Bounty Dog 【清稜風月】65-66

65

 本物の”姫”は、己の寝室に居た。寝床の準備を己の身の回りの世話をして貰っている同居の女官達に行って貰い、白い就寝用の着物を着て、髪を下ろして寝ようとしていた所だった。
 外から聞こえてきた美麗な虫の音色と甲高い銃声の後に、地が揺れる程の轟音が響いてきた。”姫”は壁にかけている和弓と薙刀の何方を取るかを暫し考えて、薙刀を取る。少し湾曲している太い刃が付いた和式の槍を両手で掴んで構えると、前方の襖が勢い良く開いた。
 女官の1人が慌ててやって来た。”姫”は薙刀を布団の上に置くと、同じ武器を持っている女官がパニックになりながら話し掛けてきた。
「甘夏姫!ご無事で何より!!とと、突然石垣が壊れまして!!ぶぶ、分家の無礼者めの仕業でしょうか!?」
「いいえ。槭樹はこのような業(ごう)は致しませぬ」
 甘夏・カンバヤシは極めて冷静に返事をした。女官の気を落ち着かせると、微笑を顔に浮かべながら相手に伝える。
「何度も言うとりますが、私の事は甘夏と申して下しゅう。槭樹にも幾度と言うとりますが、あやつも聴きませぬ」
「め、滅相も無い事で御座います。姫」
「私が望んどる。呼び捨てで構いませぬ」
 背中を摩って貰った女官は気が落ち着くと、邸の主に「女官達全員で護衛するので自室から出ないように」と伝えてから、開きっぱなしになっていた襖を閉めて出て行った。
 再び1人になった甘夏は、薙刀を左手で掴み取ってから、右手を布団の中に入れる。黒い動物の皮で出来た”あらゆる亜人の殺し方”が書かれている本を引っ張り出すと、本を捲って1種の亜人のページを開いた状態で、独り言を呟いた。
「何用か?妖(あやかし)の犬よ」

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