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養殖生産者に届けたい3つの体験

このnoteは前回のnote「武器としてのUX」「競合優位性は機能ではなく●●でつくる」の続編です。UXって何?競合優位性って普通に機能ベースでしょ!という方は前回noteを先に読んでいただけるといいかと思います。今回のnoteは競合優位性といえるくらい尖った最高の体験をユーザに届けるために、僕たちがどんな体験をつくろうとしているかがテーマです。

創ろうとしている3つの体験

僕が今、開発しているプロダクトで目指している「最高の体験」は、具体的には以下の3つの要素で構成される(今後変わるかもしれない)。

  1. データ整理の作業から解放される

  2. 手間ゼロで正確な計算結果がわかる

  3. 自信をもって養殖経営の舵がとれる

将来的にはAIによる分析・予測も加えて、養殖経営の新しい答えを一緒に探る相棒のような存在になることを目指している。

❶データ整理の作業から解放される

As is

へい死・給餌などの養殖のデータを記録・整理・管理する体験は決して心地よいものにはなっていない。紙の記録は記録は簡単でも、整理・管理が煩雑だ。複数の船で作業をすると物理的に記録媒体が隻数分に分かれるので、データがバラバラの場所に記録されてしまう。これを毎日集約して、何かのシステムに再入力するとか、考えるだけで気が滅入る。何より紙はかさばる。

クラウドサービスがないわけではない。ただスマホやタブレットで使うとなると、ちょっと無理があると感じるサービスが大半だ。たとえばExcel。セルを頑張って拡大して入力するとか不毛すぎる。

さらに意外と見落としがちなのが、自動給餌機のシステム。日本の養殖現場でよく使われている自動給餌機はだいたい3社によって寡占されている。中にはクラウドとつながっている自動給餌機(IoT)もある。そういう給餌機は給餌した量をスマホやタブレット上で表示ができるようになっている。つまり給餌量を自動で取得し、データ化している。

ということは、この部分的にデジタル化された給餌データも一緒にまとめて本来は扱わないといけないということになる。エサやりの仕事は省力化できても、データ管理という意味だと実は生産現場でやるべき仕事は増えているということに多くの人が気づいていない。

一言で給餌といっても、何の魚をどう育てているかによって実は給餌の仕方が異なる。「全部、自動給餌機にしたらいい」というのはさすがに暴論だ。

  • 稚魚(DP・EPの手やり)

  • 成魚(MP)

  • 成魚(DP・EP)

    1. 自動給餌機を使っている生簀(自動)

    2. 自動給餌機を使っていない生簀(手やり)

※DP・EPって何?
いずれもペレット状のエサのこと。DPはドライペレット、EPはエクストルーダーペレットの略。EPの方が水中で崩れにくい。

※MPって何?
モイストペレットのこと。冷凍した生の魚とビタミン剤や配合飼料を船の上で混ぜ合わせて給餌する給餌方法。

クラウド接続型の最新の自動給餌機は値段も張るので、すべての養殖生簀に設置するのはどうしても難しい。そうなると最新の自動給餌機を使わない(自動給餌はできても給餌量がデータ連携されないアナログなやつを使う)生簀も出てくる。さらに自動給餌機で記録が自動化されている領域はDP・EPで成魚を育てるケースだけで限定的だ。

稚魚は手やりでエサやりをするので自動給餌機を使わないし、MPは船の上でいろんなものを混ぜるため、自動化できない。しかもMPは複数のものを混ぜ合わせる都合上、複数の給餌記録が必要になる。そのためデータの記録も保管も整理も煩雑になりがちだ。

生産現場の仕事内容については以下のnoteに詳しく書いたので、養殖の現場仕事とあまり縁がない方は一読いただけるとです ↓

To be

こういった現状の不を解決する。

すべての養殖生産に関わるデータを船の上でも簡単に直感的に入力できる手軽な体験を提供する。タブレットをそれぞれの船に載せ、船ごとに作業記録をつける。いちいち陸でデータの整理・集約作業をする必要はもうない。データは即時かつ自動でクラウド内に共有される。

❷手間ゼロで正確な計算結果がわかる

As is

最近はウクライナへのロシア侵攻、円安、魚粉価格の高騰などの影響で飼料価格、燃料価格などが上がってきている。養殖は世界規模では急拡大しているので、限られた資源である魚粉を複数の国で買い争う構造になっていて、徐々に海外勢に買い負け始めているらしい。飼料価格が数十%上がったという悲鳴もよく聞く。

そうなると、気になるのが利益への影響。養殖はコストの約6割がエサ代。事業規模によっては年間数億円単位でエサにお金が消えていく。単価だと小さく見える値上げもトータルでみると莫大な金額になる。

養殖魚は稚魚の受入から出荷までに2~3年の時間がかかる。だから、エサ代の高騰は今後時間をかけてボディーブローのように効いてくることになる。今から1~2年後にその影響が出てくると思われる。

当然価格は随時見直さざるを得ない。今の商社・問屋経由で値上げができないのであれば、少しでも直商流をもって価格決定ができるように自分たちの販路を見直す必要もあるかもしれない。

価格が高くなっても魚へのニーズが強いのならば、ある程度は需要側がこなしていけるけど、統計を見る限り、日本人の魚食離れは深刻で人口は今後も減っていく。となると、魚の価格の弾力性は想像しているよりも大きくなるかもしれない。

いくらで売るのか。

その意思決定をするには、種苗群ごとの原価が計算できている必要がある。魚を育てるためにいくらかかっているのか。不明な尾数やへい死した尾数を含めて考えたときのトータルで考えたとき、適切な売値はいくらになるのか。成長曲線を考えたとき、今後のエサ代はいくらくらいが見込めて、逆に育てることで販売金額はどれくらい上がるか。エサ代の方がかかるなら早く出荷した方が少なくとも経営的には望ましい。

ところが、この計算が簡単なように見えて、実はめちゃくちゃ複雑で難しい。「分養」という養殖ならではの作業があるからだ。

※分養って何?
大きさごとに魚をまとめて生簀を分ける作業のこと。分養をすると、もともとは同一だった稚魚群が別れてしまうため、それぞれの稚魚が過去にどれくらいエサを食べていたのか、これまでどれくらいの期間でどれくらい成長したのかといった情報を分養先に引き継がないといけない。
詳しくは以下のnoteで…

生簀ごとに計算するだけでは不十分だ。過去の分養履歴をもとに種苗(ロット)単位で原価計算をしないといけない。

To be

これまではなかなか煩雑で計算しきれなかったけど、これからは違う。システムが面倒な集計・計算作業を自動で終わらせてくれる。

へい死数・給餌コスト’(エサや栄養剤、薬などにかかったお金)等を自動で読み込み、分養・統合などの生簀の作業履歴をもとに種苗ごとに按分し直すという超面倒くさい作業はもう必要ない。はじき出された原価をもとに販売戦略を組み立て直すことに生産者は時間を割けるようになる。販売価格の意思決定も当然行いやすくなる。取引先別・魚種別に細かく原価を分析すれば、種苗の購入先を見直したり、購入割合を見直すこともできる。

❸自信をもって養殖経営の舵がとれる

As is

養殖はどうしても長年の経験や勘に頼る領域が大きかった。この背景にはこれまで述べたようなデータ整理の煩雑さや計算の手間が背景にある。世代交代が進み、後を継いだ若手の経営者たちの中にはこの現実にモヤッとしたものを感じている人も多い。

「実験的に新しいエサを使ってみたけど効果があったのかわからない」
「ベテランと意見が対立した時、数値的な根拠をもって話ができない」
「自分の生産計画に自信が持てない。今のままで本当にいいのか」

To be

そんな生産者のモヤモヤに一つずつ答えを出す。管理指標となるKPI(肥満度や増肉係数など)を継続的に監視し、定期的にグラフ化。グラフから改善点を探し出せる。

※肥満度って何?
肥満度 = 魚体重/尾叉長*1000

※増肉係数って何?
別名FCR
魚が1kg太るのに必要だった餌の量のこと
魚種によって数値が異なる。

去年の自社データや種苗ごとの比較をすることで、魚の飼育が上手くいったときの共通点が見えてくる。うまくいったものはパターン化して他の魚種や種苗に展開すればいい。

うまくいかなかったときも検証すべき仮説について頭を使う時間が多く取れるので、確度の高そうな仮説を頭の中で持ちながら日々の養殖経営に向き合っていける。

そうやって知見が蓄積されていくにつれ、生産者も日々の意思決定に自信が持てるようになっていく。ベテランの経験や勘も取り入れながら、よりよい飼育方法を社員全員で模索していける。こんなことやあんなこともしてみたらいいんじゃないか、みたいな話が社員同士の会話の中で自然と生まれてくる。そうなると養殖経営の在り方はだいぶ変わってくると思う。

続編あります!

このnote、実はもともと2.2万字ある超長編noteの一部。まだ40%くらい…笑 どうせUXで尖るなら、プロダクトの外にもUXの考え方を拡張させていこうぜみたいな話が次回に続きます。

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