Bounty Dog 【アグダード戦争】96-97

96

 朱色目の黒布は生きていた。朱色目は、自分がそうだと思い込んでいる『ゴミ男』に激怒して暴徒化した爆弾人間ミト・ラグナルから逃げようとして、階段を降りようとした時に見つかり、サブマシンガンで進行方向を撃たれて静止させられた。瞬発的に逃亡作戦を変更して、正当防衛の為にミトの頭部を撃って殺そうとアサルトライフルを向けて、早撃ちに負けた。ミトに威嚇で周囲に銃弾を撃たれ、自分は撃つ余裕を与えられず、更に相手が接近してきてサブマシンガンの銃身で何回か殴られた。何もかも失敗して捕まってしまい、今は引き摺られるように無理矢理『ゴミ男』兼カスタバラク探しの援護をさせられていた。
 朱色目はカスタバラクの寝室の状況を見ていないので、何故鬱状態だったミトが突然凶暴化したのか意味不能だった。が、ミトが覚醒してこの戦場で最凶の存在となっているのは事実であり、立場は完全に逆転していた。
 ミトは未だ爆弾付きのポンチョを着ている。朱色目は相手が羽織っているポンチョを見る度に罪悪感に苦しんでいた。己らがしている戦争と無関係の人間を爆弾にして殺そうとしたので、偶像の無い偉大な神に自分は今、罰を与えられていると思った。
 朱色目はミトに十分過ぎるほど”叱られて”いた。軍曹に助けて欲しいと心底願った。
「マアレーシュ(ごめんなさい)、ガビー。マアレーシュ、こっちのガビー」
 『アホ』と称している2人の人間の何方にもアグダードの独特語で懇願した。偉大な神にも勿論懇願した。
「エル・ハウーニー(助けて)。エル・ハウーニー、こっちのガビーから」
 命乞いは誰にも届きそうもなかった。結局、軍曹達は数人の手下を自分達の捜索の為に残してくれたものの、ヒュウラの無事を確認する為にアジトに帰ってしまった。部屋に置かれていた諜報機器から聞こえた会話で知った。
 手下は正直、例え己を見つけてくれても己を助ける事は出来ないと思った。ミトは目を剥きながらドラム型弾倉付きサブマシンガンを構えて、大股で通路を歩く。狂っていない。怒り狂ってはいた。

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