ココアになったワンコ
猫ブームはとどまるところを知らず、ちまたには猫モチーフの商品がたくさん並んでいる。
猫は種類によって極端な個体差がないから、シルエットだけでも十分伝わる。
いっぽう、ボルゾイとフレンチブルドックでは、アルフィーの高見沢さんと俳優の中尾彬さんくらいちがう。
同じ犬好きでも、犬種によって好みも分かれるから、なかなかむずかしいのだ。
でも、やっぱり犬が好きである。
犬モチーフが少なくてさみしいな…と思っていたところに見つけたのが、これだ。
京都の老舗和菓子屋《亀屋良長》さんが手がける、犬顔ココアの押しもの。
ポストにもあるとおり、なんと明治時代の木型がつかわれている。
数年前から気になっていた品を、近所の百貨店催事でようやく手に入れることができた。
まんまるの顔、つぶらなひとみ。
すべてがやわらかな曲線で、長沢芦雪が描く犬のように愛らしい。
耳がないためクマのようにも見えるが、これはまちがいなく犬。
犬である理由は、商品名にある。
わたしだったら「わんココア」などと名づけてしまいそうだが、老舗はちがう。
ココアは、フランス語でショコラショー。
亀屋良長のココアは、《ショコラショー 笑》。
「笑」 まで含めて商品名だ。
直径5㎝くらいの犬顔ココアのうえに、スキムミルクの竹の葉がふたつ。
竹と犬の組み合わせは、漢字の「笑」という字に似ていることから、縁起がよいとされているらしい。
なみなみの厚紙が折り重なった箱をひらくと、漢字の「笑」があらわれるのだ。
まるで、判じ絵のような遊び心。
せっかくなので、グラニフのナガスギルイヌのマグカップでいただくことにした。
まるくても、ながくても、犬はかわいい。
取り出してみると、顔のついた植木鉢のようで、ちょっとシュール。
お湯を注いだマグカップに、ポトンと落とす。
熱湯120㏄、と書いてあったのでその通りにしたが、マグカップが大きすぎたためバランスがおかしくなった。
マグカップがゴールデンレトリバーなら、ココアは豆柴くらいである。
まるで、水底に沈んでいくようだ。
ショコラショー 笑 だというのに、せつない目で、こちらを見ている。ずっと目が合っている。
しばらく眺めていたら、口のあたりからぷくぷくと泡を吐き始めて、あまりのシュールさに思わず笑ってしまった。
こうなると、もうアザラシである。
ショコラショーのショーに、Showもかかっていないだろうか。
まるい顔のふちがほろほろと崩れ始めたところでふと我に返り、スキムミルクの竹の葉を入れてかき混ぜる。
スキムミルクは崩れやすく、あっという間に溶けていった。
からだによさそうと思い、砂糖を入れない苦めのココアばっかり飲んでいたので、まったりと甘いココアに思わず目を細める。
あまーーーい。
まるくて、なつかしくて、濃厚な甘み。
寒い夜の味噌汁と、寒い朝のココアは、なによりも染みるし、心に効く。
それにしても、凝った箱のつくりだ。
紅白なのも縁起がいい。
でこぼこしているのは、衝撃で破損するのを防ぐ役割もあるのかもしれないが、コーデュロイのようであたたかみがある。
広げたら、そもそも箱ではなかった。
ミニチュアダックスより長い、一枚ものの白い紙と、チワワくらいの短い赤い紙。
白い紙は、ゆうに50㎝を超えている。
これをじゃばらに折りたたみ、赤い紙を巻き付けることで箱状になっていたのだ。
展開図はいたってシンプルなのに、組み立ては凝っている。
正直、開け口がわからずルービックキューブのようにくるくる回してしまった。
スキムミルクの竹が少し崩れていたのは、きっとそのせいだ。
プラスチックトレーを使わなくても、何層も紙を重ねることでストッパー代わりになり、固定できるのかもしれない。環境への配慮。
とにかく犬の表情がなんとも愛らしく、縁起もいいから、ちょっとした贈り物にも選びやすい。
期間限定商品なのが惜しいが、犬モチーフの食品、ドッグランのように市場も駆け回ってほしい。
あと、つぎはマグカップのサイズを見誤らないようにしたい。
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