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大学生に一番おすすめしたい小説


テスト勉強が一段落したところで久しぶりに書いてみる。
2週間前くらいに読んだ小説について。
と言っても読書感想文という感じではないから読んで!ください!



「フラニーとズーイ」(J.D.サリンジャー,村上春樹訳)



「ライ麦畑でつかまえて」で有名な作者の本(知ってるかな?)。
大学がなんだか嫌になって、宗教にのめり込んで引きこもりになってしまった妹フラニーを兄ズーイがあれこれと話し合ってなんとか救いだそうとする、そんな話。


あんまり読んだことのない設定でわくわくした。
とにかくこの人の本は癖がすんごい。
この人の特徴を残しつつ翻訳するのには相当に骨が折れるだろう。


社会に不満をこぼしたくなる時。
そんな時にこの人の本を読むと、そこまで言わんでもいいやん。
と思わず止めてしまいたくなるくらいにはグチグチとした物言いが多い。
社会をかばいたくなるくらいには物事を斜に構えた態度。
とにかく皮肉の聞いたセリフ回し。
どうやって思いついたのか分からない様々な比喩。
好き嫌いが分かれそうな一冊となっている。

でも皮肉も度が過ぎれば何かと憎めなくなってくる。
偉そうというか、ああこの人も苦しんでいるんだろな、みたいな気持ちになってくる。

そしてどこかでその皮肉が図星となって刺さる場面がある。
その場面は一者一様で、この本の読者各々に訪れる。
みんながみんな同じ場面ではないけれど、

「ああ、痛い所を突かれたな」

そんなことを感じる場面が必ずあると私は思う。

優しさをもってズケズケとした物言いでズバッと自分の咎を正す。
大人になるほど、そんな他人が減っていく。
ぶつかるのが面倒だし、嫌われたくないし、みんな適度に距離を保って社会生活を営んでいる。

だからこそこの本が響く。
自分の嫌なところを容赦なく突きつけてくるからだ。
かさぶたでフタをした部分を無理矢理剥がしてくるような。
そんな強引さがこの本から感じられた。


さて、つまらない読書感想は置いといて、本題に移ろう。
ぼくが「痛いとこついてくるな」と思った文を以下に示す。

・・・みんながやっていることはすべてーなんと言えばいいのかしらーぜんぜん間違ってないの。意地悪くさえないし、必ずしも愚かしいというわけでもないの。ただちっぽけで意味がなくて、そしてー気が滅入っちゃうだけ。でもいちばんまずいのは、もしあなたがボヘミアンとか、そういったとんでもないものになったとしても、それはそれでまたしっかり画一化されちゃうということなの。ちょっと違った風にではあるけれど、やはりみんなと同じになってしまう。」(P45-46)


ここからはぼくが、そして多くの大学生も多分思っているんじゃないかな。というような事についてつらつら書くので見てね。

大学に入るまでは(高校卒業までは)、バイトをして、部活をして、文化祭をして、体育祭をして、大なり小なり多様性はあれど、やってることや生活リズムはみんな似たり通ったりだった。
高校に行くこと自体は任意だが、入学してしまえばほぼ強制的で。
部活行かなきゃ、学校行かなきゃ、帰りてえ。
だけどそれを不自由に感じる人はマジョリティだろうか。
ぼくは不自由には感じなかったし、楽しかった。
むしろ中学の時より行動範囲が広がって、自由度が増したと思っていた。

だけど大学に入ると高校の2倍、いや3倍くらいには世界が広がった。
様々なコミュニティ、様々な場所、様々な生活様式、様々な価値観。
人間やっぱりキラキラしたものには目が行きがちで、大学一年生の頃から目立つのは、起業したり、インターンしたり、サークルで幅を利かせていたり、独自に校外にコミュニティをもっていたり。
人とは違う何かを持っている人が輝いて見えた。

だから色々試行錯誤した。
資格を取ろうとしてみたり、変な国に旅行に行ってみたり、誰もやってなさそうなことをやってみたり。
とにかくそっち側の人間になりたかった自分がいた。
正直、そっち側の人間は嫌いだった。
この嫌いは嫉妬からくるものかも知れないが、今はその正体が分かる。

人とは違う何かを持っている人は、実際には人とは違う何かを持っていそうに見える人であることに気付いたからだ。
本物のオンリーワンじゃないのに見せかけで取り繕ってそう見せているから嫌いなのだ。

みんなオンリーワンとも言えるが、逆説としてみんな誰かと何かしらかぶっていると言える。
珍しいことをしていても全国で同じ事をしている人が一人もいないと言い切れるはずがない。
そのことに気が付けなかった。いや、気付いていたかも知れないが、自分は違うと妙な思い上がりをしていたのかもしれない。
その思い上がりをぶち壊してくれたのが上の文。

みんな間違ってない、けど気が滅入っちゃう。

ある物事をすることには何の問題もない。だけど私自身が多くの大学生がそれをしている中の一人であることを考えると馬鹿らしくなってしまう。
そこにはある物事をしている自分自身が周囲と違って特別だという思い上がりが存在したわけだ。
そしてそれに気付いて更に他のことに手を付けてみるが、やっぱりそれも同じ事。何をしても誰かとかぶる。
だからオンリーワンを追い求めることって虚無くね?

そんなことをフラニーは感じてしまったわけだ。
あまりに痛いところすぎて、心の中で「うっ、、、」と呻き声が聞こえた。
そんな気がする位には身にこたえた。
わりと絶望感もあった。
ああ、叶いもしないもののために2年間もがいてたのかって。
だけどぐうの音も出ないので、認めるしかなくて。
認めると少し楽になった。

ああ、どうせかぶるなら何もしなくてもいいし、何でもしていいや。
そんな風に思えたよね。
大学生の間に気づけて良かった。

絶望と解放と、そんな気分を味わえた一冊でした。
読み終わって疲れました。
皮肉の効いたユーモアを言える人間になりたい。




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