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『ドラキュラ』(1992)石岡瑛子の衣裳デザインを堪能する映画

こんばんわ、唐崎夜雨です。
先日、今年のアカデミー賞のノミネート作品が発表されました。今年は日本映画ならびに日本人のノミネートがあり、なかなか活躍が期待できそうな、予感。
3月11日(日本時間)の授賞式が楽しみです。

さて、今宵ご紹介する映画は1992年、フランシス・フォード・コッポラ監督の『ドラキュラ』。
原題は『Bram Stoker's Dracula』。

原題に“ブラム・ストーカーの”と原作者の名前を冠したのは、これまで映画スター・ドラキュラ伯爵は原作からかなり離れてキャラクターが独り歩きしていたようなので、コッポラは原作に忠実なドラキュラを描こうと試みたためです。

この『ドラキュラ』で石岡瑛子がアカデミー賞衣装デザイン賞を受賞しています。
ほかに音響編集賞、メイクアップ賞でオスカーを受賞、美術賞でもノミネートされていました。

こうしてみると、視覚的に評価の高い作品と言えます。ちなみにこの年の作品賞はクリント・イーストウッド監督の『許されざる者』。美術賞でオスカーを獲得したのは英国の屋敷を舞台とした『ハワーズ・エンド』でした。

石岡瑛子は2012年の『白雪姫と鏡の女王』でもノミネートされましたが、このときはすでに故人でした。

あらすじ

若き弁護士ジョナサン・ハーカーは、ロンドンの不動産を購入したトランシルヴァニアのドラキュラ伯爵の元を訪れ、土地の契約を進める。ドラキュラ伯爵は紳士的な老貴族であるが、どこか違和感のある人物で、住んでいる城でも不思議な現象が続いていた。
ジョナサンは契約を終えてロンドンに帰るはずだったが、伯爵によって軟禁状態となってしまう。そして城に住まう三人の女吸血鬼に襲われる。
(女吸血鬼のひとりがモニカ・ベルッチ!“イタリアの宝石”といわれた彼女は吸血鬼でも美しい。)
一方イギリスでは、ハーカーの恋人ミナは友人ルーシーの元を訪れていた。ルーシーはミナと違い奔放なタイプの女性で、三人の求婚者が居た。
ある日、ミナが町を歩いていると外国から来たという紳士的な男性と出会う。恋人ジョナサンがいながらも、ミナはこの男性に惹かれてゆく。
この男性こそ、若返ったドラキュラ伯爵である。伯爵がまだ人間で英雄であったころの王妃エリザベートにミナは瓜二つだった。

石岡瑛子の衣裳デザイン

この映画で「衣裳はセットだ」とコッポラ監督が言ったそうです。そのため衣裳が映えるようにセットはあまりごちゃごちゃさせなかった。
最初の美術監督はコッポラの意図がくめず解任させられている。

斬新なドラキュラ像で、コスチュームによる説得力がある。奇をてらうような衣裳は一歩間違えると滑稽になるが、エイコ・イシオカは違う。

たとえば、まだ人間で英雄であったころのドラキュラが着る鎧は鉄の冑ではなく、筋肉を模したような赤みのある鎧を着ている。こんな鎧は見たことがない。

またドラキュラ伯爵のファッションといえば、これまでは黒。頭髪もオールバックが相場。
ところが本作では極端に裾の長い赤いローブのようなものを身にまとい、ヘアスタイルも白髪のハート型。しかも後で編むほど長さがある。

棺の中から登場するときは、クリムトの『接吻』のデザインのままの金の衣裳で、伯爵の醜悪な容貌よりまっさきに目に飛び込んでくる。

コッポラは設定は原作に比較的忠実に描こうとしたようだが、視覚的には従来とは異なる新しさを求めたようです。

それは衣裳やセットのみならず、撮影方法にまで及んでいる。

アナログ感満載のB級映画

本作『ドラキュラ』は、いい意味でB級映画だと思う。
ドラキュラにゲイリー・オールドマン、ジョナサンにキアヌ・リーヴス、ミナにウィノナ・ライダー、それにヴァン・ヘルシング教授にアンソニー・ホプキンスといったスターをそろえてお金をかけながらのB級映画です。

それというのも、あえてCGを使わずに、映画初期の視覚効果を狙ったためでしょう。作品に古典的な雰囲気を醸し出すためもあるが、実はドラキュラとキネマは仲がいいようです。

ブラム・ストーカーが『ドラキュラ』を出版したのが1897年。
リュミエール兄弟がパリで最初に映画を有料で公開したのが1895年。
ドラキュラと映画は19世紀末に誕生した同世代いってもいい。この映画の中でも、伯爵とミナが映画を見に行くシーンがある。

また、ほとんどのシーンをスタジオに大きなセットを組んで撮影している。これもまた映画全盛期のスタイルで個人的には好感持ってます。

おっちゃんたちがセット組んで、ミニチュア作って、風を起こして、雨を降らせて、カメラの映らないところで一所懸命やってるんだなと思うと微笑ましくもあります。参加してみたくもなります。

その古典的な撮影方法や、目をひく衣装などにより、視覚的にドラキュラの世界観は得られた反面、いくぶんケレンミの強いものになってしまった感じもいなめない、かな。

実は、怖い映画は苦手なんです

この映画のドラキュラは、吸血鬼という恐ろしい怪物としては描かれていない。永遠の愛に生きる物語とでも言いましょうか、それほど怖くはない。

もともとホラー映画は苦手。
ドラキュラは貴族出身らしく品があるのでいくらか助かる。それでも、幼いころだったら怖がったでしょうね。

またドラキュラは性的な魅力をも備えている。血を吸う行為はセックスだと考える。ドラキュラは基本的に女性を狙う。

一方で女性たちは吸血鬼に惹かれてゆく。ジョナサンにしろルーシーの3人の求婚者にしろ、かつてオスマン帝国と戦った英雄の前ではお行儀がよすぎる。


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