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Bounty Dog【清稜風月】

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遠く、でもいずれ来るだろうこの世界の未来を先に走る、とある別の世界。人間達が覇権を握るその世界は、人間以外の全ての存在が滅びようとしていた。事態を重くみた人間は、『絶滅危惧種』達…
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2023年9月の記事一覧

Bounty Dog 【清稜風月】186

186

 ヒュウラとコノハが櫻國に滞在出来る期限は、本日までだった。明日の昼に、此の島国で生きている人間達と亜人がどのような状態であっても此の島を去らないといけない。
 1日、残り24時間も1体と1人は自由に行動出来た。人間が築いている全ての国家と文明は、星が作り出した自然という強大な存在よりも圧倒的に脆い。24時間も掛からずに全てを徹底的に根本的に変える事は、赤子の手を捻るよりも容易に出来る。

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Bounty Dog 【清稜風月】182-185

182

 日雨が理解しているヒュウラに関する事は、人間の保護官が全く知らないモノも幾つかあった。ーー先ず、ヒュウラさんはやたらに自分の頭が狂う事を恐れて気にする。「狂っても良いよ。物凄く楽しそうだよ?」と励ましてあげても「嫌だ」の一点張りで抗議してきた。
 既に死んでいる存在は全く怖く無いが、死にそうな姿になっていても死んだと思っていても未だしぶとく生きている”お化け”も物凄く怖いらしい。人間と

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Bounty Dog 【清稜風月】180-181

180

 今は耳の中から音が一切しなくなっていた。最後に聴こえていた音は、己が穴の外を目指して土を掘り出している音だった。
 ーーあの山の一角で、何処までも深い穴の中に生き埋めにされたのは、生まれて9年経った時だった。人間と人間の道具に興味を持つ事を何時迄も辞めなかったからだと、穴を足で潰し掘った”犬達”が埋めてくる前に呟いていた。犬達にも厄病神扱いをされていた。守ってくれていた存在が1つだけ居

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Bounty Dog 【清稜風月】178-179

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 コノハ・スーヴェリア・E・サクラダは、山の一角で睦月・スミヨシの愛銃を見付けた。その銃は生きる為食べる為にする否応無しの動物撃ちでは無く、人間を撃ち殺す為に手に入れられて使われている。彼の銃は、別の人間達が人間殺しの為に使われるのを重々承知している上で、利益という金の為に作り出したエゴの産物の1つだった。
 睦月の対人用狙撃銃は、生まれてきた時に定められている『何かを撃ち抜く』という使

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Bounty Dog 【清稜風月】173-175

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 幻聴がまた聴こえてきた。次に聴こえた音は、猫の鳴き声だった。相棒の雌猫が出すニャーニャーという鳴き声では無い。ミャーミャーという鳴き声だった。ニューニューという子供の猫の鳴き声も聴こえてくる。ミョーミョーも聴こえた。これ迄は忘れていた”此方側の者”達の思い出が、唐突に彼の心の中に”ゆらぎ”を作り出した。

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Bounty Dog 【清稜風月】170-172

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 憧れの国の言葉で言えば、トレビアンだ。産まれ育った国の言葉で言えば、ワンダフルだ。齧っているアグダードの言葉で言えば、マーシャアッラー。櫻國では『素晴らしい』を独自語でどう言うのかは分からない。シルフィ・コルクラートは迷っていた。どの国の言葉を使って、櫻國の帝族に降り掛かった脅威を見事に打破した現場保護官達を称賛すべきなのだろうか?
 シルフィは決めた。己という存在が、シルフィ・コルク

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Bounty Dog 【清稜風月】167-169

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 コノハは槭樹おじ様はNOであれと強く想った。シルフィは両方NOであれと強く想った。ヒュウラは何とも思わない。彼の口癖を使って表現するなら「そうか」とだけ強く想っていた。
 睦月が答えを告げてきた。Kの刺客に関して余りにも予想外の答えを言ってきたので、西洋の人間2人は東洋の人間を信用しなかった。
 人種差別をしている訳では無い。単純に睦月という1人の人間が言った答えを、コノハとシルフィと

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Bounty Dog 【清稜風月】166

166

「“匹”も”体”もいと、斬り捨てにせねばならぬ程に許してはならぬ無礼。”人”ですら真は無礼でありますが……神は”柱”で御数え致さねばならぬのです。宜しゅうか、槭樹。今は十数柱しかおらぬでしょうが、麗音蜻蛉は柱で数えねばならぬ山神様ーー」
 槭樹は甘夏を無視した。己が置いた黒い本を片手で乱暴にペラペラ捲ると、眼球1つが5億エードの金に変えられると書かれている狼の亜人の生息情報と殺し方が記さ

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Bounty Dog 【清稜風月】164-165

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 7ヶ月前から約1ヶ月前までヒュウラを手元に置いた状態で2対象の保護任務をしていた南西大陸の砂漠地帯は、現実から意識が少しでも外れたら死に直結する”世界”だった。故に寝ている時に夢さえも、誕生日パーティをした日とイシュダヌを”掃除”してからあの土地を脱出するまでの2週間くらいしか真面に見ていなかった気がする。
 一方で櫻國は死と常に隣り合わせの戦争地では無いお陰なのか、夢は毎晩見れる。加

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Bounty Dog 【清稜風月】162-163

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 シルフィ・コルクラートは、櫻國から星半周分程離れた国際保護組織の亜人課支部の班長室に居る。今は敢えて櫻國の任務に集中する為に、支部に居る保護官達を全員別の亜人保護任務に出動させていた。ミト・ラグナルとリングも例外無く出動している。支部に戻ってきてからも度々保護官達と衝突していた。今彼女が座っている執務椅子前の大きな机の上には、ノートパソコンとヘッドセットの他に数十人の保護官達から叩き置

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Bounty Dog 【清稜風月】160-161

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 睦月・スミヨシには、赤い忍者という腐れ縁がいる。仏頂面の赤忍者は、私物である薄紫の蝦蟇口財布に何時も付いていた。幼馴染の虫の亜人が作ってくれた縮緬人形の赤忍者には、小さな鈴も付いていた。財布を落としても忍者は何もしてくれない。だが忍者に付いている鈴がリンリン鳴って、財布の喪失を防止してくれていた。
 今、財布は鈴と縮緬忍者ごと行方不明になっている。財布と縮緬忍者と鈴は、二度と己の元に戻

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Bounty Dog 【清稜風月】158-159

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 カイ・ディスペルという、ヒュウラ達が未だ存在を知らない人間の少年が此の世界の一角で生きている。北東大陸の端にある自然豊かな先進国の寒村で産まれ育ち、秋生まれの彼はヒュウラがデルタ・コルクラートと別れて南西大陸中東部で軍曹達に出会い、紛争地帯アグダードで活動していた始めの数ヶ月の間に、8歳から9歳に成長していた。
 彼は、此の東の島国に足を付けた事が未だ一度も無い。だが彼がかつて所持して

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Bounty Dog 【清稜風月】155-157

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 日雨は山の家から少し離れた場所で、大きな水柱が上がっているカンバヤシ邸を白銀の双眼鏡越しに眺めていた。櫻國固有種で清浄の地から離れると途端に死ぬ繊細な亜人は、産まれて初めて見る摩訶不思議な光景に大興奮すると、この1ヶ月の間に様々な摩訶不思議なモノを己と”むっちゃん”に見せてくれている、あの西洋から来た狼の亜人の姿を心の中に思い浮かべた。
 むっちゃんの目でも見えない驚く程に遥か遠い場所

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