Bounty Dog 【アグダード戦争】107-108

107

 ミトは朱色目の攻撃の仕方に驚いていた。隠し部屋で引き出しと一緒に放り捨てていたボールペンを拾っていて、敵兵の後頭部、頭の付け根の部分の奥にある急所『脳幹』に突き刺して倒していた。縫い針や爪楊枝の方がやりやすい最も傷が残らないプロの暗殺者がする暗殺の手法だが、使っている物が自分も持っている文房具なので、ミトにはまるでヒュウラが人間を暗殺しているように見えた。
 人間の道具は、どんな物でも使い方によっては欺く手段にも防衛にも使えるのだと、ミトは人間で無い存在のヒュウラを見て学んでいた。加えて、ヒュウラもたまにするが、人間の道具はどんな物でも殴って傷付けられる凶器に出来る。星にある全てのものが、命を守る事も奪う事も、使う者がどう使うかによって事実、無限に使い方はあるのだ。
 ヒュウラの持っている100エード銀貨は、『お金として何かを買う』以外に2つの使い方をされていた。朱色目にプラチナ製のボールペン1本で脳を貫かれ、うつ伏せに倒れて即死したカスタバラク軍の兵は数人。未だ周囲に数十人敵がにいて、全員が爆弾を身体に巻き付けてスイッチを握っている。
 スイッチを握っている。ミトはドラム型弾倉付きサブマシンガン構えながら、此処に居ないが自分に特訓をしてくれた軍曹の言葉を思い出した。
(銃を過信するな!弾が全部無くなっちまったら、唯の鉄の塊だ!!
 テメエは、銃に甘え過ぎなんだ!!アグダードの外では直ぐ弾が手に入るかも知れねえが、此処は兎に角、資源が無え!だから何でも無駄使いだけはすんな!!)
 “此処では無駄に1つの武器だけを頼って使うと、其れが使えなくなったら負けて死ぬ。常に武器は温存しろ。代わりに使えるものを見つけて、何でもかんでも利用しろ”と、大飢饉を乗り越えて今も戦地という死の淵の最前線で生きている浅黒い肌と水色混じりの白髪に澄んだ水色の目をした男は、言葉使いが乱暴で蹴り飛ばす暴力もしてきたが、自分に戦争での効率的な戦い方を教えてくれた。
 彼の部下で彼の親友、同じく飢饉を乗り越えた朱色目は、軍曹の教えをボールペンで実践していた。朱色目は自分の武器が足らなくなる事が多いが、軍曹は基本的に自分の武器は極力使わず、敵の武器を奪い取って代わりに使う。無ければ体術をメインに使って攻撃し、毎回かなりの残弾を残して”掃除”を終わらせる。凄く我儘で自己中心的で自己判断だけで勝手にいつも暴走。しかも情に厚過ぎて騙されやすいので、革命部隊を率いるリーダーとしてはポンコツの極みだが、戦士としてはかなり優秀だった。
 優秀な戦士の教えを思い出しながら、ミトは腰のポケットの中にあるものに意識を向ける。木の板と一緒に、自分の通信機とカスタバラクの隠し部屋にあった通信機を緊急対策用の電源コードで繋いで入れていた。バッテリーに入っている電気を分け与えて、機械を復活させようとしている。己の通信機も電池が半分ほどしか無いので、少ししか多分、分け与えられない。それでもこの方法に賭けていた。
 恐らく持ち主の『ゴミ男』が今持っている別の通信機に直接繋がる。専用に通信機を持っていると、隠し部屋に行く前に倒した、ヒュウラの居る場所に連絡していた兵士が喋っているのを聞いていた。
 復活すれば絶対に『ゴミ男』を呼び出して”叱れる”と信じた。脅して居場所を聞き出してヒュウラを取り返す唯一つの手段は電話の復活だと、信じた。
 己と朱色目を取り囲む爆弾兵達がスイッチに手を添えている。脅しでは無く、本当に爆弾テロリストになろうとしている。「御屋敷を壊してしまいます、お許し下さい旦那様」「”御恩”は召されても、永遠に忘れません。我らの美しき旦那様」1人、2人と兵士がカスタバラクに向かって呟き出した。スイッチにかけた指が僅かに浮いた。浮いた瞬間に、
 ミトは動いた。

ここから先は

4,243字

¥ 100