シュプリームな三日月
シュプリームと聞くと、あのファッションブランドが思い浮かぶ。
よく、芸能人のオフショットの胸元やキャップにちらりと映り込む、あのシンプルなロゴ。
そもそもシュプリームとは、
マックスにすごい、という意味合いの英単語。
このごろ流行りのシュプリームはこれらしい。
お気に入りの横浜駅のパン屋に、いつのまにか見なれぬパンがあらわれていた。
ニューヨークで流行っているという、シュプリームクロワッサン。
「最高の」クロワッサンとはたいそう気の強いお名前だ。
シュークリームやシュリンプやシュプレヒコールも見え隠れしているし、必殺技感もある。
クロワッサンは、バターをパン生地に織り込んで焼き上げ、サクサクした食感が特長のパン。
「ワッサン」の部分が、そのサクサクふわふわ感を絶妙にあらわしているように感じる。
フランス語で「三日月」を意味し、その形状が名前の由来となったことも、よく知られていると思う。
パン好きには朝メシ前の知識だし、そもそも朝メシにぴったりのパンである。
こうもまんまるになると、もはや満月。
ただ、プレーヌ・リュンヌ(満月)だと往年の名俳優感がただようし、本場フランスでは、ひし形のものもあるという。
クロワッサンたい焼きなるものもあるくらいだから、野暮なことは考えないでおく。
重要なのは外見ではなく、その生地なのだ。
でも、ほぼデニッシュと同じ生地だし、その違いが甘いか甘くないかにあるのなら、菓子パンに寄ったクロワッサンはもはやデニッシュかもしれない。
いずれにせよ、やかましいから考えないでおく。
ものごとはハイブリットになり、進化していくのだ。
手のひらくらいのまんまるに、レモンイエローのアイシングと、オレンジピールと、白いパールシュガー。
グラデーションがうつくしい。
ほかにも、はなやかなピンクのストロベリー、あざやかなグリーンのピスタチオ、なじみのあるチョコレートが並んでいた。
行ったこともないし、よく知らないけれど、ザ・ニューヨークな色合い。
円周にトッピングがあるため、店頭では縦でディスプレイされている。
厚みがありどっしりとしているから、転がらない。
とはいえ、トレーに載せてレジに運ぶまではドキドキだ。
乾いてパリパリになっているとはいえ、アイシングが両面にコーティングされているので、できるだけ縦のまま運びたい。
この瞬間だけ、月みたいに無重力だったらいいのに。
はんぶんに割って、上弦の月あるいは下弦の月にすると、こまかい層のなかに、クリームチーズがぎゅっと詰まっている。
レモンイエローのアイシングは、その見た目どおり、レモン風味。
オレンジピールのほろ苦い酸味とともに、初夏にきもちいい香りが鼻に抜けていく。
うずまき状に丸いからか、一般的なクロワッサンほどのパリパリ感はないものの、生地はふんわりサクサク軽い。
ここでやってくるのか、無重力。
生地自体は甘くないため、やはりこれはデニッシュではなく、れっきとしたクロワッサンである。
中のクリームチーズが柑橘の酸味をまろやかに、そして、サクサクふわふわの生地をなめらかにまとめてあげてくれる。
シュプリームクロワッサンとはだいぶ大きく出た名前だと思ったけれど、満月のように、欠けたところのないパンであることは確か。
無重力を楽しんでいたら、満月はあっという間に新月になり、まんまるの皿だけが残った。
ほんものの月みたいに、もとに戻ってくれないだろうか。
そうなったらまさにシュプリームだから、シュプレヒコールしたい。
ところでこれ、国内でもじょじょに浸透しつつあるらしい。
横浜のパン屋はニューヨーク発祥だから納得だけれど、湘南のパン屋でも展開していた。
カヌレやマリトッツオほど俎上に上がっていないような気がするのだが、今後、シュプリーム旋風を巻き起こすのだろうか。
ファッションブランドのシュプリームのロゴのように、いつの間にか視界に入り込んでいるかもしれない。
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