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お魚ランキング(刺身編)

私たちは魚の寄生虫の研究のために、定期的に日本各地で魚を採取しています。最初のころは釣っていたのですが、しだいに市場での購入が中心になってきました。ちなみに、検査した魚は必ず食べるようにしています。先日、この3年ほど調査を手伝ってくれている方と、どの魚が1番美味しかったかと言う話になりました。結論を言うと、寄生虫の検査は鮮度が命なので、どの魚も鮮度がよかったため美味しかったですが、その中でも印象的だったものを紹介します。第一弾は刺身編です。

背鰭がボロボロで売り物にならないというのが値段の理由でした。

サワラ

京都府北部の宮津市のあたりでは、漁船から降ろされた魚をその場で買う“浜売り”という文化があります。漁船から降ろしたての魚が買えるわけですから、鮮度は申し分なく、地魚も手に入れられます。何度か訪れたことがあるのですが、新型感染症の影響で施設の中に入れるのは1組1名となっていました(今は分かりませんが)。そのため、魚の選定と購入は魚に詳しい京大生に一任していました。
彼には、調べたい寄生虫がついている魚種と調べる必要のない魚種をあらかじめ伝えていたのですが、昨年の冬に訪れた時に彼が独自の判断で買ってきたのがこのサワラでした。サワラにはGotocotyla acanthuraという単生類がいますが、かなり調べられていることから購入する必要はないと伝えていました。しかし、彼は「このサワラの代金は僕がだします!」とまで言っただけあって味は最高でした。さっぱりしているのですが、魚の脂を感じることができました。これが500円なので安いものです。

京大生が見よう見まねで作ったサワラの炙りです。
ちなみに、上のサワラについていた単生類です。

クロソイ

今年の春に福井県で魚を買いに行った時のことですが、最初に目標にしていた福井市内の市場が観光客向けで地魚がほとんどありませんでした。そこでしかたなく、お隣の高浜町の即売所まで足を伸ばした時に見つけたのがクロソイです。クロソイは日本というか韓国でさかんに養殖されていることもあり寄生虫もよく研究されています。Lepeophtheirus elegansと言うエラジラミの1種クロソイコガタツカミムシなど、寄生虫も日本語の名前が付いているくらい有名?です。

クロソイコガタツカミムシです。3mmくらいの大きさで、エラから血を吸っています。購入したクロソイにもついていましたが、宿主にもヒトにも害を与えません。

私は兵庫県の瀬戸内海側に住んでいるのですが、あまりクロソイを食べたことがありません。一応、四国の方では養殖などもされているようですが、うちの母にいたっては淡白すぎると嫌っていました。ところが、日本海側の地域では「北の鯛」と呼ばれてよく食べられています。私も北海道で食べた時に感動しました。身がしまっていてコリコリとした食感とほんのりうまみが感じられるのがたまりませんでした。高浜町の即売所では、これまた安く売られていたサワラと一緒に購入して、件の京大生に刺身にしてもらいました。福井県から京都市内まで車で運び、寄生虫の検査をしたあとに調理したので、さすがに北海道で食べたものには及びませんでしたが、「北の鯛」の名は伊達ではありませんでした。

一応、1000円はしています。

マナガツオ

2022年の春の調査は、事前の確認不足がたたり2回連続で目的の魚屋さんが閉まっていました。その時に、やけになって松山市内の魚屋さんで購入したのがマナガツオです。なんと3000円近くしました。ちなみに、このマナガツオにはほぼ確実にBicotyle属とよばれるグループの単生類の1種がエラに寄生しています。単生類は小さいもので1mmに満たないくらい、大きいもので3mmくらいなのですが、このBicotyleは3cmくらいになります。単生類にしては巨大なのですが、そもそもマナガツオも大きな魚で、寄生されたからと言って害を受けることはありません。また、食べた人にも影響はありません(そもそもエラは食べないですよね)。マナガツオの仲間は、東南アジアでもよく食べられているようで、Bicotyleは東南アジアの国からも数種類報告があります。ただ、体が大きいぶん違いもたくさんあり、「日本のBicotyleはBicotyleではない!」とか「日本のBicotyleを別のグループにしたけど、やっぱりもどした」とか各国の研究者がいろんなことを言っています。これに関しては、現在論文にして審査中なので詳細はそのうちお話しできたらと思っています。

ちなみに、マナガツオはクラゲしか食べません。

やけになって購入したマナガツオですが、これも私の強い希望で刺身にしてもらいました。高いだけあって、口の中でとけて、うまみが広がると言った感じでした。おそらく、日本の東側に住んでいる方にとってはマナガツオはなじみがないかもしれません。「西にサケなし、東にマナガツオなし」と言われるくらいで、私のタンパク質は肉でとる方針の知人もマナガツオは知っていました。おめでたいことがあれば食べるそうです。

天ぷらはサヨリの天ぷらになっています。

ふだん聞き慣れない魚を中心に紹介しました。もし、興味がわきましたら次の連休に魚を求めて漁港に行ってみてください。このように、たびたびいい鮮度の魚を食べていると、居酒屋などで2,000円の刺身の盛り合わせを食べると高く感じてしまいます。「宮津で買った魚の方が安くて美味しい」みたいな感じです。

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