誰も教えない「乳化術」なぜ乳化が必要なのか?シュガーバッターは難しい
乳化とはなにかを今回語るのではなく、なぜ乳化が本当に必要なのかを書きます。
当店のビクトリアサンドイッチを例に皆様にご紹介致します。
その生地はキチンと「繋がっているのか?」
まず恐れること無く言います。
バターに卵を3回に分けて入れる。←これ嘘です。無理です。あり得ません。
そもそも油と水を混ぜる作業の「乳化」
卵黄のようにレシチンが入っていてとろみがあるものであれば出来るかと思いますが、卵白は触って分かるようにほぼ水。
鼻水みたいですよね。
これを3回で乳化させるのは乳化剤を使わないと絶対無理です。
乳化3回説は信用しないで下さい。
生地がしっかりと乳化している必要があるのはその滑らかな口当たり。
とろみがかった乳濁液はのどごしを作り、舌の上の体温で滑らかに緩やかに溶けて油成分が舌に纏わりうまみが長続きします。
それが唯一出来るのが乳化で「分離したら粉を加えたら元に戻る」というのも原理的には間違っています。
元に戻るのではなく、そのように見えると言うだけ。
全くの別物です。
製菓は4つの材料でお菓子を幅広く作るので錬金術と言われています。
その実は感覚よりも科学であることがとても多く、理系に向いている職業だともいえます。
ここからは順に各工程の役割を解説します。
① バターに砂糖を混ぜる「ブランシール」
まず最初の工程のブランシール
バターに砂糖をすり込む作業ですが、粒子の細かい砂糖(粉糖)を除いて勘違いしてはいけないのが「砂糖はバターに溶けない」と言うこと。
粉糖も溶けることはありませんが、もう目には見えないので溶けているように感じます。
油脂のバターに砂糖が溶ける訳ありません。
バターに砂糖を入れて混ぜる理由は、その粒子をも利用したバターのクリーミング性の拡大。
良く泡立つホイッパーには中にワイヤー製のボールが入っていたり、ワイヤーの本数が多いものがありますが、あれと原理は同じです。
同じ時間作業を行うのであれば、作用する原因が多ければ多いほどクリーミング性は早くしっかりと出来ます。
混ぜることでバター全体に行き渡った砂糖の粒子はその一粒一粒が小さなホイッパーそのもの。
バター自体のクリーミング性をあらゆる角度から強固なものにします。
当然空気を含んだバターは内部での光の乱反射で白く見えます。
② 卵の乳化と温度帯
卵をバターに混ぜる作業にも砂糖の粒子は同じ効果を与えます。
内容は先ほどと同じですので割愛しますが、ここで乳化に必要なポイントは「温度」
バターの温度は*約22度*
卵の温度は*約30度(湯煎にて)*にしておくことが重要です。
写真はあくまでもイメージですがこんな感じで温度は測りましょう。
非接触式の温度計がここでは役立ちます。
この各食材の温度はそれ以上ではバターの融点に影響してしまい失敗の原因になります。
バターの融点(溶け出す温度)は約30度。温かい卵と常温のバターは混ぜることで生地温が約22度から24度の間で安定します。
だからポイント。温度はほんとに重要。
また経験上「カトルカール」は無理だと思っています。
バターに対して100の水を分離しないで混ぜることは難しく、乳化したらそれは何になるのでしょうか。
もはや水でも油でもない新しい元素です。
基本的にはどちらかが多いことで乳化が成り立つと私は思っています。
だいたい多いのは油脂の場合ですが、水分の多い乳化もドレッシングなどの調理では存在します。
またこの温度帯で作るとなかなか分離はしませんが、出来るだけ卵は少しずつ入れましょう。
その理由は分離どうこうではなく、せっかくバターがたくさん抱え込んだ気泡に対して大量の液体が入ってしまったら空気が逃げてしまうからです。
シュガーバッター法はバターのクリーミング性を利用し抱え込んだ空気を加熱し水蒸化させることで生地を膨らませる方法。
ベーキングパウダーを入れるとはいえ純粋な気泡を逃がすことはおすすめ出来ません。
③ 粉を切り混ぜる。グルテンと向き合う。
なぜ粉を切り混ぜるのか。そもそも粉はなぜ入れるのか。
粉を入れる理由は形を外側から支える安定とその香りや香ばしさにあります。
バターに対して約80%の卵が入っているので凝固自体は問題ありません。
しかし、それは乳化しているとはいえオーブン内の温度の前ではむき出しの筋肉のようなもの。
そこに外枠の要素になる小麦粉を加えることでようやく生地の体ができあがります。
小麦粉でいつも問題に上がるのが「グルテン」です。
粉の中に多く存在し、水と混ぜほっとくことでも形成することが出来るグルテンは粘りけを基軸として生地の組織形成に多く関与します。
こねる と言った刺激でグルテンはより強く形成されますが、このグルテンをどこまで出すかが食感に影響します。
カヌレなどのねちねち食感では強力粉が使われますが、その理由はグルテンを形成するタンパク質含有量の影響。
焼き菓子ではほとんど使われません。
焼き菓子作りにおいて生地を混ぜるためにカードやゴムべらを多く使いますが、その使い方でもグルテンの出方は大きく異なります。
多くの場合焼き菓子はバターをたっぷりと入れます。これは歯切れの良さを主張したいものでもあり、油脂はグルテンの形成を阻害します。
まぜるときに 特に重要なことは使う器材の生地との設置部分の表面積。
少なければ少ないほど小麦粉を捏ねずにすむのでグルテンは出にくいです。
切り混ぜる理由はそのためです。
滑らかになるまで切り混ぜましょう。
④ 焼く温度。メイラード反応と蒸発の関係性
何よりも大切なのは焼く温度と時間です。
詳しく解説すると、焼き菓子に大切な「香ばしさ」と「ふんわりさ」と「うまさ」はそれぞれが温度が違うと言うこと。
「香ばしさ」を構成する糖分のメイラード反応は120度から150度の間で始まりまり完結します。
熱に反応して糖類が溶けてタンパク質が変化する~と長くなりますが、
とにかく香りが良いのはこの温度でできあがります。
基本的に良い香りを作るのは直で熱を浴びている表面が多いです。
「ふんわりさ」は生地中の水分(卵や牛乳など)が高温になった際、水蒸気として外に逃げたいときにグルテンで形成した膜からどうにか逃げだそうとして上に押し上げた結果です。
ベーキングパウダーの反応も生地内部の温度が50度になった辺りから急激に始まるので出来るだけ速い速度で生地の温度を上げたいところ。
そのためにはぬるい温度帯を早く通過しなければバターが溶け出してしまいます。
そのために必要なことは190度や200度の余熱からの180度焼成です。
もう矛盾が生じていますね。
「うまさ」は焼く温度と言うよりも焼く時間です。うまさは小麦粉から来ることが多いので小麦粉のタンパク質が熱で変化するとうまさに変わります。
小麦粉に火を入れる場合低い温度でだらだらと焼くのではなく、高温で一気に焼いて上げないの美味しくありません。
温度帯は「ふんわりさ」と同じ。
矛盾2つめです。
このように「焼く」という行為にも理由は存在していてその温度帯をどのくらい続ければいいのかをも考えて焼かなければいけません。
バターに砂糖を入れて白っぽくなるまでまぜる→卵を3回に分けて入れる→粉をふるってさっくり混ぜる→180度のオーブンで30分焼く。
にはこれだけの意味と背景が隠れています。
焼き菓子はなめていたら作れません。美味しいものには必ず理由があるが私の考え方です。
最後にレシピ
(直径18cmの型1台分)
バター 112.5g(22度辺り。堅かったらボウルを温めて調整)
微粒子グラニュー糖 112.5g
全卵 90g(バターに対して80%、湯煎等で30度まで温め)
薄力粉 112.5g
ベーキングパウダー 5.6g
牛乳 16.8g
働きたい飲食店を目指して目標に進んでいます。