情景描写としての訳文の差
名訳として定評のある実吉捷郎・訳と現在もっとも新しい浅井晶子・訳で冒頭以降の、情景描写としての訳文の差を見てみよう。言葉のリズムに合わせて、情景がどのように浮かび上がるだろうか。
「昼飯を目あてに、右腕で舵を取ってゆく」は観念的な表現であり、「氷のまじった汁を四方にはねかしながら」はイメージがわきにくい。「海豹皮の背嚢」は意味がわかるとしても、古めかしい。「ウォオタンのようなひげ帽子」はどうだろうか。
浅井晶子訳ではどうだろうか。
浅井晶子訳では体言止めや倒置構文が覆い