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【フォレスト出版チャンネル#124】フリートーク|編集者おすすめの3冊【2】

このnoteは2021年5月6日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。

あなたの「座右の書」は何ですか?

今井:フォレスト出版チャンネルのパーソナリティーを務める今井佐和です。本日は「編集者おすすめの3冊」というテーマで、編集部の森上さんとお話していきます。森上さん、よろしくお願いします。

森上:よろしくお願いします。

今井:「編集者おすすめの3冊」というテーマで、前回は寺崎さん、今回は森上さんの回となりました。編集部の他のメンバーの方も順番に同じテーマでお話しいただけるとお聞きしています。

森上:そうなんですよ。編集部には寺崎さんと私を含めて5人いるんですけど、残りの3名のおすすめの3冊を来週以降にでも紹介してもらおうかなと思っています。唯一のルールが「自社本以外でおすすめの3冊をピックアップしてね」として、ジャンルとかも結構自由なので、人それぞれの趣味嗜好が相当出るんじゃないかなと思っています。だから私も、他のメンバーがどんな本をピックアップするのか、事前にあえて聞かないようにしているんで、めちゃめちゃ楽しみです。

今井:好きな本とかって、その人の人柄とかが出たりしますもんね。

 森上:そうですよね。その人の人生を変えた本なのか、普段読んでいる本なのか。それによっても、いろいろ違いますもんね。

今井:はい。ではさっそく、編集者・森上さんのおすすめの3冊ということで、1冊目は『メメント・モリ』(藤原新也・著)ということなんですけど、これはどんなところが森上さん的におすすめでしょうか?

森上:そうですね。これは僕にとって「座右の書」みたいな立ち位置の本で。

今井:座右の書!

森上:そうですね(笑)。おそらく誰にでも座右の書なんていうものがあったりとかすると思うんですけど。気が向いたら開いてみようとか、読んでみようとか。

今井:バイブルみたいな本とか。

森上:そうですね。まさにそんな感じなんですけど。(この本の著者は)藤原新也さんという写真家でノンフィクション作家の方です。僕は学生時代から藤原新也さんのめちゃくちゃファンで、『東京漂流』など、ノンフィクションの本がいくつもあるんですけど、その中の1冊で、これ(『メメント・モリ』)は写文集です。

今井:写文集……。

森上:そうなんですよ。藤原さんは写真家なので、写真を撮りながらそこにひと言、詩(コピー)を入れるという。これは80年代(注:1983年)に出た本で、この当時、写真の上に何か文字を載せるっていうのは、たぶんこの本が初めての試みじゃないかな。かなり衝撃がありました。中身もかなり衝撃的で、一番有名な写真と文書があるんです。今、手元にあるから佐和さんは見られますが、インドでの写真だったと思うんですけど、人間の死体に犬が群がっていると。

今井:はい。

森上:カラスもいるんですけど、ここにつけた一文が「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ。」というコピーが入っている。かなり衝撃的なコピーで、世の中で(この本が)有名になった1つの象徴的な写真と詩文なんですよね。

今井:私も今、これを見て衝撃を受けています。

森上:衝撃を受けますよね。

今井:「え! 食べられているのに自由なの!? ええ! どういうこと!?」っていう、ちょっとした混乱が今、脳内を駆け巡っています。

森上:そうですよね(笑)。僕なんかの世代(1970年代生まれ)の人は、この写真や名文の存在は知ってると思うんですけど、少しお若い方だとなかなか。これ、実は1983年に情報センター出版局という出版社から初めて出たのですが、今手元にあるのは銀色の表紙のもので、これは三五館という僕が前にいた会社で出した本なんですね。
僕が学生時代に手に入れたのは金色の表紙で、最初の本なんですが、実はこれは僕がフォレスト出版に入る前にいた三五館という会社のボス(社長)が1983年の『メメント・モリ』を最初に出したときの担当編集者なんですよ。

今井:そうなんですか!? ちょっと運命を感じちゃいますね。

森上:そう。実は僕はそれを知っていて、そのボスに憧れて入った(入社できた)って感じかな。

今井:むしろこの本が引き合わせてくれたという。

森上:そうとも言えるかもしれないですね。学生時代からすごくリスペクトしていたボスだったので。そのボスは情報センター出版局の局長だったのが、三五館という会社を作って、そこが募集していて、僕が入ったっていう感じなんですよね。
それでね、ちょっと個人的なレベルでの喜びだったんですけど、これ(手元にある銀色のカバーデザインの『メメント・モリ』)は、「21世紀エディション」というかたちで三五館から出ているんですけど、実は担当を僕がやらせてもらったんですよ。

今井:おーーーー!!

森上:そうなんですよ。もちろん、やらせてもらえると思って入ったわけじゃないんだけど、たまたま巡り巡って、「21世紀エディションを作るぞ」っていう話になって、僕が担当させてもらったっていう、そういう本なんですよ。

今井:なんかもう涙が出そうです。

森上:そうそう(笑)。だから、僕の中では個人的にもずっと大好きだった藤原さんとお仕事ができる。しかも、そのアイテムは僕が座右の書としている本のリバイバル版って言うか、「21世紀エディション」だということで、この仕事をやっていて、夢がひとつ叶ったっていう感じです。僕にとっては切っても切り離せないというか、本当にありがたい限りの作品というか……。
さっきお見せした「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ。」の写真とかは、この「21世紀エディション」にも載せたり、いくつかコピーを入れ替えたり、写真を新しく21世紀エディションに差し替えたりとか、藤原さんとボスは元担当なので、3人でいろいろやりとりさせていただいたっていう、ちょっと思い入れのある本でもあります。
「メメント・モリ」っていうメッセージはラテン語で「死を想え」っていう意味なんですよね。それで、死にまつわるテーマの写真とコピーが綴られているんですけど、意味としては「死に想いを馳せると、生に対するエネルギーが出る」という、相反するというか、むしろ「死を意識することによって、生に対するエネルギーが湧き出る」というような意味があって。だから、ちょっとつらいときとか、この本を開いたりとかしてて。お気に入りの写真とか、言葉とかって、個人個人であったりとかすると思うんですね。
この本は名著なので、いろいろな人がご覧になっているんですけど、例えば、この本から影響を受けた(と公言している)方では、ミスターチルドレンの桜井和寿さん。

今井:はい。

森上:ミスチルの歌で「花 -Mémento-Mori-」っていう、あの曲も、この本に出会って作詞作曲されたっていうことを桜井さんが公言していたりとか。

今井:そうなんですね。

森上:そうなんですよ。あと、俳優の本木雅弘さんが主演したアカデミー賞の外国語映画賞を取った「おくりびと」。

今井:映画館で見ました。

森上:ご覧になりました? あれも一つの発案のきっかけになったのがこの本だと言われていて、かなり影響力のある、魅力的な本です。たぶんご存じの方はご存じだと思うんですけど。特に、これ1ページ目のコピーだけでもちょっとびっくりしますよ。ちょっと読んでみてくれます?

今井:「ちょっとそこのあんた、顔がないですよ」。

森上:そう。これが1ページ目にあるんですよ。

今井:ドキッとしました!

森上:ドキッとするでしょ!?

今井:え! 顔ないの!? え! え! みたいな。

森上:それってどういうことって話ですよね。そこからどんどんどんどん想像力が膨らんでいくっていうか、見る人によって、受け止め方とか、写真とかコピーが、人それぞれの自分事になって落ちてくるので、これがもうたまらない。「死は生のアリバイである」っていうコピーがあったりとかね。だから、生に対するエネルギーとか、死生観とか、そのあたりがすごく問われる本で、とにかくめくってめくってどんどん自分の頭の中を、いい意味でぐちゃぐちゃにさせてくれる。めちゃくちゃおすすめの本です。私にとっての座右の書ですね。

『メメント・モリ』の魅力は、こちらの記事に詳しく書かせていただいています。

今井:さっそく私、これが終わった後に本屋に買いに行きたいと思います。

森上:そうですか(笑)。今はもう三五館の本は出ていなくって、また再販されて復刻版として、今は朝日新聞出版さんのほうから元々の金色の表紙に戻って出ているはずです。

今井:中身もまたちょっと、変わっているんですか?

森上:変わっている可能性もあります。僕は調べてないけど。

今井:ちょっとありとあらゆる方法で森上さん編集のシルバーバージョンを探したいと思います。

森上:ありがとうございます(笑)。

今井:ありとあらゆる方法で。

森上:そういう意味では、銀色の本はすでにないので、貴重かも。ぜひ、ちょっと探してみてください。

今井:はい。ということで、森上さんおすすめの本、1冊目は『メメント・モリ』でした。

3代にわたって読んでいる本

今井:続いて、森上さんおすすめの本2冊目は『つきのぼうや』(イブ・スパング・オルセン・著)という絵本なんですけれども、こちらはどこが森上さんのおすすめポイントでしょうか?

 森上:そうですね。この『つきのぼうや』って本は、実は僕が子供の頃に親に読んでもらった本なんです。

今井:森上さんが小さい頃に!

森上:そうなんです。これが1975年に刊行されたデンマークの絵本で、判型も、Voicyは音声だからわからないと思うのですが、長細い本なんですよ。

今井:はい。とても細長くて、本棚には入らないなっていう形の30cm、40cmくらいですかね。

森上:そうですね。結構長い本。でも、『つきのぼうや』の内容を見ると、この判型である意味がわかる内容になっています。
この本を取り上げた理由は、まず判型が面白いということ。そしてもう1つの理由は、実は自分の娘にも読んであげた本ということ。その娘も、もう今は高校生なんですけど、小学校低学年くらいまではしょっちゅうこの本を持って俺に「読んで、読んで」って言ってくれて。これは、親子代々ずっと読み継がれていく一つの絵本ということで、自分も親となって読むと、子どもの頃に読んでもらったときの思い出とかもすごく重なる部分があって、こういった名著と言われる本は1つおすすめしたいな、と。
内容的には、月が自分が池に写っているのを見て、そこから月の坊やの冒険が始まるっていう話なんですけど、よく映像でNASAの映像だと思うんですけど、宇宙からグーっと地球に向かって行って、地球からグーっとある国(アメリカ?)に行って、街に行って、それから人間の体内に入ってみたいな。

今井:マクロからミクロみたいな。

森上:そうそう! あの辺の映像の世界観を大人になってからはちょっと感じたりとか。

今井:へえー!

森上:それは僕の勝手な解釈ですけどね。だから、月と池の間の世界というか、その中にいろいろと生き物とかが出てきたりするんですけど、そのあたりの世界と言うか、思い込みというか、それを広げてくれるような。頭が宇宙の世界まで広がるような想像力を働かせてくれる本だなって、個人的には思っています。そういう意味ではおすすめです。

今井:大人にも子供にもおすすめということで、『つきのぼうや』、皆さんもぜひ読んでみてください。

韓国出身の才女が綴る短歌集

今井:それでは最後、おすすめの本3冊目、『歌集 まだまだです』(カン・ハンナ・著)ということなんですけれども。

森上:そうなんですよね。カン・ハンナさんってお名前からご想像のとおり韓国出身の方で、9年前に来日された方なんですよね。この方はタレントさんでもあるので、ホリプロさんにも所属されていて、横浜国大の大学院で国際比較文化とか研究されたりとか、あと数学オリンピックってあるじゃないですか?

今井:はい。

森上:その韓国代表だったりとか。

今井:え! すごいですね!

森上:そう! めちゃめちゃすごい方で、日本語は全然ネイティブじゃないんですけど、その辺の部分の才能もあるんでしょうね。彼女とは仕事でもプライベートでも3年ほどお付き合いをさせていただいている方なんですけど、日本語はネイティブでないにもかかわらず短歌を始めて、「角川短歌賞」とかそういう賞をずっと獲ってきて、初めて歌集が出たんですよ。そしたら、この歌集が第21回現代短歌新人賞、これを受賞した! それがこの作品なんですよ。

今井:そうなんですね! 日本古来の短歌をカン・ハンナさんが。

森上:そう。今年、それがちょっと話題になったんですけども、元々彼女は日本語の取り扱い方というか、紡ぎだす言葉っていうのが日本人以上に繊細というか、たぶん日本人だとなかなかその辺の部分の感性まで紡ぎ出せないというか、ひっかからないところもちゃんとひっかけて言葉にしてくれる。
この世界観が異文化との……。やっぱりあるじゃないですか、いろんな葛藤とか、例えば彼女自身はお母さんがすごく大好きで、でもお母さんとなかなか会えない、でも毎日会いたいとかね。そこにすごい気持ちがあるじゃないですか。そのあたりをすごく日本語の短歌の中に込められていて、本当にめちゃめちゃおすすめな歌集です。
これは2019年の年末に出たのかな。で、今年(2020年)の現代短歌新人賞を受賞したということで、そういう意味では、歌集ってやっぱり言葉一つ一つに対するその想いとか、選んでいく言葉のセンスとか、その辺りっていうのはすごく研ぎ澄まされているので、我々にとっても仕事柄、やっぱり詩集とか歌集って参考になるんですよね。

今井:そうなんですね。

森上:そうですね。やっぱり無駄を削ぎ落した中での言葉を紡いでいるので、その辺りの感性が異文化というか、韓国の方がこういうふうに出されていることがまた刺激を受ける。ということで、最近の本としてのおすすめということで一冊、こちらをお出ししました。

今井:たしかに、日本の方の短歌というよりも韓国の方が瑞々しい感性で書いたっていうので、すごく気になります。どんな思いで、どんな言葉で綴ったんだろうみたいな。

森上:そうですよね。その辺のアイデンティティとか、自分らしさとか、自分らしさってなんだろうとか、その辺の葛藤とか、女性ならではの感性っていうのもまた味わえる一冊になってるんで、ぜひちょっと読んでみてもらえたらうれしいなと思います。

今井:森上さんおすすめの本、3冊目は『歌集 まだまだです』、カン・ハンナさんでした。

ということで、ここまで『メメント・モリ』『つきのぼうや』『歌集 まだまだです』と3冊紹介してきたんですけれども、個人的に感じたのは、どの本にも共通して「自分の想像性を高めてくれる」というか、インスピレーションの源になったりとか、感性とかセンスとか、そういったものが研ぎ澄まされていったりっていうものがこの3冊に共通してるななんて感じました。

森上:なるほど。そう言っていただけると、自分が意識してそうしたわけではないので、共通項を紡ぎだす佐和さんがすごいなと思って。

今井:いや。森上さんのセンスの良さはこういうことが好きだという感性からきているんだなって改めて思いました。

森上:ありがとうございます(笑)。

今井:ということで、本日は「編集者おすすめの3冊」ということで、森上さんおすすめの3冊を紹介してきました。森上さん、どうもありがとうございました。

森上:ありがとうございました。

(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)


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