見出し画像

空の雲フーの幸せレシピ 第1話

フーは北の空で生まれた若い雲です。最近やっと大人になりました。

フーは子どもの頃、ほかの雲の子と同じように雨雲学校に通っていました。
2年生の担任だった入道雲先生からは、雨の降らせ方を教えてもらいました。

でも、なかなかうまくできなくて、がっかりしていた時期もありました。

ある時などは、学校を抜け出して、荒っぽいカミナリや北風と一緒に嵐を起こしたこともありましたっけ。

人間の子どもも、嫌なことがあったら逃げ出したくなりますよね?
雲の子だって同じなのです。

そんなフーも大きくなって、雨雲学校を無事に卒業しました。
そして大人の雲のための『虹の川学校』に入学しました。

虹の川学校は、この世界の仕組みをくわしく知るための学校です。
そして、ひとつの雲が幸せになり、生きる意味をもつようになることを学びます。

虹の川学校で学んでいる雲たちは、雨や雪を降らすこと以外に、自分に何ができるのかを、よく考えました。

こんな難しいことは、一人で考えてもなかなか答えは出ません。

だから、雲たちは他の雲たちと話したり、空の先輩たちの話を聞いたりしながら、考えをまとめていたのです。

フーがよく話していた空の先輩のひとりは南風です。南風はフーのことを小さいころからよく知っていて、困った時にはいつもやさしく助けてくれました。

南風は虹の川学校で、生徒たちのご飯を作るシェフをしていました。

人間の世界では、学校の生徒の食事を作る人のことを、食堂のおじさん、とか、給食のおばさん、とか呼ぶようですね。

空では、食事を作る人は、どこにいてもみんな「シェフ」という役職で呼ばれ、とても大切にされていました。

なぜって、空の食ベ物を用意するのは大切な仕事だからです。雲も人間と同じで、生きていくためには、よい食事が欠かせないのです。

フーはシェフの南風のことを、親しみを込めて「ナナさん」と呼んで、毎日のように話をしていました。

ナナさんは物知りで、深くものごとを考えました。そして、穏やかに共感しながら話してくれました。だから、どんな話題でも、安心して話していられるのでした。

ナナさんと話していてとりわけ楽しい話題は、何と言ってもおいしい食べ物のことです。

空の美味しい食べ物といえば、白くてフワフワの水蒸気トーストや、虹色のレインボーパンケーキ、黒いクリームの中に白い渦が巻いたミルキーウェイソフトクリームなどがあります。

ナナさんは、目に見えないことを大切にしていました。それで、料理を作る時も味のよしあしだけではなく、心の栄養になる料理をモットーにしていました。

とりわけ、天にも昇る気分になる料理がナナさんの得意分野です。フーは、そんなナナさんの空の料理が大好きでした。

ナナさんは、フーのことを本当の息子みたいに可愛がってくれました。それで、フーのいい所をいっぱい見つけては、いつもフーに教えてくれます。

たとえばフーは、料理を味わうことが得意です。ナナさんが料理に入れた隠し味を、すぐに言い当てられます。

それから、ものごとをよく観察することも上手です。そして、だれかの役に立ちたいと強く思っています。

ナナさんは、心の目でフーのことを見つめながら、フーが持っている特別な才能を見抜くことができました。

ある時ナナさんは、フーにひとつの提案をしました。

「フー、学校を少しの間お休みして、地上へ旅をしてはどうかしら?これは、あなたが素晴らしいと思うものを見つける旅よ。その旅をしている間、だれかを幸せにすることができたら、とてもいい学びになると思うわ。」

フーはその考えに大賛成でした。フーは頭や口を使って、考えたり話したりするのが好きな雲でしたが、動きながら何かを学ぶことも同じくらい好きでした。

だから、今の学校の先生たちから、この世界のことを教えてもらえるのは良かったのですが、どこか何か物足りなく感じていたのです。

地上には、小さいころに家族で行ったきりで、一人で行ったことがありません。
それに、学校を卒業する前にだれかの役に立つお仕事ができるなんて、なんだかワクワクします。

ところで、フーには相棒がいました。伝書バトのコルムです。

コルムは、夜は地上で寝ていましたが、朝になるといつもフーの所に来ては、「クルックー」と楽しそうに鳴きながら、地上の出来事を話してくれました。

フーはいつも、それを半分うわの空で聞いていました。でも、この旅に出かけることが決まった時から、態度がすっかり変わりました。

フーはコルムに色々な質問を浴びせかけました。その中でもフーにとって重要だったのは、次の3つの質問でした。

1.若い雲が楽しめる場所はどこ?
(せっかく地上へ行くなら、たくさん面白い体験がしたかったのです。)

2.やさしい動物にどうやったら会える?
(フーは、うさぎやリス、小鳥などのやさしい動物と友達になりたいと思っていました。乱暴な生き物はまっぴらごめんです。)

3.おいしい料理はどこで学べる?
(フーは、ナナさんが食堂で出す、新しいメニューをいつも探しているのを知っていました。地上でいい料理を知ったら、あとで教えてあげたかったのです。)

コルムは知っている限りのことを、こんな歌にして親切に教えてくれました。

クルックー
若い雲が楽しめる所、それは自然が沢山あるところ
山や川や湖や、大きな原っぱのあるところ

やさしい動物は、やさしい人のそばにいる
おいしい料理は、おいしいごはんが好きな人のそばにある
クルックー クルックー

それをよく聞いていたフーは、地上に行くのがとても楽しみになってきました。
(人間が住んでいる山や川や湖に行けば、面白いことに出会えそうだぞ。)

フーはそう考えてドキドキしてきました。地上に行ったらどんな人と出会って、どんなことが起きるのでしょうか?

予想もつかないけれど、それはフーにとっていい事ばかりのように思えたのでした。

つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?