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芸術祭と魚と新潟と夏

新潟県では2021年8月28日~29日にかけて、「音楽と髭達」という音楽フェスが開催されている。さまざまな意見がありつつも開催されたフジロックに比べれば、知名度は低いかもしれない。

「音楽と髭達」には3年前に訪れたきりなのだが、その際、せっかくなので新潟市内で開催されていた水と土の芸術祭と、新潟市水族館マリンピア日本海にも足を運んだ。

水と土の芸術祭は、“私たちはどこから来て、どこへ行くのか ~新潟の水と土から、過去と現在(いま)を見つめ、未来を考える~”を基本理念とし、2009年から3年に1度、新潟市内で開催しています。新潟市の水と土によって形成された、独自の風土や文化に光をあてることで、人間と自然との関わりかたを見つめ直し、未来を展望していくヒントとなるものを探る芸術祭です。また、アートを媒介することで、先人たちが築きあげてきた水と土の文化を、国内外に発信し、次の時代を担う子どもたちに伝えていきます。
(水と土の芸術祭2018概要より抜粋)

同行者とは新潟駅で落ち合った。「弁当の前にいる」と言われ、駅弁の売店の前かと思いきや、これのことだった。
何人前の日の丸弁当だろう。うめぼしの周囲がほんのり赤く染まっているのが妙にリアルだ。さすが日本有数の米どころ。

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《日の丸弁当/間島領一》

会場は、新潟市内複数個所に分かれている。
メイン会場は、朱鷺メッセの近くにある万代島多目的広場。かつては水産物の荷捌き所だった場所だ。

中に入りまず目を引いたのは、ナイロン素材でつくられた水色の巨大チューブ状バルーン。
子供用の遊具さながら、中に入ることができる。

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《Soft Circuit/Fish Loop/松井紫朗》

全部、青い。海中のようでもあり、空のようでもある。
ご来場のお子さんのみなさんははしゃぎまくっていた。ところどころ破れてテーピングされていたのは、そのせいかもしれない。

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この青いチューブの周りに雲のように漂うのが、垂直の黒い糸に、白い糸の船が吊り下げられている作品。大きな羽のようにも見えて、ずっと眺めていたくなる。
作者の塩田千春さんを、大変失礼ながらsuicaペンギンのデザイナーである坂崎千春さんと勘違いしていた。立体作品も手掛けてるんだ、なるほど、白と黒の作風なんだねえ・・・などとのんきに考えていた。

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《どこへ向かって/塩田千春》

次は、遠目にみて、失礼ながらまだ準備中なのかな?と思ってしまった作品。

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《untitled/岩崎貴宏》

近づいてみると、ちいさな木片やつまようじで作られた橋だと分かる。
新潟だから万代橋かもしれない。ミニチュアとはいえ、おとなの身長分くらいはある。

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少し離れた屋外の会場にも足を伸ばした。
新潟市天寿園に隣接する清五郎潟にたたずむ、ろくろ首。         

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《清五郎さん/宮内由梨》

夏の新潟、とても暑い。そりゃ水被るよりも、直に頭突っ込みたくもなるよなあと思った。
ろくろ首、首長いから直に頭突っ込んでも服が濡れなくていいなあと変なところに感心してしまった。
この作品は2015年の水と土の芸術祭から常設展示されているそうだが、何も知らないひとが夜に見たらものすごく怖いはずだ。
こういうところからネッシー伝説とか始まるんだろう。

何会場か回ると、新潟市水族館マリンピア日本海の入場券が頂けた(たしかそうだった)ので、涼を求めて水族館へ。

名前のとおり、びっくりするくらい日本海が近い。

水族館だからあたりまえなのだが、太平洋側に住んでいる身としては、日本海が突如あらわれるとなんだかおののいてしまう。

では、魚の写真へたくそ選手権をご覧いただきたい。

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すごい見てくる。荒井注さん並みの「何だバカヤロー」が聞こえてくる。

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フルーツポンチみたいなきれいな色の魚を撮ろうとしたら、フグ的ななにかが「ちょっと通りますよ」とカットインしてきた。目が・・・目がこわい・・・。

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この水族館の魚は写りたがりが多いのか。画面いっぱいのエイの内側。

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「みてみて、あれがにんげんよ。やだ、あのにんげんニヤニヤしながらこっちみてるわ。アホそうな顔してるわね」と言われているような気がした。

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「受信料?いや、うちテレビないんですよ。いや、とにかく受信してないですから。届いてないです、わたしのところには。水中なんで」と言っているような気がした。

この水族館は、ラッコがいる数少ない水族館のひとつだったのだが、完全に見忘れた。同行者の頭の中が、夕飯の回転ずしでいっぱいだったのだ。
そのラッコも、昨年3月に天寿を全うしたらしい。

ところで、2009年からトリエンナーレ形式で開催されてきた新潟市主導の水と土の芸術祭は、本来なら今年開催されるはず。

今年は状況をかんがみてやはり中止か、と思い調べたところ、なんと2018年で幕を閉じていた。県知事交代のタイミングも影響しているらしい。

そして、2020年からはかつてサポーターとして携わっていた一市民主導で「(仮想)みずとつちの芸術祭」として復活していた。
総合ディレクターは、新潟市在住の会社員だというから驚く。

開催概要には「本当は存在しない芸術祭を、本当に存在するもので組み合わせ、掛け合わせて、あたかも存在しているかのように表現し、新しい形での芸術祭の可能性を探る」とある。

過去の作品や新作アート、ワークショップ、市民プロジェクトで構成された芸術祭は、行政主導のそれに比べればこじんまりしているように見えるが、いい意味で文化祭のようなあたたかみがありそうだ。

地域密着型の芸術祭やパブリックアートの効用として、「記憶の継承」があると思う。その土地の人々が育み続けてきた歴史や固有の文化など、目に見えない記憶を作品が具現化し、現在に継承・再生することができるからだ。

水に顔を突っ込んでいたろくろ首作品「清五郎さん」も、暑いから直で頭を冷やしたり給水したりしている訳ではなく、この潟に伝わる伝説を具現化したものだ。

清五郎潟に残る淋しさを拾いあげた、地方の薄ら寒い物語を背景に持つ作品。夜が更けると、いつからか帰らぬ清五郎を探し、辺りを彷徨う「お六」。体の弱かった彼がよもや潟に落ちたのでは、と水面下を探り見る。
新潟市ホームページより抜粋)

そもそも、水と土の芸術祭の開催趣旨は「新潟市の水と土によって形成された、独自の風土や文化に光をあてること」だった。
市民主導の「みずとつちの芸術祭」になったことで、規模は小さくなれど、逆にその目的と意義は研ぎ澄まされていくのではないかと思う。

行政から市民にバトンが渡った芸術祭のひとつのかたちとして、この「みずとつちの芸術祭」が続いていくことを願いたいし、やはりわたしは夏は新潟に行きたい。

そんな水槽のすみっこに隠れてるからおもしろがられるんだぞ。

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