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「社長はいますぐ経理をやめてください!」~数字に自信のある社長はたった1割

スタートアップや会社の規模が小さいうちは、社長が経理を兼ねることがよくあります。しかし、公認会計士・税理士として1000社以上の経理を見てきた町田孝治さん曰く、「数字に強い社長は全体の1割」。今回は、社長が経理業務をすることがいかに機会損失につながっているか、というお話です。

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数字が苦手なのに、経理もやらなくてはいけない社長

社長自らが経理をやっている中小企業は少なくないと思います。
経理「も」やっている、というのが正しい言い方かもしれません。
これは特に創業社長に多いパターンです。
しかし、社長が経理もやるというのは、いろいろな点でおすすめできません。
まず、私のこれまでの経験では「数字に強い」という社長は非常に少なく、全体の1割ぐらいしかいない印象です。
もちろん例外はありますが、社長は基本的に直感的に物事を進めるので、細かい数字を見たり、入力を積み上げていったりすることが苦手なのでしょう。
実は、私もその1人です。細かな数字よりもつい「こんなビジネスをしたらおもしろいんじゃないか」ということにワクワクして、数字をよく見ず、見切り発車で突き進んでしまったりします。
社長の根拠のない思いつきに振り回される社員はたまったものではありませんし、こんなふうにどんぶり勘定で「まあ、なんとかなるんじゃない?」と突っ走るのは、言うまでもなく大きなリスクを伴います。

社長がやるべきは「監督」

そうは言っても、創業当初は経理スタッフを雇う余裕がなく、社長が営業もサービスもマネジメントも経理も全部自分でやらざるを得ない、ということも多いと思います。
自分で立ち上げたビジネスということもあり、創業社長は、仕事については一から十までなんでもできてしまいます。
営業をすればトップセールス、サービスをすれば満足度ナンバーワン、接客についてもダントツで、お客様に寄り添った新しいアイディアもピカイチです。お客様への思いも強く、行動力もあり、発想力もある、どんなことだってできてしまいます。 
このことをサッカーに例えるとすると、フォワードもミッドフィルダーもディフェンダーもゴールキーパーまでも、全部1人でやるようなものです。
社長は基本的にスーパーマンなので、やろうと思えば、こんなマルチプレーもできてしまうのですが、それゆえに、毎日忙しい綱渡りの日々になり、忙殺されることになるわけです。
しかし、社長本来の役割はフィールドで活躍することではありません。
本当にやるべきなのは、サッカーのたとえであれば「監督」のはずです。
試合に勝利するために何が必要かを考え、フィールドの脇からプレーヤーたちに的確な指示を出すことが監督の仕事です。
もっと本質的には、試合の采配のみでなく1年後のリーグ優勝に向け、どんな戦略で、そのためにはどんな布陣が必要で、そのための選手の獲得や、どのように選手のトレーニングを行うか?
試合相手の布陣の予測から、勝ち方のパターン作り、戦略のAプラン、Bプランの検討などなど様々な面で頭を使い、直感を働かせ、決断するのが、監督の役割なのです。
ボールを追いかけてフィールドを駆け回ってばかりいたら、大局的に試合の展開を読み、戦略を練ることがどうしてもおろそかになってしまいます。
ここで、改めて「経営者」という言葉を見てみましょう。
「経営」する「者」、と書きます。つまり、「経営」という仕事をする人です。
経営者でありながら、営業、製造、サービス、経理に追われていては、「経営」という仕事が十分にできません。
サッカーで監督不在のチームが強くなれないように、経営者不在の会社は成長することはないでしょう。
自らフィールドに立ってエースとして活躍せざるを得ないとしても、一番大事な役目は監督として全体を見ることです。
「チームのフォーメーションは正しいか?」
「適材適所になっているか?」
「長い目で見てチームが正しい方向に育っているか?」
「新しいメンバーの獲得、育成方針は最適か?」
そういったことを監督していく仕事が経営なのです。

社長が経理をやるのは「もったいない」

なんでもできる社長ですが、ウィークポイントがあるとしたら、それは経理という人は多いでしょう。
あまり得意でない数字を扱う経理の仕事はストレスがたまる原因になりがちです。
そのため、つい経理が後回しになり、適当に資料を作ってしまったりします。
実際、社長自らが作ってきた経理の資料には間違いが多いので、せっかく作っても、やり直しをお願いしなければならなかったりします。
ただでさえ忙しい社長の貴重な時間を、資料を何度も作り直すために使うのは、非常にもったいないことです。その時間を人に会ったり、営業したり、戦略を練る時間に回せば、どれほどビジネスチャンスが広がることでしょう。
私が担当したお客様で、数字が苦手で「経理のことは難しくてよくわからない」という社長が、「だいたい、こんなもんだろう」と適当に資料を作っていたことがありました。そのままご自身で税務署に行き、「後で直しますので」と話しながら手書きで申告書を出していました。社長は大まかにしか数字を見ず、「絶対に赤字だろう」と決算を組んでいました。
その後、税務調査となったのですが「書類に不備が多いので、やり直すように」と言われてしまいました。そこで、弊社に相談に来られたのです。
まとめて4年分の書類を作り直すだけでも大変なのですが、書類の管理状況に問題があり、必要な領収書がもはや見つからない状態でした。
見つからなかった領収書の一部は計上できず、結局、赤字だったはずの収支が黒字になってしまいました。そして、支払う税金の額も想定よりずっと多くなりました。
悪質な税金逃れというわけではありませんでしたから、資料が全部揃そろっていれば、税務署も少しは考慮してくれたかもしれません。
しかし、「本来あるべき資料がない」となると、手の打ちようがありませんでした。
そのため、多額の追徴課税が下されてしまったのです。

リスクが高い「社長の経理」

数字が苦手でやることが山のようにある社長が自分で経理をやっていると、資料を作るのがついつい後回しになってしまいます。
月次決算の数字が何ヶ月も出てこない、なんてことはめずらしくありません。
忙しいのは事実でしょう。しかし、経理の遅れは、思った以上に悪影響を及ぼします。
そもそも、数ヶ月前の月次決算に書かれた「古い数字」をよりどころに、的確な経営判断はできません。
人が増えたから広いオフィスに移ろうということになったとき、不動産屋さんからは決算書を見せてほしいと言われます。古い決算書で契約してくれる不動産屋さんは稀でしょう。
また、銀行から融資を受けるときには「直近の月次試算表を見たい」と言われます。
タイムリーに作成しておかないと、いざというときに融資を受けられないという事態に陥ってしまいます。
ビジネスが順調に伸び、人員増強、オフィス拡大、取引先も増え組織も構築してきたら、他の部門と同様に経理もバージョンアップさせる必要があります。
公明正大なビジネスをするためには、確定申告をはじめとする経理の資料をきちんと作ることは基本中の基本です。
「忙しいから」
「他にやることがたくさんある」
「経理はよくわからない」
「書類の整理が面倒」
もし、そんな理由で経理の作業が後回しになってしまうのだとしたら、その状態を放置していてはいけません。
一見なんとかなっているように思えても、経理の遅れはじわじわと会社の危機を招いているのです。
今は便利な会計ソフトや経理をアウトソースできる経理代行サービスなど、経理の仕事を効率化する方法はたくさんあります。
具体的には次章で説明したいと思いますが、社長自らが経理を担当していることで問題が生じているのであれば、まずは社長の時給とアウトソースする費用を比較してみてください。
実際には社長自身の精神的な苦痛や、対応遅れによる見えない損失など、様々なコストを払っていることになります。
世の中には経理回りの便利なサービスがたくさんありますので、サービスを利用してみることをぜひ検討してみてください。

『会社のお金を増やす 攻める経理』より抜粋・編集)

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(編集部 杉浦)

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