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Bounty Dog【アグダード戦争】

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遠く、でもいずれ来るだろうこの世界の未来を先に走る、とある別の世界。人間達が覇権を握るその世界は、人間以外の全ての存在が滅びようとしていた。事態を重くみた人間は、『絶滅危惧種』達…
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#連載小説

Bounty Dog 【アグダード戦争】243-245

243

 『箱』の中は、一筋の光も無い闇だけの空間だった。ーー俺がこの『アグダード』と人間達に名付けられている、昼は途轍もなく暑く夜は途轍もなく寒い、土と砂と岩と、土に埋まっている”地雷”という爆弾と、空から降ってくる”ミサイル”という爆弾と、”ダイナマイト”等の名前が付いた沢山の爆弾と罠がある、物凄く危険だが物凄く色々なモノが綺麗でもある場所に来て半年。初めは本当に”何とも思わなかった”が、今

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Bounty Dog 【アグダード戦争】212-213

212

 その日の夜は”民間お掃除部隊”も『世界生物保護連合』3班・亜人課の保護官達も、亜人2体も外の土の中に居るミディール達を含めたコルドウの群れも、楽しい夢を見ながら寝た。
 軍曹は家族と執事と預かりペットのカメレオンを世話していた子供の頃の夢を、ヒュウラは海苔付き醤油煎餅を食べながらデルタとミトとリングと一緒に保護組織亜人課支部のミトの部屋でテレビを見ている夢を見た。
 シルフィもデルタと

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Bounty Dog 【アグダード戦争】114-116

114

 己の側に、あの化け犬は居なかった。何時の間にか舞台の外にある土山の1つの上に胡座を掻いて座っている。腰に赤い布が巻かれており、腕を組んでいた。金と赤の目をやや吊り上げて、仏頂面をした狼の亜人は此方を見つめてくる。
 カスタバラクがサーチライトと拳銃の銃口をヒュウラの眉間に向けると、土山の下から声が聞こえてきた。ありとあらゆるモノを切り裂く鋼鉄の爪が生えた両手がヒュウラを挟んで伸びてきて

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Bounty Dog 【アグダード戦争】111-113

111

「テープを止めろ」とカスタバラクは命令してこなくなった。代わりにヒュウラからテープレコーダーを奪おうとしてくる。これ以上自分の持っている人間の道具を奪われたくないヒュウラは、ポケットを片手で抑えて死守しながら、もう片手をカスタバラクの胸ポケットから2丁目の拳銃を奪おうと伸ばした。
 お互いがお互いの切り札を奪おうとする。足で相手の足を引っ掛けてバランスを崩させた隙を突いて、ヒュウラは小さ

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Bounty Dog 【アグダード戦争】109-110

109

 アルバード大佐の忘れ形見のような存在である、大佐に半ば洗脳されて人間の服と安売りの服屋が大好きになってしまっているモグラの亜人・コルドウは、ヒュウラが『箱』から”滅茶苦茶格好良いやっちゃ”の人間ことアグダード3大勢力の大将の1人、ナスィル・カスタバラクを連れて出てくるのを、土の中でずっと待っていた。
 モモモモ、モモモモ言いながら、彼の周りに大勢の、非常に大勢の同種の仲間達が、穴を掘り

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Bounty Dog 【アグダード戦争】107-108

107

 ミトは朱色目の攻撃の仕方に驚いていた。隠し部屋で引き出しと一緒に放り捨てていたボールペンを拾っていて、敵兵の後頭部、頭の付け根の部分の奥にある急所『脳幹』に突き刺して倒していた。縫い針や爪楊枝の方がやりやすい最も傷が残らないプロの暗殺者がする暗殺の手法だが、使っている物が自分も持っている文房具なので、ミトにはまるでヒュウラが人間を暗殺しているように見えた。
 人間の道具は、どんな物でも

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Bounty Dog 【アグダード戦争】106

106

 アグダード3大勢力の大将の1人の座を手に入れている、とある先進国陸軍第一部隊の元・少佐ナスィル・カスタバラクに拘束されながら、ヒュウラは漸く”あの穴”に辿り着いた。ワザとではないが非常にゆっくり歩いてきたので、恐らく15分程、時間が掛かったと思う。
 ゆっくり歩いた事をカスタバラクに全く”叱られ”なかった。相手も体力が消耗し切っているらしく、己のように足を引き摺ってはいないが、背負って

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Bounty Dog 【アグダード戦争】101-102

101

 ミト・ラグナル保護官と”アグダード民間お掃除部隊”の副将こと通称『朱色目の黒布』は、火の海と化しているナスィル・カスタバラクの私邸で爆弾兵達と応戦していた。敵兵が爆弾を起動させる前に眉間と首に銃弾を撃って容赦無く殺していたのは、朱色目だけじゃ無かった。
 ミトも心が生き返った時に、同時に覚悟を決めた。自分とヒュウラ達をこの地に連れて来たシルフィ・コルクラート保護官が言った通り、この地で

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Bounty Dog 【アグダード戦争】98

98

 ーー『鳶から鷹が産まれる』という、東の小さな島国で発祥されたらしい諺があるが、他の大勢の人間と同じく極々平凡的な顔をしていた両親は、産まれた瞬間の顔を見た途端に助産師と医者と看護師達を全員窒息させた、異常な美を持って産まれた俺を鷹どころか象を餌にして船を沈める怪物のロック鳥とでも思ったらしい。恐れ恐れてしまい、自分達が窒息しないよう産まれて直ぐに顔に袋を被され、産まれたその日の内に病院を

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Bounty Dog 【アグダード戦争】96-97

96

 朱色目の黒布は生きていた。朱色目は、自分がそうだと思い込んでいる『ゴミ男』に激怒して暴徒化した爆弾人間ミト・ラグナルから逃げようとして、階段を降りようとした時に見つかり、サブマシンガンで進行方向を撃たれて静止させられた。瞬発的に逃亡作戦を変更して、正当防衛の為にミトの頭部を撃って殺そうとアサルトライフルを向けて、早撃ちに負けた。ミトに威嚇で周囲に銃弾を撃たれ、自分は撃つ余裕を与えられず、

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Bounty Dog 【アグダード戦争】93

93

 銃弾はなかなか背後から飛んでこなかった。既に3発撃ち込まれている己の両足と腰から血が噴き上がって多量に流れ落ち、床に筋を描いて敵への道標を作ってしまっている。
 ヒュウラは仏頂面で痛みに耐えていたが、未だ意識は鮮明だった。やはり致命傷になるものは一つも無く、ワザと避けた場所を撃たれている。一方で、己が抱えて捕まえているモグラの亜人コルドウへは、敵は確実に致命傷になる場所を撃とうとしていた

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Bounty Dog 【アグダード戦争】92

92

 コルドウは「またお前か」と言いたげな顔を返された。ヒュウラに。一目見ただけでは無表情に見えるが、口元がキツく結ばれていて、目が若干吊り上がっている。
 微々な、非常に微々な渋い顔をされて、嫌悪されたコルドウは少し機嫌を損ねる。布を巻き付けた頭から漫画のような蒸気を噴き出した。ヒュウラの表情は変わらない。
 カスタバラクに関しては、完全に無表情だった。親指で撃鉄(ハンマー)が引かれて回転弾

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Bounty Dog 【アグダード戦争】89

89

 東エリアの一角に居るコルドウは、ヒュウラとカスタバラクが近くを通った事に気付かなかった。真っ暗い部屋の奥で1人の人間が出している声に耳を傾けている。
 その人間は今は『空』に居る死んでいる存在で、男で、死んだ時の年齢はカスタバラクよりも10以上歳上だった。コルドウとその人間との関係は『友』であり、ヒュウラと出会う遥か前に出会った、コルドウの恩人だった。
 コルドウが”彼”に出会ったのは5

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Bounty Dog 【アグダード戦争】87-88

87

 ヒュウラがカスタバラクに追いかけられている場所と同じ『箱』の元4階の現3階の東エリアで、モグラの亜人コルドウは威嚇声を上げながら身を伏せていた。殆どの照明を己の鋼鉄の爪で壊した薄暗い通路の一角で、カスタバラクから奪い取った軍帽を、ヒュウラの腰布をグルグル巻いて覆っている頭に乗せて被る。
 仲間達を実験体にして残虐に殺した仇だが、容姿も声も凄く素敵だと思う人間の宝物を被って、モグラは憎しみ

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