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編集者の「書店」活用法

こんにちは。
フォレスト出版編集部の森上です。

本好きの方なら誰でも、居心地のいい書店、好きな書店、定期的に足を運ぶ書店など、行きつけの書店は1軒や2軒はあるのではないでしょうか。それは、生活エリアやライフスタイルが変わるとともに、書店体験も変わっていくものです。

書店体験は人それぞれだと思いますが、私も高校時代までは地元の書店で、好きなノンフィクション系作品や雑誌(1990年代は雑誌が元気でした)を「読者の一人」として隅から隅までチェックしながら、気になったものを買い漁っていました。現在書籍編集としてメインに扱っているビジネス書ジャンルは、当時は見向きもしませんでした。

大学卒業後、書籍編集の端くれとして社会人生活がスタートしてからは、一読者の視点に、編集者の視点が加わり、書店体験がおのずと変わってきました。

編集者の視点が加わった書店体験とはどういうものなのか?

今回は、「編集者は書店をどのように活用しているのか?」をテーマに書いてみたいと思います。最初にお断りしておきますが、これはあくまで私の個人的な体験・見解であることを踏まえて読み進めていただけたら幸いです。

◆どんな目的で書店に行くか?

一読者のときは、「新たな本との出会い」「欲しい本を買いに行く」といったものでしたが、書籍編集に携わる身になると、これらに加えて、別の目的がいくつか出てきます。

大きく分けて、次の3つです。

①自社の新刊・既刊の展開状況チェック。
②現在の傾向をつかむ。
③企画のネタを探す。

お気づきの方もいると思いますが、①~③に共通するのは「リサーチ」です。

①は、書籍という商品をつくって売る出版社、いわゆるメーカーの人間としては、当たり前の目的です。書店は、自社の企画・編集した商品を最前線でお客様に届けてくれる、たいへん大事な存在です。その展開状況や期待感、売れ状況は気になるものです。

対象書籍(自社の書籍)の周辺にどんな本が置いてあるかもチェックしながら、その書店が対象書籍を、どの読者層を想定しているかを読み取ります。たまに、表紙まわりや目次などで、こちらの狙いが書店担当者に伝えきれていないためか、「こっちの棚じゃなくて、あっちの棚で勝負したいんだけどなー」なんてことも……。

逆に、多箇所での展開(メインのジャンル棚「元棚」以外の他ジャンル棚やコーナーでの展開)を見ると、弊社の書店営業の頑張りに感謝するとともに、その書店さんは、この本にこれだけ期待してくださっているのだから、なんとしてでも実売を出さなければと、編集として売るためにできる限りのことをやろうと気合いが入るものです。

また、出版各社が実施している販促事例(パネル・POP内容、フェア内容、小冊子などの販促物など)もチェックします。

②は、新刊話題書コーナー、ランキング棚、自社の関連ジャンル棚(ビジネス、自己啓発、人文・心理、スピリチュアル、健康実用、新書など)をひととおり回って、今、売れている書籍の傾向をチェックします。企画テーマや著者といった企画に直結する傾向もさることながら、カバーデザインやタイトルの傾向、気になるカバーデザインや書籍があれば、それを手掛けたデザイナーさんイラストレーターさんライターさんもチェックします。

ちなみに、ある書店員さんいわく、店内にいる出版(編集)関係者をすぐに見抜けるそうです。というのも、出版(編集)関係者は、本を手に取ると、たいていその本の奥付をチェックするクセがあるから。たしかに、自分も絶対にやってます、しかも無意識レベルで(笑)。

▼奥付とは?

③は、編集者として大事な仕事、企画や著者のネタ探しです。ネタ探しは、あらゆる場面や場所で習慣的に行なっているものですが、書店もネタの宝庫の1つです。書店に入ると、スイッチが入ります。

新たな企画テーマや著者探しはさることながら、立案中の「企画の切り口」や「方向性」のヒント探し「類書」の研究など、多岐にわたります。「あのテーマに合う著者はいないかな?」「こんな著者さんがいるのか!」といった探索や発見から、「この著者さんに、新たにこのテーマで書いてもらったらおもしろいかも」「このテーマとあのテーマをかけ算してみたらどうだろう」など、頭の中はもう妄想でいっぱいです。あえて、想定しているジャンルの棚以外の他ジャンルや専門書コーナーに足を運ぶと、ヒントが転がっている場合があるからたまりません。とにかく、この妄想しているときは至福の時です。

◆どのくらいのペースで書店に行くか?

私は、週2回ペースで書店に足を運ぶように心掛けています。ただ、コロナ禍の影響でコロナ前よりペースが落ちていますが、週1回は必ず行っています。編集者のあるあるかと思いますが、書店に行かない日が続くと、情報についていけなくなるのではないか(取り残されるのではないか)と、不安になってきてしまうのです。行く人は、ほぼ毎日行く編集者もいるようです。

また、1つの書店を定点観測していると、爆発的なベストセラーではないものの、1面ながらずっと平積みになっている本に気づく場合もあります。つまり、それはロングセラーであり、定番テーマであることが推測されます。まさにこのパターンで、弊社の編集者がそんなテーマに目をつけて企画化、スマッシュヒットにつながった作品が下記の本です。

◆カバーデザインラフを置く

書店に行く目的に含まれるかもしれませんが、現在進行中の刊行前のカバーデザインラフ案を実際に書店に持って行って、ビジネス書だったらビジネス書の棚にそっと並べてみることがあります。そのカバーデザイン案が、書店店頭で実際にどう見えるかをチェックするためです。

店頭で見かけたとき、タイトルがしっかり目に入ってくるか(可読性があるか)、パッと目を惹く色目か、帯のコピーをあらためて読んでみて、訴求できるコピーになっているかなど、さまざまな視点から検証します。

次々と新刊が送り込まれている書店の店頭で、他の本と一緒に並んだとき、埋もれてしまって手に取ってもらえなければ意味がありません。もはや0.1秒の世界です。本からの声なき“声”が店頭で読者に届くかどうかをチェックします。なお、大きな“声”を出す本が多い中、逆に小さな“声”のほうが目に飛び込んでくる場合があるのが、またおもしろいところです。

◆書店員さんにコメントをもらう

懇意にしている書店員さんがいる場合、雑談レベルで構想中の企画を話してみたり、企画書やゲラを事前に渡して読んでもらったり、カバーデザイン案を見てもらい、所感・コメントをいただく場合があります。

最前線で読者の方々と接点を持つ存在、いわば読者代表とも言える書店員さんのコメントは、企画づくりにおいても、本づくりにおいても、とても参考になります。編集者によりますが、懇意にしている書店員さんは貴重なブレーンです。


ここまで、編集者の「書店」活用法というテーマで、思いつくままにざっとまとめてみましたが、あくまで個人的な活用法に過ぎません。10人の編集者がいれば10人それぞれの活用法があると思います。

◆忘れられない書店とこれからの書店

最後にもう1つ。

個人的に定点観測していた、忘れられない書店について。

忘れられない書店、印象に残っている書店はいくつかあるのですが、その1つが、東急百貨店本店の斜め向かいにあった「ブックファースト渋谷店」です(現在、H&Mが入っているビル)。ブックファースト渋谷店からタワレコ or HMVに行って新譜をチェック。これが当時の定番ルートでした。

同店には大学時代から編集者の駆け出しの頃によく出入りしていたのですが、当時、天井の高い1階スペースに雑誌コーナーがどーんと広がっており、メジャー誌のみならず、コミュニティ誌やマニア誌、各誌のバックナンバーまでを多く取り揃えている、大好きな書店でした。

あのおしゃれで壮大な1階フロアに、私は心を躍らせながら入店し、雑誌をひととおりチェックしたら、地下1階のサブカルコーナーに向かいます。映画・音楽系ジャンルをはじめとする新刊をチェック。そのあとは、2階より上のフロアを回って、新刊・既刊をチェックしながら、妄想をどんどん広げていました。

同店の魅力は、今では当たり前かもしれませんが、1階に置いてある雑誌の一部が、1階以外の書籍フロアでもジャンルに合わせて展開されており、来店者の妄想(書店側から言えば購買!?)意欲を駆り立ててくれた点です。そのセレクトも、書店のジャンル担当者さんが考え抜いたと思われる(担当者の意思を感じる)、読者のツボを押さえたものばかりで、とても刺激的でした。今の代官山や二子玉川の蔦屋書店などが、その流れを大きくアップデートした姿だと、個人的には感じています。

また、ご存じの方も多いと思いますが、新たな進化系の書店も生まれています。

▼入場料1500円を払えば、読み放題、コーヒー飲み放題の有料型書店「文喫」

▼弊社オフィスがある神楽坂にある校正専門会社「鴎来堂」が運営する「かもめブックス」

▼棚ごとに本の売り主が異なる、棚オーナー制書店「ブックマンション」

これらの書店さんが、今までとは違う新たなアプローチで、本好きや編集者の頭に新たな妄想のきっかけと刺激を与えてくれるのかと思うと、ワクワクしてきます。

▼音声では、同僚とともに話しています。



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