に隠している

核兵器は、いつまでももぐっているための原子力潜水艦、海の中からミサイルを発射する力、それに潜水艦を隠すための深く、自分の縄張りにできる安全な海という3つを確保できて、初めて最強のアイテムになる。少なくとも、核を持つ国は、そうすることによって自分の国は敵に攻撃されず、安全になると信じているんだ。そして現在、この最強のアイテムを完全な形で持っているのは、アメリカとロシアだけだ。

田中孝幸『13歳からの地政学ーーカイゾクとの地球儀航海』(東洋経済新報社)

世界の海を仕切るアメリカは当然のことながら、はたしてロシアはどこに核兵器を隠しているのか?

「ここかな? この日本の近くのところ?」杏は北海道の上あたりを指した。
「その通り。このオホーツク海は、水深が3000メートル以上でとても深い。それに、奥まった湾のようになっていて、ロシア以外の潜水艦が入れないようになっている。ソ連の時代から今にいたるまで、ロシアはここに原子力潜水艦をもぐらせてきた」
「ここ、北海道のすぐそばじゃない。こんなところに核兵器があるなんて怖いね」

田中孝幸『13歳からの地政学ーーカイゾクとの地球儀航海』(東洋経済新報社)

そして・・・中国が「南シナ海」を欲しがる理由もここにあったのです。

中国が「南シナ海」を喉から手が出るほど欲しがる理由

「この最強のアイテムを手に入れるために、世界ともめごとを起こしている国がある。中国だ」
カイゾクは地球儀の中国をぴたりと指した。
「中国は核ミサイルを持っていますよね」
「あとはそれを発射できる潜水艦と、深くて安全な海?」
カイゾクはやや険しい顔でうなずいた。
「ああ、中国は核ミサイルを持っている。それを積んで海底から発射できる原子力潜水艦も持っている。持っていないのは、ロシアにとってのオホーツク海のように自分で自由にできる海だ」
「このあたりはだめなんでしょうか? 奥まっているように見えますが」
大樹は韓国と中国に挟まれたあたりの海を指した。
「黄海だな。たしかにここも沿岸のかなりの部分が中国だし、その北西にある渤海も一見してほかの国が入ってこられなそうだ。でも、黄海では原子力潜水艦が隠れるのには浅すぎる。だいたい平均すると水深は40メートル程度だ。丸見えになってしまうといっていい」
「う~ん、地球儀で濃い青のところが深い海だったよね。じゃあ、このあたり!」
南シナ海だな。まさにそうだ、中国が原子力潜水艦を隠すならば、ここしかない。ここは平均の深さが1000メートルを超えていて、最も深いところは5000メートルの水深がある。だが、ここはどんな国の船でも自由に入ってくることができる国際的な海で、アメリカ軍の船も入ってきている」
「だから、南シナ海を自分のものにしたい中国が、他の国ともめているということでしょうか?」
「その通り。今、中国は、ここの浅い場所を埋め立てて、人工島を無理やり造って、軍事基地をたくさん建てている。ベトナムとかフィリピンといった周りの国も、南シナ海の一部は自分のものだと言っているのに、中国はそういう声に耳を貸さずに独り占めしようとしている。だからトラブルは大きくなっているが、中国は周りの国を怒らせても、この海を独り占めにするメリットのほうが大きいと思っているわけだ」
「それで最強のアイテムが完成するってことね。でもなんで中国はそこまでして欲しがるのかな?」
「ふむ、世界で一番の国、アメリカを意識していることが大きな理由だ」

田中孝幸『13歳からの地政学ーーカイゾクとの地球儀航海』(東洋経済新報社)

海を制するものが地球を制す。

地政学を学ぶことは国際情勢、世界の政治を学ぶことに等しく、とても広い視点を得ることができます。

本書『13歳からの地政学』は大人が読んでも、とてもタメになる内容が満載です。地政学についての相対的な視点が得られること間違いありません。

カイゾクから最後に出されるテストは次のような質問です。

「最後に君たちの答えを教えてくれ」
カイゾクは二人の前に、それぞれ白紙とボールペンを置いた。
「自分にとっての世界の中心はどこだろうか?」

田中孝幸『13歳からの地政学ーーカイゾクとの地球儀航海』(東洋経済新報社)

ところで、こうした地理的条件から逃れられないリアルな状況から抜け出すひとつの方法があります。

それが・・・DAO(自律分散型組織)です。

ブロックチェーン技術を基盤とした「DAO」による民主主義国家の樹立を目指した今月の新刊『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』(落合渉悟・著)も併せてチェックいただけますと幸いです。





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