マガジンのカバー画像

140字小説『A子の日記』《完結済》

46
140字連続小説で紡ぐ、A子の一生を綴る物語。Twitterで毎日更新をしていたものをまとめています。さっと読めるので是非!
運営しているクリエイター

記事一覧

『A子の日記』#1

「あたしのなまえはえいこでる。きょうからにっきをかきはじめたいでる。ままにはないしょでる。さいきんままとぱぱがけんかをしているので、かなしいでる。はやくなかなおりしてほしいでる。」A子は覚えたばっかりのひらがなで日記を書き始めた。これからの彼女の人生はどうなるのだろうか?つづく。

『A子の日記』#2

いさねんせーになったーら!いさねんせーになったーら。ともだちひゃくにんできるかな。らんどせるがおそろいのじゅんこちゃんとおともだちになりました。ままも、ぱぱも、じゅんこちゃんのままも、じゅんこちゃんもわらつていたので、わたしもわらいました。あしたもたくさんおともだちできるといいな

『A子の日記』#3

「うるさい…。うるさい!」耳元で泣き叫ぶ"それ"を、私は両手で突き飛ばす。「きらい!えいこ、みいちゃん嫌い!」私の方が泣きたい。慌てたママは私を押しやり、それを抱き抱える。優しくて大好きだったママは私を鬼のような顔で怒鳴りつけ、それには天使のような微笑みを向ける。「私のママなのに」

『A子の日記』#4

絵本を選んでいると、いつもカウンターから動かない彼が隣に来た。「何探してんだ」ぶっきらぼうな口調で、目線は絵本へ向いたまま。「妹がね、好きなの、絵本。いいのある?」「ん」彼は1冊棚から抜き出した。群青の表紙に女の子がふたり。「魔女と姉妹の話。絵も綺麗」男子って単純。「ありがとう」

『A子の日記』#5

「俺、お前のこと好きなんだ。」小学校の卒業式を明日に控え、学校にはほんとんど人がいない。そんな静寂を彼の声が破った。夕陽で真っ赤に染まった図書室に浮かび上がる彼の輪郭。心臓がうるさい。「私も…」言いかけた言葉を飲み込む。彼の影は私の言葉を待つように動かない。「私、明日引っ越すの」

『A子の日記』#6

空の財布がまるで私みたいだった。価値あるものは蓄えようとしてもすぐに出ていってしまう。自動販売機を前に立ち尽くしていると、ポケットの中で子ども用携帯が震えた。『はやく帰ってきなさい。』渋々友人達に別れを告げ、家路を急ぐ。スーパーに寄って帰らなきゃ。お腹を空かせたあの男が待ってる。

『A子の日記』#7

キラキラ輝く星空。明日はなんて言おうかしら。アパートのドアの前で体操座りをしながら物思いにふける。「A子さん、その頬の怪我はどうしたんですか?」先生は聞くだろう。「おい、いつまでそうしてるんだ」あの男がドアをガンガンと叩く。私は「はい」と呟き、暗い部屋へ重い足を引きずるのだった。

『A子の日記』#8

屈託のない笑顔。ソレは小学生になったらしい。遊び相手になってやると「えいちゃん!」と声を煌めかせて擦り寄ってくる。コンコン。ドアの隙間から女が顔を覗かせた。「帰ろっか」とにこやかに言う。私達は歪な黒子のマトリョシカ。ひとり輪から外れた男を思って「じゃあね」と呟き、煙突を見上げた。

『A子の日記』#9

「結構溜まっちゃったな。」元々お菓子の入っていた缶を覗く。私は小さくため息をつき、蓋をそっと閉じた。最初は毎日来ていた。だんだん回数は減っていき、今では1ヶ月に1度だろうか。私は彼の手紙の封を切っていない。もう会うこともないだろう彼への想いは募るばかり。「早く諦めてくれないかな…」

『A子の日記』#10

公開告白を受け、なんとなく空を見上げた。修学旅行で訪れた京都は四方を紅葉に彩られ、ロマンスの舞台にはもってこいだった。この時期にしては珍しく温かい風が吹き、穏やかな心に波風を立たせる。班の子たちが遠巻きに成り行きを見つめ、目の前の彼は汗びっしょりで答えを待つ。「いいよ。付き合お」

『A子の日記』#11

最終問題まで終わらせ、自己採点をする。「んーー、65点」彼は鼻の下に赤ペンを挟むと椅子に体を投げ出した。私はそれを横目に自己採点をする。「何点ー?」「94点」彼は矢をいられたように胸を押さえ机に倒れ込む。彼は楽しい人だ。私は微笑み、窓の外を眺める。夕焼け空は私にあの日を思い出させた。

『A子の日記』#12

小学校の卒業式に参加する夢を見た。『そっちはどう?』『友達できた?』誕生日にもらった携帯電話に彼氏からのメールが届く。「順子ちゃんって子がいてね…」昨日まさかの再会を果たした友人の話をする。「しかも同じクラスで隣は」そこで手を止め、打ち込んだ名前を消した。隠す必要ないはずなのに。

『A子の日記』#13

涼しいと思っていた私は何処へやら。季節は私を銀世界へ誘う。毎年この時期はワクワクする。触るとひんやり、指先が薄紅色に染まる。クラスメイトの前では「雪で盛り上がるなんて男っていつまでも子供ね」なんて言っていたが実は少し羨ましい。「私、なにカッコつけてるんだろう」銀世界が笑っている。

『A子の日記』#14

積雪量が今年最大となったクリスマス。浮かれた教室は眩しい光を校庭に向けて放っていた。「参加しなくていいの?」後ろからした野太い声に少し心がざわつく。「なんか気分じゃないんだ」足元の雪を軽く蹴った。「みいちゃんのこと?」ぶり返す記憶が目頭を熱くする「胸貸そうか?」ばか。いらねーよ。