Bounty Dog 【清稜風月】162-163

162

 シルフィ・コルクラートは、櫻國から星半周分程離れた国際保護組織の亜人課支部の班長室に居る。今は敢えて櫻國の任務に集中する為に、支部に居る保護官達を全員別の亜人保護任務に出動させていた。ミト・ラグナルとリングも例外無く出動している。支部に戻ってきてからも度々保護官達と衝突していた。今彼女が座っている執務椅子前の大きな机の上には、ノートパソコンとヘッドセットの他に数十人の保護官達から叩き置かれた退職届が小山になって積み上がっていた。
 在籍中、部下が1人もそのような噛み付きをしてこなかったらしい世渡り上手だった双子の弟の写真も執務机の上に飾っていた。相手が肌身離さず持っていた”気付け”のミニウイスキーも写真の前に置いている。ウイスキーは奇跡的に傷一つ付いていなかったが、弟に断酒をさせたかった姉は中身の飲料を全て捨てていた。
 死者は風を纏わず、心の曇りを何かを使って一時的に忘れる事も出来ない。本来は無意味で不必要な物だが、生前本人も酒を辞めたがっていた証である故に、姉は弟を讃えて酒瓶だけは形見として大事に持っていた。
 支部で唯1人残り、7ヶ月前まで弟が使っていた部屋の椅子に座り、己の背後の壁に立て掛けているコルクラート姉弟共用武器だった白銀のショットガンを一瞥してから、シルフィはノートパソコンの画面に目を向ける。同じ店で弟と一緒に買ったオーダーメイドの銀縁眼鏡の位置を指で調整してから、星の半周先にいる単独任務中の保護官1人、そして特別保護官1体と1人に向かってヘッドセットと相手が持つ通信機・発信機越しに言葉を発した。
「正直に言うわ……敵が何方か分からない。私は何方もKに操られていない”白”だと思う」

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