琥珀糖にたどりついた
はじめてふれる「ことば」や「もの」や「できごと」を、すでに知っている別のなにかに例えることはよくあると思う。
得体の知れない衝撃を、じぶんの経験や記憶でかみくだいて、受けとめるために。
レバーをはじめて食べたとき、その食感は「階段がもう一段あると思って踏み込んだら、なかったときの肩透かし感」と感じた。
思った以上に歯ごたえがなかった。
「届きそうでつかめないいちごのように」という歌詞は、「歯ブラシにはさまったホウレンソウみたいなもの」と解釈した。
歯よりも、歯ブラシの根元につまったアイツのほうが取りにくい。
先日手にとったそれも、あるものに似ていると思った。
食べる宝石とも称され、近年注目を浴びている琥珀糖。
自分の行動範囲ではあまり見かけなくて、そういえば食べたことがなかった。
寒天に砂糖と色素をくわえ、乾燥させたシンプルなお菓子。
その歴史は、江戸時代にまでさかのぼるとか。
琥珀糖、という名前もうるわしい。
そして、見た目のシンプルさに反比例する、名前の画数の多さ。
宝石の名を冠した菓子は、平成にルビーチョコレートが出てくるまで、なかったのではないだろうか。
透過性があり、光にあたるとやわらかく輝く。
切りっぱなしで飾り気のないかたちと、紙風船や水彩画を思わせるノスタルジックな色合い。
さながら、おおきめのキュービーロップ。
キュービー「ド」ロップだと思っていたのだが、ドはいらなかったらしい。
光にかざすと、万華鏡やステンドグラスのようで、急に世界観がかわる。
ひみつの世界をのぞき込んでいるような。
手ざわりは、手にくっつかないアメ、という感じだ。
繊細そうにみえるのに指で押してもつぶれないし、すこしいびつだけれど、丈夫そうな風合い。
琥珀糖のいちばんの特徴は、その食感だろう。
カリッ、シャリッ、ジュルッ、トロッ。
見た目どおりのカリカリ食感のあとに、寒天特有のなめらかで歯切れのよいやわらかさがつづく。
カリカリ食感も、アメのそれとはちがって、歯にくっつくようなベタベタ感がない。噛めば噛むほどに、さらさらと流れていく。
原材料名をみたら、香料だけではなく、それぞれの果実ペーストが使われていることがわかった。色によって、ぜんぶ味がちがう。
あざやかな赤はスイカ、おちついた緑はメロン、はなやかな黄色はマンゴー、ふんわりした紫はブルーベリー、やわらかな白はピーチ。
果実ペーストの妙で、果汁感もはじける。
味が5種類もあるから、飽きずにカリ、シャリ、ジュル、トロをループ。
かたいのにやわらかくて、ノスタルジックなのに透明感があって、シンプルなのに奥深くて、素朴な見た目なのに中身は複雑で。
つまり表現力が宇宙。
矛盾を成りたたせてしまうこの存在自体を、じぶんの体内ワードに置き換えたら、ロックバンドのスピッツがバチッとはまった。
とげがあってまるい歌詞、ベテランなのに透明感のあるたたずまい、派手さはなくてもかわいらしいアートワーク、ロックなのにやさしい曲たち。
劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影』の主題歌『美しい鰭』は、歌詞にも歌われているとおり「びっくらこいた展開」だった。
出だしが変拍子(7拍子?)で、何回もループして聞きたくなる。
あと、鰭(ひれ)が読めなくて鮨(すし)だと思ったし、MVのサムネイルも「子役がそのバンド然として歌っている」のかと思ったら、ご本人たちでたまげた。
最新アルバム『ひみつスタジオ』のジャケットも、シンプルなのにかわいらしく、それでいて印象に残るアートワーク。
琥珀糖がスピッツっぽいというより、スピッツをお菓子にたとえるなら琥珀糖、といったほうがしっくりくるかもしれない。
矛盾をここちよく成立させる、琥珀糖のロックバンド。
あっという間に食べてしまい、クセになったのでまた買いに行ったら、お菓子人気NO.1のポップとともに「入荷待ち」になっていた。
スピッツも本当にライブのチケットが取れないのだが、そこは同じじゃなくてもいい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?