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Bounty Dog【清稜風月】

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遠く、でもいずれ来るだろうこの世界の未来を先に走る、とある別の世界。人間達が覇権を握るその世界は、人間以外の全ての存在が滅びようとしていた。事態を重くみた人間は、『絶滅危惧種』達…
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2023年5月の記事一覧

Bounty Dog 【清稜風月】82-84

82

 脅威の存在は、ヒュウラ達にとっては便利な存在でもあった。主である槭樹から命令を受けて城の警護を強化させた櫻國人達の誰1人にも影すら見せずに、西洋の隠密は慣れたように天守の中を移動しながら、作業をテキパキと行なっていた。
 作業をこなしている間、少年はこの小さな島国に住んでいる人間達は病的に平和脳だと心底に思っていた。消音器(サイレンサー)を装着した己の愛用武器である黒い大型拳銃で4、5人

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Bounty Dog 【清稜風月】81

81

 ーー姫の弓(きゅう)の師範は、凪(なぎさ)だった。家内の凪・イヌナキとは少々齢が離れた見合い結婚であったが、帝の族に相応しい、品と肝を十二分持った女子(おなご)だった。
 三十七になったばかりの齢だった凪と、姫と齢が近く「弟のような存在」だとあの者は申された十五の長男・柳(やなぎ)。次男・紡(つむぎ)は柳と歳が離れていて十(とう)に満たぬ齢だったが、兄と”姉”に随分と懐いておった童(わら

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Bounty Dog 【清稜風月】75-77

75

「リーダー。ヒュウラ君が動きました。あのお煎餅セットを持ってますけど……コレって」
『良いわね。トレビアン(素晴らしい)、御利口』
 出身地では無い憧れの国の言葉を混じらせて、シルフィ・コルクラートは遥か遠方の地から、櫻國に置いている特別保護官の行動を称賛した。腑に落ちないと言いたげに眉を顰めながら、コノハ・スーヴェリア・E・サクラダは通信機を耳に当てて、上司の言葉に耳を傾ける。
 日差し

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Bounty Dog 【清稜風月】73-74

73

 予定は、夕方の時点でも未定だった。睦月と3週間続けている”容疑者K”捜査は、3週間変わらず続けている町人達への聞き込みと、殺人現場である和菓子屋周辺の調査を散々行ってから、何時ものように収穫無しの状態で山の一軒家に帰った。
 家から迎えに出てきた日雨に報告をしてから、家で日雨が用意した食事を取る。今晩の夕食(ゆうげ)は冷菜が多めだった。日雨が作る料理には毎回何かにキノコが入っているが、今

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Bounty Dog 【清稜風月】71-72

人間も他の動物も、西洋の生き物も東洋の生き物も、回るモノが好きである。

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「槭樹さんは、少々思考に偏りがある事で有名なんだ。だから注意して扱って欲しい」
 昨晩、睦月から言われた警告をヒュウラは頭の中に刻んでいた。同時にその数分後に日雨から言われた言葉も、頭の中に刻んでいた。
「次は槭樹さんにお煎餅と文(ふみ)を渡してね。隠密、宜しゅう頼む」
 『世界生物保護連合』の特別保護官として任務を

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Bounty Dog 【清稜風月】70

70

 甘夏は、己が薙刀の刃で穴だらけにした天井から突然落ちてきたモノを見て、目を丸くした。モノを暫く眺めていると、女官が1人部屋に入ってくる。
 己が無事である事に安堵してから、女官は口早に邸に侵入していた曲者を捕り逃した事、邸に放たれた火は鎮火させたと告げてきた。報告に律儀に返事をしながら、甘夏は天井から落ちてきた物体を小脇に抱える。物体は煤まみれになっているが、風呂敷で丁寧に包まれている小

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Bounty Dog 【清稜風月】67-69

67

 ヒュウラ側の”援護者”は、一歩も待機場から動いていなかった。
 上司が『動くな』と指示したからだった。睦月の射撃妨害をする予定だったコノハは”曲者シルフィ”の考え方は独特だという事を、1年ぶりに耳と脳で思い出していた。
 上司が言ってきた言葉は、未だ少し理解出来ない内容だった。状況報告をした時、シルフィ・コルクラートは上機嫌でこのように言ってきた。
『成る程ね。保護対象”ターゲット”を連

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Bounty Dog 【清稜風月】65-66

65

 本物の”姫”は、己の寝室に居た。寝床の準備を己の身の回りの世話をして貰っている同居の女官達に行って貰い、白い就寝用の着物を着て、髪を下ろして寝ようとしていた所だった。
 外から聞こえてきた美麗な虫の音色と甲高い銃声の後に、地が揺れる程の轟音が響いてきた。”姫”は壁にかけている和弓と薙刀の何方を取るかを暫し考えて、薙刀を取る。少し湾曲している太い刃が付いた和式の槍を両手で掴んで構えると、前

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Bounty Dog 【清稜風月】62-64

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「じゃあ、ヒュウラさんが本当のお仕事をする所に帰っちゃうまで後9日だから、ヒュウラさんは9日間だけ隠密だよ!!」
 9日間限定の忍者犬に就任した狼の亜人は、己を忍者犬に就任させた虫の亜人と縁側で隣同士で座っていた。
 ヒュウラが櫻國にやって来てから22日目となる今日(こんにち)の現在の時刻は、午後10時頃になっていた。今宵も睦月は側に居ない。今日も夕食(ゆうげ)時に日雨と喧嘩していた。日雨

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Bounty Dog 【清稜風月】59-61

59

 日雨に連れられて何時もの縁側にやってきた。何時ものようにヒュウラは胡座、日雨は正座で座る。何時ものように縁側の直ぐ側にある藪の中から大量の虫が鳴き出した。
 日雨は何時ものような”笑顔伝授大作戦”をヒュウラに行わない。外の世界の話も催促してこなかった。彼女は己の傍に手作り煎餅が入った菓子折り2個と、墨汁が入った硯(すずり)と筆、物凄く横長い紙を2枚並べて広げ置いていた。
 日雨は振り袖を

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Bounty Dog 【清稜風月】57-58

57

 ヒュウラが東の島国『櫻國(おうこく)』にやってきて、あっという間に3週間が経った。後10日で己が”特別保護官”として所属している国際保護組織の亜人課支部に帰る迎えがやってくる。
 20日目までは和菓子屋の暗殺事件以降は平和だった櫻國に、大きな変化が起こった。ヒュウラが変化に勘付いたのは、何時ものように己だけ特別メニューである日雨手作りの朝食を一軒家の食卓で食べていた時だった。
 変化を教

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Bounty Dog 【清稜風月】55-56

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 ヒュウラの櫻國滞在任期は、あっという間に残り半分になった。この国は山も人間の町も初めはピンク色や黄色の花々で鮮やかに彩られていたが、たったの2週間程で自然の部分は殆どが茶か緑の色ばかりになった。
 16日目、17日目もヒュウラは睦月・スミヨシと一緒に”麗音蜻蛉狩猟情報提供者”と『黒い本』の送付者を探し回った。日雨は睦月達が不在の間は家から一歩も出ないようにしていたが、実際は1体でコッソリ

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