Bounty Dog 【アグダード戦争】101-102

101

 ミト・ラグナル保護官と”アグダード民間お掃除部隊”の副将こと通称『朱色目の黒布』は、火の海と化しているナスィル・カスタバラクの私邸で爆弾兵達と応戦していた。敵兵が爆弾を起動させる前に眉間と首に銃弾を撃って容赦無く殺していたのは、朱色目だけじゃ無かった。
 ミトも心が生き返った時に、同時に覚悟を決めた。自分とヒュウラ達をこの地に連れて来たシルフィ・コルクラート保護官が言った通り、この地では保護組織が作った『国際法』や世界にある数多の国達が作った人間の法律で、罪を犯した人間を逮捕する事が出来ない。大きな存在の喪失”ロスト”を阻止して保護するには、代わりに小さな喪失”ロスト”をするーー犯罪者達を殺すしか無い。
 外の世界の常識は一切通じない南西大陸中東部・アグダードは、無法地帯だった。2000年以上も長い間、人間と人間があらゆる惨たらしい手段を使って殺し合う戦争をしている場所だった。
 戦争は、どんな目的や理由を掲げようとも、どの歴史で起こったものも今起こっているものも、全部結局エゴとエゴが大勢のモノを巻き込みながらぶつかり合っているだけだと思っている。今も戦争の真っ最中であるこの土地にある3勢力の支配者達は全員が確実にエゴイストだろうが、勢力を全部潰して平和なアグダードで長閑に暮らす為に戦っている軍曹や朱色目達だって、十二分にエゴイストの集団だ。この土地も他の世界の全ての土地と同じく、この星のものだ。人間の為にある人間の所有物では無いのだ。
 ミトは”可能な限り最低限”という条件はそのままにするが、必要になれば躊躇せずに人間を殺すと覚悟を決めた。
 ミトには今、直ぐに殺したい人間が1人いる。そいつ、『最低最悪のゴミ男』が此処じゃ無い何処かで、絶滅危惧種の亜人で自分にとって掛け替えのない大切な存在である保護対象・ヒュウラに危害を加えている。相手に出会い次第、手錠は出さず警告もせず拘束しない。逮捕じゃなく、即座に頭と喉を撃って抹殺すると決めていた。ヒュウラを救い出す為に。
 ヒュウラの居る場所に速攻行きたかった。だがその為にミトは朱色目を連れて、この屋敷に残って探し物をしていた。
 物の形態は何でも良い。『ゴミ男』カスタバラクが向かった、ヒュウラが今居る所が特定出来る痕跡である。

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