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連載4 死者の愛 窯変します愛情は?

第4話Pick Up!
「助かる人は勝手に助かる、言いましたけど、誰かが立ち会わないといけない。ゴボゴボ溺れて死にかけますとだんだん気持ちよくなってしまって…」


〈前回までのあらすじ〉
愛染明王の修理依頼
亡き母の霊を見たというお客様
フランスから来た相方がなぜか怒りだして…

 

フランスの相方とお客さん(僧侶)の口論勃発2分前

客「私がドイツ留学を切り出した時がはじめてでしたかね。母の希死念慮バクハツ。ハンガーストライキでした。必死でなだめましたよ。罵詈雑言に耐えつつ。でもね、なだめながら私の心のなかが冷えてくと申しますか、、、なんといいますか」
 
 中略(毒親エピソードいろいろ)

客「ーーー
  いつまでも子供のままでいてほしい。
  親離れで傷つけられるくらいなら自立させない
  そういう姿勢は、そこはかとなく感じさせる母だったのですが、
  自制心や恥じらいはあったはずなんですよ。
  ところがタガが外れてハンガーストライキがはじまると、、、
  別れ話に錯乱して抗う女にしか見えなくなってしまいましてね
  母が女に見えるって気持ち悪かったんですが、、、
  それ以上に、今までの母性がなんといいますか
  まあ、子供の依存を誘う、、、んー共依存って言い方でしたか?
  それって変種の性欲だったんじゃないかなーなどと兄と話し合ったり」
 
フランス「ちっ違うよ!!
その希死念慮は自己嫌悪だよ! 
こどもの守護者(戦士)のプライド。
自分への怒り。
美しいよ。
子どもたちを呪い、罵倒する言葉は自分自身に刃を向けてる」
 
ぇえ、相方が吠えてるし
なんか大事なこと考えてたんやけど、、、忘れた
修羅場ぁ?
 
客「はあ、、、まあ、なんかの承認欲求ではあったのでしょうが」
 
美輪の明宏さんがテレビでおっしゃてましてな
「外に向けるべき刃を自分に向けてどうする?」
(あれ、なんか外したかいな)
(話聴いてなかったしな、流れがわからん)

自責の念はこじらすとコワイですからね
子どもたちにヒスあてるんは、まだましじゃないですか~
 
客「自責の念より他責のほうが毒が少ないということですか?」
度が過ぎたらアカン
せやかて、そういうの含めての家族といいますか
 
客「消化させてあげられなかったんですよね」
そんなことないですよ。
自我も立たない子供に承認欲求ぶつける虚しさ、矛盾は気付きますよ誰だって、結局ゥー

フランス「世界を塗り替えるしかない。自分の尊厳が認められる世界を作ります」
過激やなー
さすが市民革命の国のお人や
 
客「プっ、、、いや、失礼。お二人の掛け合いに肩の力が抜けました。」
でも、言い得て妙ですな
家族とはいえ口出しせんといたほうがいい事ありますやろ
結局、助かる人は勝手に助かるし
その人だけの人生ってパラレルワールドみたいに常に引っ付いて回るといいますか
 
フランス「でも、自分を助ける価値を自分に見いだせない時もある!」
そう。
助かる人は勝手に助かる、言いましたけど
誰かが立ち会わないといけない。
ゴボゴボ溺れて死にかけますとだんだん気持ちよくなってしまって
このまま逝ってしまいたい、、、そういうのも希死念慮ですか?
まあ、そんな時、誰かの顔が見えますと
ああ、私を必要にぃしてくれる人もまだいてはるんやな
まだ逝けへんな
なんで必要とされてんのやろ、私?
そんな私ってなんなん?
 
という塩梅に、改めまして
自分の奥底に自分の手ぇーツッコんでな
自分をサルベージする作業はじまりますやん
そんな舞台装置を整えるのが私等の仕事
思いますとな
改めまして
仏像はしゃべらない、動かない、それがええな
せやから、
 
助かる人は勝手に助かる
自分が再び生きていける世界をつくりだす
そんな瞬間を見守る人は
何もせんでよい
むしろ、何かしたらアカン
そう思いますとな
 
お客さん、親孝行やー

 
フランス「お母さんが女にみえる、なぜ気持ち悪い?」
 せやかて
自分も相手も身動きとれないようにガチガチに縛る
それは気持ち悪い
 
フランス「それはわかるよ。共依存はもともと、フランスの言葉だから」
 
そしたら、第三者と恋することはあらへん
せやかて第二者は、実の子供やし
本来は、自分の性を第三者相手に確認したら良かったんやけど
(まあ、第三者のあるべきである君は旦那さんやが、訊かんとこ)
身動きとれへん人間関係に沈んどったら
第三者の出る幕ないな
 
客「しかし、、、」
誤解せんといて欲しいのは
不倫せい! ってことやのうてな
そこまで、せんとも
カルチャー教室やダンス教室や、行きつけのバーテン
担当の美容師さんやジムのトレーナーさん相手にな、
ちょこんと片思いするだけでも
尊厳が認められる自分の世界が開けますやん
そしたら

フランス「共依存は束縛の二乗」
 
そんな不自由に子供を巻きこむことも無かったんちゃいますか?
ダンスの先生も美容師さんも、そんな淡い恋心をお客さんから引き受けるストレス込で、お代もろてるわけやし
そいでも足りひんかったら
その道のプロさんがおるやろ
 
客「その道のプロって、いらっしゃるんですか?」
 
お猫さまやー
街猫さんでも、ええな
師匠の受け売りですけどな
 
猫っちゅう生き物はな
人間様の、な、持て余した愛情を引き受けてくださるんですわ
自由気ままで勝手放題にみえましてもな
キチンと、そのへんの仕事はしてくださる
ありがたーいお隣さんや
なにより、
狭いところが大好きよって
監禁されても気にせんのが、お猫さまー
そや、
平櫛田中さんのお師匠の、そのまた師匠筋は
お猫さまを指しまして
 
魔王
 
と認定されてましたかね
 
「魔王?ですか」
 
猫一匹、うちにおるとな悪魔がよってこない
言いましてな
わたしら、職人はマジナイはご法度ですからな
理に照らしますと
魔を引き寄せる源
人の寂しさや持て余した愛情を
お猫さまが食べてくださるって考えてますよって
左甚五郎さんの 眠り猫 見た時
そう思えたんですわ
そう言えば
なんて?どちらさんでしたかな?
あぁ、スウェーデンボルイさんや、 
あの可哀想な学者さんも書き遺してますよ
 
猫一匹あってはじめて空間(建築や部屋)は完璧になる
 
(どうやろ、場が和んだかな)
 
フランス「スウェーデンボルイは奇想奇天烈な本ばかり有名になった。けど本人は秘密にしてた。遺族がプライベートな日記を暴いて出版した。ユングと同じ」
せや
スウェーデンボルイさんもユングさんも、燦然と科学史に御名を刻まれた理性のお人や。ただ、誰だって、隠れた趣味やら世界観をお持ちやし、むしろ、そういう一面を隠してな、科学者としてのお仕事からきっちり切り離すんが偉人さんならでわの立派な分別やと思うんですが
違いますかね
ですけどな、後世の人たちが、秘密のプライベート暴いて、
故人の日記まで出版して、背びれ尾びれがひらひらついて
カルタだかカルトやら知りませんけど
サブカルのおもちゃにされ
まあ、そこまでは有名税としましても
科学史の業績まで忘れられてしまうのは忍びない
 
「まるで、今でも有名人様方と渡りあってるかのような説得力ですね」
 
(おっ和んだな。そろそろ切り上げよか)
偉人になるからこそ、人にはわかってもらえない世界観をお持ちやし
そういうのが、な、変わった趣味や日記になるんは仕方ないやろ
って思いますし
そのへん、引き受けていくのも美術、
美術いうたら師匠に怒られますけども
この仕事の醍醐味かな、、、と思うんですよ
 
「いやいや、身が引き締まる想いです。
私もしっかりして、受け皿の介添え人くらいにはならないといけませんね。母のことも、もう一度よく見つめ直してみます」

誤解せんといて欲しいんわ
それとこれとは話が別やー言うことですわ。
うちの相方が過ぎた言葉で、
お母様への思いを訂正しにかかったんは申し訳ないですが、
外人さんが言葉足りひんのは道理やから堪忍してほしいのやけど

それは置いときましても、な
お客様が見たとおっしゃる「お母さまと愛染明王」のご縁は
エラい迫力と真実味を堪能させて頂きました。
素朴ゆえのリアルって言ったらええですかね?

今回のお仕事、こちらこそ身が引き締まる想いです。
貴重なお話の数々、持ち帰らせて頂いて、師匠連とよくよく相談して
まずは調査計画を立ててまいりたいと思います
(キマったかな、千秋楽や)
 
「さきほどおっしゃてたじゃないですか? 助かる人は勝手に助かる」
(アレレ、まだオチんかったか)
「でわ、助からない人はなんで助からないのでしょうね?」
 
フランス「テューモス!! 日本語でなんという? 尊厳? があるかないかだよ」
てゅ、テュー、なんて?
(また、散らかしてくれんなや)
 
客「たしか、魂の三つの構成要素でしたかね?ギリシャの、、、」
フランス「ソクラテスからはじまって騎士道になったよ、テューモス。でもチェコのヤン将軍に滅ぼされた。」
ヤン提督のこと?
「違う。それは日本の小説でしょ。元ネタかわからないけど、チェコのヤンは軍法の父。軍法が騎士道を打倒した」
なんや、また散らかってきたな、、、
 
客「愛染明王の種字といいますか、真言にも魂の三要素が指摘されてましてね。ひとつが欲、たぶん愛慾で愛染明王が赤い理由、もうひとつが憤怒。愛染明王のお顔ですね。」
 
フランス「それ、憤怒がテューモス! 日本語にもあったんだ!!」
驚いた。こちらのお客さん、今まで仕事してはったんや。
自分語りかと思ってたわ。
なんか恥ずかしくなってきた、自分。
私は、場当たり対応セラピストか!?
 
客「ソクラテスの魂の三区分は何でした? 欲とテューモスと、、、」
フランス「理知とか理性とか日本語になってる」
客「そうですか。愛染明王の3つ目は、理性的な何かではないですね。なんだかわからないですが、憤怒と欲が入り交じった何かっぽい。第一の欲もひょっとしたら、ソクラテスの欲とは異なるのかもしれないですね」
 
フランス「まだ、わからないけど、憤怒と欲の混ざってる感じのほうがテューモスに近いかも。テューモスが欲求を変性、、、私の好きな日本語で窯変させる、、、窯変源氏物語スキ。窯の火と圧が、粘土を美しいセラミックに変えていく。でも、火と圧のバランスだめだと割れちゃう。割れちゃうは死んじゃうでしょ。お母さんは死ななかった。だから美しいよ。」
 
驚いた(2回目)。フランスの相方も仕事してたんかい。
みなさん、愛染明王さんについて掘り下げてはったんかいな
今日の狂言回しは私?
 
客「割れなくても、かなりの圧力と温度にさらされてこそ仕上がるのが陶器。だから死なずに(割れずに)希死念慮を抱えている母は美しい、、、と仰ってますか?」
 
フランス「なんというか、チョト違うけど、今の言葉は否定できないし、良い窯? 良い家族! だったと思うんです」
 
ところで
サンスクリットお読みになられるんですか?
ドイツ留学されてたと仰ってましたものね。
 
客「読めるというと語弊がありますけどね。そもそも死語の世界ですから。暗号解読班の末席を頂く程度ですかね。」
神社さんの祝詞と同じやな。今の言葉に訳そうとしても、考え方が違いすぎるんや。古代と現代で、単語の下地となる概念が一致しないんや。
 
フランス「なんでドイツ?サンスクリットはインドやチベットじゃない?」
日本のお坊さんがドイツ留学というのはな、
過去百年珍しくない。
なんていうたかね、アインシュタインさんにも影響したドイツの哲学者様がサンスクリット経典をぎょーさんインドで集め回ってな。
それが、なんだか、しらんけど、空間の重力的な歪みやら、光の速度の緩みやら、果ては時間の早さは一定じゃないやら
摩訶不思議な言葉をドイツ物理学に吹き込んでな、、、
 
まあ、サンスクリットは無とか空とかゼロやらサイファーやらヌルとか全とか、無限大、無限少そういう言葉が豊富やったんちゃうか?
おまえさんの国の言葉が「愛」について豊かなのと同じーや。
 
フランス「でも、チベットやインドのほうが、まだまだサンスクリット経典あるじゃない?」
 たまーに、チベットのポタラ宮殿でな、
珍しいサンスクリット経典が見つかったーとかニュースになるけど
逆に言うと、もう生きてないんやわ
マニ車まわすと功徳があるーって感じで
朝に夕に、サンスクリット経典を読みあげても、
もはや、マジナイや。
読解にはならへんやん?
せやからな
 
ドイツはサンスクリットのルネサンスを果たしたーってことで
まあ、実際。物理学に役立てるほどのサンスクリット研究はマジナイ仏教やないやろ。そのへん、素直に白旗あげて悔しがってる坊さんが
そやなー
台密系?そちらさんには多いかな
失われた言語を蘇らせんるのはたいへんなんやで
今日のお客様は、ほんま、ご立派や
 
客「耳の痛いお話チラッと聞こえましたけど
マジナイ仏教屋さんにならないよう精進します。
高野山にもドイツ留学者多いですよ。物理学で論文書く人もチラホラ。
般若湯(←お酒)の席で、
重鎮が相対性理論を高野山が産めなかったのは恥だーってまだつぶやいてますね。そういう恥の気持ちもテューモスなんでしょうか?」
 
フランス「見てないからわからないけどソクラテスは、欲求と理知だけじゃない魂は、、、第三の要素あると主張した。
それをテューモスと呼ぶ。
戦士や守護者、戦いに命を投げ出す人にしか備わらない第三の魂。」
 
客「さきほどの美輪さんの言葉はテューモスを呼び覚ます意図だったんですか? 周囲に向けるべき刃を自分に向けるな、、、でしたっけ?」
 
テレビで、高校生の時分いじめられたトラウマが辛いー今でもー
言うてはる女性に
美輪さんがおっしゃったんわ
 
おまえを虐めたクラスメイトは学力優秀でスポーツ万能で人望があって美人揃いだったか?  どれかひとつでも、該当する人におまえは辱めをうけたのか?
そうでなければ、そんな連中の言葉を真に受けて傷ついてどうする?
醜い人に醜いと言われたら怒りなさい。
あなたは、その情けない人たちにむけるべき刃を自分に向けてしまった
 
でしたね。
 
フランス「テューモスや尊厳のケーススタディに出てくる話だよ。難しいけど最新。ネット社会で避けられない話題。僕は今うれしい」
 
客「なるほどー  皆さんのおっしゃる「助かる人は勝手に助かる」は憤怒の有無と関係ありそうですね。たしかに母は怒りん坊でした。憤怒は愛染明王さんのテーマとして扱ったほうが良さげですね」
 
フランス「自己嫌悪がある人はみんな美しいよ。無い人はくだらないことしかしない。希死念慮も自己嫌悪に根ざす限り美しい。」
 
なんでしょうね
さっきチラッと聞きましたけど
テュー、テューモスコス?
そんなんは戦士にしかないぃ
言うとりませんでした?
卵と鶏とどっちが先かはわからへんけど
美輪さんの話は
 
戦士になれー
 
っていうか、
尊厳を傷つけられたら、ちゃんと怒りなさい
という法話に聞こえましたな
こじつけるわけではないですけど
 
フランス「ルサンチマンの話もあって難しいけど、、、戦えない人たちの集合無意識がイジメの動機になるよ」
おまえは、また、散らかすー
 
客「いえいえ、大事なお話を聞かせて頂きました。愛染明王のテーマの外側(愛染明王ではない何か、他の明王さんが扱うトピック)にルサンチマンなんか見据えますと、やっぱり戦士の気概や誇りのような何かが人の情念を愛情に昇華させる作用があると考え始めて良いのかもしれませんね。
直江状を再読したくなりました。」
 
直江状?
愛一文字の前立の武将さんの書いたお手紙でした?
まあ、おあとがよろしいようで
ツッコまないで帰らせて頂きましょか
(愛染明王さんと縁のある武将やったかな?)
大脳フル回転疲れたわ
もうブラックアウトや
実際、途中、意識途切れてた
 
客(独り言)「たしかに母は戦闘民族だったんですよ。何と戦っていたのか知りませんけど。戦う理由がなくなった戦士のテューモスって、行き場があるのでしょうか、、、あぁ、愛染明王が行きつく先なのか」
 
→帰路、いつのまにやら秋葉原

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