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競合優位性は機能ではなく●●でつくる

このnoteは前回のnote「武器としてのUX」の続編です。UXって何?という方は前回noteを先に読んでいただけるといいかと思います。今回のnoteは武器であるUXを起点にどう競合優位性をつくろうとしているかがテーマです。

競合優位性は「機能」から「体験」へ

新規事業を考えていることもあって、投資家やビジコンの審査員に事業の話をさせていただく機会がよくある。そんなとき決まって聞かれる&僕が答えづらいなと思う二大質問があって、それが創業動機と競合優位性だ。創業動機は以下のnoteに譲るとして、ここでは競合優位性の方を考える。

サービス導入時の意思決定プロセス

BtoBの場合、まずそもそもの前提として、社内における困りごとというのはすでに顕在化していることが多い。企業はその課題解決の対価としてお金を払う。

またターゲットとなる企業の規模や商材にもよるけど、検討は複数の人間をまたぐケースが多い。窓口になる現場の担当者と、経営陣や部長陣のような意思決定者という異なる役割のプレーヤーが登場するということだ。

だから担当者は当然、会社や事業の課題にフィットしたサービスを選んで上長に相談しなくてはいけない。相見積もりやコンペになると、担当者は要件を満たせそうなサービスをいくつか見繕って、その中で比較検討を行う。業務要件に照らして、そのサービスが有用なのかそうでもないのかを客観的に整理して、上長に上申するのが一般的な流れになる。もっとも明確に相見積もりやコンペと言われなくても、意思決定の過程で僕らのプロダクトと他社プロダクトが比較されることはある。

このとき最も手っ取り早いのは比較用の軸を考えてスペックを一覧にまとめる比較表を作ってしまうことだ。比較表は担当者も整理がしやすいし、見る人にとっても分かりやすい。理に適った合理的な手法だ。比較表?って人は↓のような表をイメージしてもらえればOK。

比較表のイメージ

そして意思決定者は、担当者が作成した社内資料(というか比較表)をもとに、その会社にとって最も必要なサービスが何かを総合的に判断し、決裁する。これが一般的なBtoBの検討プロセスになる。

従来の意思決定が生み出したレガシーシステム

担当者と意思決定者で役割を分けて分業するというのは組織上どうしても必要だ。ただこうした意思決定プロセスでの検討において単純な機能数の優劣だけに固執した意思決定をする組織は結構ヤバい

なぜならば、「〇の数」でサービスの善し悪しを判断することで、「多機能は正義」みたいな神話をサービスの提供者も、利用者も、無意識のうちに信仰するようになってしまうからだ。

言ってしまえば、前回のnoteで例に出したリモコンが「最良のリモコン」であると評価され、決裁のハンコが押される。

比較表で選ばれる仕組みはまさにコレ

「そんなバカなことがあるわけないだろ!」と思うかもしれない。でも実際に自分の会社が使っている業務システムを振り返ってみてほしい。分厚いマニュアルがないと操作できなかったり、操作がめちゃくちゃ複雑だったり、企業独自の暗黙上のマイルールが勝手に引かれていたり…社会人の多くが、そんなレガシーシステムに対して日々悪態をついているんじゃないだろうか。

toCサービスに比べて、toBの業務システムというのはとにかくUXが悪い。その背景には、機能を追加して追加して建て増していくことで、今のレガシーシステムが生き残ってきたという歴史がある。そうやって増改築を重ねたサービスは渋谷駅みたいな複雑で難解な構造を持つようになり、やがて利用者のための分厚いマニュアルが必要になる。データベースも複雑になり、抜本的な導線改善を図るような開発は事実上不可能に。些末な機能改善に多くの工数とお金がかかる。こんなことになってしまったのは「機能の数」だけを追い求めて、足し算をひたすらしてきたからだ。

マニュアルなんて究極必要ない。iphoneはできることがめちゃくちゃたくさんあるのに、マニュアルはほとんどない。でもみんな普通に使っている。

価値の源泉は新しい「体験」

最近は、少しずつBtoBでも変化が起こり始めている。新興のSaaSサービスが採用(Wantedly)・経理(freee)・契約(CloudSign)などで出てきて、シェアを伸ばしてきている。彼らのサービスが広がるにつれ、ビジネスシーンでの課題がやっと解決され始めたように感じている人も多いと思う。SlackやNotionもビジネスシーンを大きく変革した。

これらのサービスは「機能」が優れているから広く使われるようになったのだろうか。もちろん必要な機能はそろっているから一定「Yes」だと思う。ただその一方で機能だけでいうなら、彼らのサービスがここまで成長してきたことを説明できない。

Slackの主要な機能自体はメールにもあった。「1:1でやりとりする」「まとめて連絡する」「ファイルを送受信する」…etc。どれもメールにある機能。slackがウケたのは「スタンプができる」機能がメールにないからじゃない。

Notionは僕の愛するサービスの一つだけど、Notionの機能自体も「表が作れる」「文章が書ける」「文章内に画像がおける」という切り方をすれば、WordやExcelにだって同じような機能がある。Notionがウケたのは「TODOリストが作れる」機能がWordにないからじゃない。

Slackは企業内外の人とオープンでライトなやりとりを可能にして、組織の風通しをよくしたし、Notionはデータベースの自由度や操作性を磨きまくって、Wikiやタスク管理、スケジュール管理など、様々なドキュメントを手軽に作成・管理できるようにした。

そこにあるのは「まだ見ぬ新しい機能」ではない。そこにあるのは既存ツールでは得られなかった「新しい体験」だ。その体験が当たり前になると、人はもう以前の古い体験に戻れなくなる。そこに痛みが生じてしまう。プロダクトで磨いた「体験」が価値の源泉となり、利用者を惹きつけ、ファンを生みだす。

toCも同じで、人は体験にお金を払っている。

Uber … タクシーを探さなくても、必要なときにすぐに配車できる体験
Airbnb … 現地の人と交流しながら旅をよりディープに楽しめる体験
Spotify … 聞きたい音楽をいつでも自由に聞ける体験
NetFlix … どこにいてもみたい映画をいつでも自由に見られる体験

結果、Uberはタクシー業界を、Airbnbはホテル業界を、Spotifyは音楽業界を、NetFlixはDVDレンタル業界をディスラプトすることになった。雇用が~とか市場規模が~とか言っている人がいるけど、それは本質的ではない。彼らが新しい体験を生み出し、業界における常識や文化を再定義しようとしているということが、今起こっていることの本質だと思う。

もはや機能では差別化できない

近年は特に商材の栄枯盛衰が激しく、さまざまなサービスやプロダクトが生まれては消えていく。無数にプロダクトがある中で、製品・サービスの機能・内容だけで他社との差別化を図るのはもはや結構難しい。「機能」という切り口だと、類似したサービスは世の中にゴロゴロある。

そして、何より機能は簡単に他社に真似される。それなりに各社プロダクトを磨いているわけで、圧倒的にいい機能があるならみんな実装したいに決まっている。そうやって他社が追随、同質化するものだから、機能で作られた競合優位性はものの数カ月で失われることになる。比較検討が比較表ベースで行われるからといって、同じ土俵で無理に戦おうとするのは負け筋だ。

どうすればサービスとして生き残っていけるのか。要件は意外とシンプルだと思う。「ユーザが価値があると感じ、主体的に選びとりたいと思えるだけの体験を提供できるか」。それだけ。そしてその要件を根幹から支えるのがUXデザインだ。

僕の今作っているサービスにも、もちろん競合サービスはある。機能だけでいうと、ぶっちゃけ大して変わらない。それどころか機能視点だと負けているところもある。でもだからといってプロダクトが負けているとは全く思っていない。日本の養殖業において、これ以上の最高のサービスは少なくとも日本には存在しないと本気で思っている。それは僕らが勝負している土俵が「機能」ではないからだ。

養殖業における最高の体験を創る。
僕らはこの土俵で尖ろうとしているし、それが競合優位性をつくることにも繋がると思っている。

…という話を、毎回投資家やビジコンの審査員に説明するんだけど、時間が限られた中ではうまく説明しきれないので、向こうもあまり腑に落ちないらしい。「他社よりも優れた機能があるから勝てる」という前提が彼らの中にあるので、どうしても理解してもらいづらい。本質は機能よりも体験にある。

続編あります!

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