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初めての障害者雇用 新入社員研修編_その2~総務からはじめる、障害者雇用ノウハウ~

はじめに(チームより)

フローレンスは、親子を取り巻く社会課題の解決を目指しているNPOで、現在、約700名が所属しています。多様なメンバーの「働く」を支えているのがバックオフィス業務を主に担っている働き方革命事業部、通称「ハタカク」です。
ハタカクは人事、経理、法務、総務、といった業務で構成されていて、障害者雇用チームも含まれています。フローレンスの事業を裏で支えるハタカクメンバーの業務や仕事への思いをnoteに投稿しています。

フローレンスの障害者雇用についての視察や講演などの問い合わせは、 https://florence.or.jp/contact/ の取材・広報申込みフォームよりご連絡ください。


特別支援学校からの入社スタッフで構成される「オペレーションズ」には
・各事業部からの依頼業務(年間約4,000時間分)を集めて管理
・6年間「離職者0」を守るサポート
・個々のスキルを積み上げていく育成

といった様々な仕組みがあり、特別支援学校の先生方や障害者雇用に関わる方から評価をいただけるようになりました。

フローレンスがどのように障害者雇用を立ち上げて運営してきたのか、6年間での成功や失敗、そして立ちはだかった課題を振り返り、山あり谷ありの歩みやエピソードを、このnoteでご紹介していきます。

初めての障害者雇用_新入社員研修編_その2

前回「初めての障害者雇用 新入社員研修編」で、特別支援学校を卒業してフローレンスに入社するスタッフが、新卒向け新入社員研修に参加していることと、その理由についてお伝えしました。
今回は、障害者雇用スタッフが初めて新卒向け新入社員研修に参加した時に起きたアクシデントと、アクシデントを通じて痛感した『情報共有の大切さ』についてお伝えしていきます。

「障害特性と必要な配慮」

障害者雇用スタッフを採用するときの重要事項の一つに「障害特性と必要な配慮」に関する情報の収集があります。
・得意なこと
・苦手なこと
・苦手なことに対して自分で行っている工夫
・周りにして欲しい配慮
などについて知っておくことはとても大切です。

支援機関や学校の先生などからの共有情報だけにとどめず、面談等で本人から直接聞き取ったり、実習中の様子からアセスメント(*1)して情報を蓄積していくことが大切です。
収集した情報は、業務の適性を考えたり安定就労を支援する時に役立っていきます。

障害者雇用スタッフを受け入れる側もさまざまな不安を感じることがあります。双方が安心して一緒に働くことができるように、集めた情報を障害者雇用スタッフと関わるメンバーにも共有できることが望ましい環境です。

「自分の力で頑張りたいから情報は公開したくありません」

フローレンスで初めて特別支援学校から実習生として受け入れたAさんは、学校からの情報共有では識字の発達に課題がありながらも同級生のサポート役を任されているとのことで、コミュニケーション力と素直さが評価されて内定に至りました。

内定後に実施された面談の席で障害特性や配慮事項の情報に関する社内共有について確認をしたところ「障害特性に関する情報は限られた人への公開としたい」とのこと。Aさん本人から「できるだけ配慮を受けず自分自身の力でみなさんと同じように仕事ができるようになりたい」と希望が出されました。
すでにAさんには、入社時には新卒向け新入社員研修に参加してほしいことを説明していましたので、「2週間の研修期間を一緒に過ごす新卒スタッフへの情報共有」を提案しました。しかし、Aさんの希望は「情報の共有は研修運営メンバーに限定してしてほしい」というものでした。

障害特性や配慮事項に関する情報についての共有は、公開内容や範囲について本人の同意のもと決定していくことが事業所に求められます。本人の意向には従わなければいけません。

Aさん本人からは、世代の近い新卒スタッフと一緒に新入社員研修に参加できることを積極的な気持ちで受け止めている様子が伺えましたが、Aさんの障害特性について情報の共有ができないことは、私たちにとって小さな不安の種となりました。
私たちは、対策の一つとして新入社員研修の最初に「フローレンスは障害者雇用に取り組んでいる」こと「社会経験の少ないAさんへのサポート」を心がけてほしいことを伝えることにしました。

「アクシデント」

会話においてのコミュニケーションは得意だったAさんは、大きな課題を抱えることなく、入社式、自己紹介、アイスブレイクと新入社員研修を順調にスタートさせました。参加メンバー同士のコミュニケーションが円滑だったこともあり、とても良い雰囲気で研修は進んでいきました。

数日を経てメンバー同士が打ち解けてきた頃、グループワークが進む中で小さなアクシデントが起こりました。ファシリテーターが大切なことを伝えているのにメモをとろうとしないAさんを見て、新卒スタッフの一人が「どうしてメモをとらないの? 社会人として基本じゃん。メモをとらないからわからなくなるんだよ。」と声をかけたのです。もちろん悪気はなかったでしょう。むしろ、自分より年下のAさんに教えてあげようとする気持ちだったと思います。
識字の発達に課題のあるAさんにとって「メモをとる」ことはとても難しいことでしたが、その特性について情報を共有していなかったため、「Aさんにとってメモをとることは困難」であることは新卒スタッフには想像もつかないことでした。他の場面での、ちょっとした間違いを笑いを交えながらメンバー同士で指摘し合うようなことが重なったこともあり、Aさんは次第にオドオドとした様子になってワークへの参加が難しくなってしまいました。

このままでは、Aさんの研修参加自体が難しくなると考え、研修運営メンバーとAさんとで面談の時間を持つことにしました。「このようなことが起こっているのはなぜだと思う?」との問いかけにAさんが答えます。「自分は文字を読んだり書いたりすることが苦手であることを伝えていないからだと思う」。Aさんは面談を通じて「自分の特性と必要な配慮を伝えることで、研修に参加しやすくなる。」ということを理解してくれました。

「アクシデントも成長の種」

誰にとっても自分の不得意や弱い部分を人に伝えるときには大きな勇気を必要とします。緊張した面持ちで皆の前で自分の不得手について話をしてくれたAさんの姿は心を打つものがありました。
Aさんの一生懸命な姿を目の当たりにし、メモを取れない理由があったこと、自分の言葉がAさんを傷つけたことを知った新卒スタッフは、傷つき、とても悔やんで、心からの言葉をAさんに伝えてくれました。お互いの状況や気持ちを伝え合えたことで、チームの雰囲気は以前にもまして格段に良くなり、新卒スタッフ全員からのAさんへのフォローは日常の中であたり前のこととして行われるようになりました。

この年の新卒メンバーは配属された後も定期的に同期会を開くなど仲がよく、Aさんにも頻繁に声をかけてくれました。今でもAさんにとって安心して話ができる大切な同期メンバーです。

実は、面談の場では「Aさんの特性について運営メンバーから新卒スタッフに伝える」ことを提案していましたが、Aさんは考えた末に自分の言葉で説明することを選択してくれました。その選択は、Aさんにとって大きな自信となり後の成長に大きく影響したと感じています。

私たちもまた、このアクシデントを通して『障害特性に関する情報と必要な配慮の共有が障害者本人を守ることにつながる』ことを痛感しました。現在では、本人への意思確認の前に「必要な配慮について知ってもらう」ことの大切さをしっかりと説明するよう心がけています。

「メモって難しい!」

今回、アクシデントのきっかけとなった「メモを取る」こと。多くの皆さんには困難はないことだと思います。でも、識字の発達課題に限らず、自閉症やADHDといった発達障害がある人にとっても『メモを取る』ことは難しい場合が多いようです。

「メモをとる」 行動を分解してみよう
1.相手の話を理解する
2.理解した内容を自分にわかりやすい文章に置き換える
3.文字で書く
4.文字を書きながら次の話に耳を傾ける
分解してみると、メモを取るという行動がいくつもの行動を同時に行わなくてはいけないマルチタスク(*2)であることが分かります。

発達に課題のある人はマルチタスクが苦手と言われています。
必要なことを伝える場合の工夫として
・言葉をなるべく短く簡潔にする
・一つ伝えた後はメモを取る時間をとる
・メモを取り終えてから、次の言葉を伝える
という配慮を心がけてみてください。

(*1)アセスメント:人やものごとを客観的に評価・分析すること
(*2)マルチタスク:複数の作業を同時並行、同時進行で行う能力のこと

執筆の背景

障害者雇用関連の情報は、採用・育成の事例やノウハウばかりで、採用した障害者雇用の社員に「どのような業務を、どうやってもらうのか」のノウハウが足りていません。

そこで、実務ノウハウや、障害者雇用チームの立ち上げ経緯などを公開することで、障害のある社員自身や総務担当者が、はじめの一歩を踏み出せるシリーズを立ち上げました

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