Bounty Dog 【清稜風月】62-64

62

「じゃあ、ヒュウラさんが本当のお仕事をする所に帰っちゃうまで後9日だから、ヒュウラさんは9日間だけ隠密だよ!!」
 9日間限定の忍者犬に就任した狼の亜人は、己を忍者犬に就任させた虫の亜人と縁側で隣同士で座っていた。
 ヒュウラが櫻國にやって来てから22日目となる今日(こんにち)の現在の時刻は、午後10時頃になっていた。今宵も睦月は側に居ない。今日も夕食(ゆうげ)時に日雨と喧嘩していた。日雨を”K”に該当する容疑者から守ろうと調査活動を続けている睦月に対して、守られる側の日雨がわざわざ容疑者をこの家に呼び寄せて「話し合えば解決する」と安本丹(あんぽんたん)な提案をしたからだった。
 幼馴染の護衛役と喧嘩状態のまま、虫は忍者犬を使って”菓子折り美味しい我が家においでよ隠密大作戦”を決行する。今宵は甘夏・カンバヤシに文付き菓子折りを渡す為に、山の麓にある彼女の邸(やしき)に潜入する。山の一角にある場所なので、山から出られない作戦提案者の虫も同行する事になっていた。

 ヒュウラは借り物の着物では無く、ライダースーツのような黒い服に白銀の短い西洋鎧と赤い腰布を付けた普段の格好に戻っていた。ポケットに入れている道具を確認する。今入っている人間の道具は、100エード硬貨1枚と煎餅を巻いていた竹の皮が2枚。日雨から洗濯されて返された小さい風呂敷が3枚。それらに加えて睦月から貰った手甲鉤(てっこうかぎ)1個を腰布とズボンの間に挟み入れていた。
 日雨はニッコリ笑うと、縁側から身を乗り出して藪の中に入る。己が呼び寄せている大量の虫達がキリキリ、キリキリ喧しく鳴き出すと、口に人差し指を当ててサ行の2番目を虫達に向かって長めに発音してから、ヒュウラの側に振り向いて言った。
「それじゃあ参るぞー。隠密、開始」
 ヒュウラは仏頂面のまま日雨と同じく藪の中に入った。忍者犬になった狼の亜人は虫の亜人の側まで近付くと、己の口癖だがこの東の島国が発祥だと調査中に睦月から教えて貰った言葉を、人間と全く同じように生きている虫に向かって言った。
「御意」
 日雨に返事すると共にヒュウラは感じた。背後から、強い威圧感を。
 振り向いたが何の生き物の影も見当たらなかった。だが気配を発した正体は直ぐに勘付いた。相手に向かって、口癖で言葉を発する。
「何とも思わない」
 “お前の邪魔なぞ気にしていない”と伝えたつもりだった。日雨を横抱きしようとすると、触角で頬を2、3回叩かれる。
 暴力虫女は軽いビンタで抗議してから、ニッコリ笑った。エヘヘと口でも軽い笑い声を上げてから、何の悪気も無くヒュウラに命令した。
「おんぶが良いですー、おんぶ!あー君もむっちゃんも、いっつもお姫様抱っこばっかりするもん!私、お姫様じゃ御座いませーん!!」

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