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Femtechまとめシリーズ vol.2「Femtechの事業立ち上げに向けたビジネスモデル事例のご紹介」

Femtech Community Japanでは、これまで様々な講演・EXPOなどでFemtechの概要や業界動向についてお話してきました。このシリーズでは、その中でも特にご関心の高かったトピックスを中心にシリーズで解説・議論していきます。

今回は第2弾「Femtechビジネスの事業立ち上げに向けたビジネスモデル事例ご紹介」について、お話しします。


Femtechの事業立ち上げとビジネスモデルの事例ご紹介

1. はじめに

フェムテックの領域の中でも「事業の立ち上げ」を検討される方に向けて、先行するビジネスモデルを紹介しながら、世界の事例・日本の事例、それからどんな観点でビジネスモデルを検討したらいいか、といったヒントをご紹介する。

前回からのおさらいになるが、まずはフェムテックにはさまざまな領域があるというところを最初にご紹介したい。
フェムテックのテーマと言うのは、女性の健康課題を幅広くサポートしていこうという領域。月経、妊娠、不妊治療、それから産後のケア、育児、更年期障害、婦人科系疾患、セクシャルウェルネスなど、さまざまなライフステージに紐づいた、もしくはライフステージに紐づかない領域が対象になる。

グローバルのフェムテックのプレイヤーのマップ(Femtech Analytics:https://www.femtech.health)によると、2021年2Q時点で世界中で1,500以上のプレイヤーが出てきている。日本でも大企業、スタートアップ企業含めて取り組みが始まっているが、なかなかマネタイズやビジネスモデルの確立に課題を感じているというお話を伺うことが多い。
今回は、世界・日本でどのようなビジネスモデルがあるかをいくつかご紹介し、大企業の中での新規事業立上げ、もしくは起業・スタートアップを検討されている中でのヒントになればと考えている。

世界で広がる女性のヘルスケア領域
世界では1,500以上のプレイヤーがいる。日本でも100社以上、最近は正確には数えていないが、おそらく直近では200社以上ぐらいの会社がこの女性ヘルスケアxテクノロジーの領域でのビジネスに取り組んでいる。
一方で、特に国内ではまだまだ取り組みが進んでいない領域もある。例えば避妊関連のサービス、骨盤底筋トレーニングやそれに紐づいた失禁といった症状も課題として存在する。女性のライフステージに紐づいた栄養の管理や予防対策など、女性の健康課題のギャップに向けたプロダクト・サービスの検討においては、はまだまだホワイトスペースが多いと考えられる。

2. 月経関連のサービス

ビジネスモデルの事例をいくつかパターンに分けてご紹介する。

一つ目は、月経まわりのサービス。まずは「Clue」と呼ばれるドイツの会社だ。世界で1,300万人以上の利用者がいると言われているサービスで、月経周期をモニタリング・記録していくことによって次回の周期の予測や避妊・妊活に活用できる。膨大なデータを蓄積し、統計的に解析することで米国ではFDAの承認を取り避妊ツール認証を受けている。

月経関係の有名なサービスとしては「CORA」が挙げられる。プロダクトである生理用品そのものはテック依存ではないが、提供の仕方としてサブスクリプションモデルを活用している。ひとりひとりの生理の周期や経血量は個人差があるが、アンケートなどによりパーソナライズをして、個人のタイミングに合わせてサブスクで生理用品をD2Cで提供している。

1点、私の主観的な意見になるが、どちらの企業もピンクやお花などを使った旧来の日本の「生理用品」に見られるブランディングをしていない。Clue はダーク系な原色、CORAは完全にモノクロで、白・黒・グレーといった色でシンプルなデザインを採用している。また、CORAはフェアトレードを基本としたSDGsを訴求するプロダクトを提供しており、こういった社会性・独自性による訴求も、多くのFemtech企業に共通する特徴と言える。

2. 在宅検査デバイス

自宅で様々な検査ができるデバイスも、新しい技術適用とともに広がりを見せている。Femtech向けのデバイス企業の特徴は、デバイス単体ではなくデバイスとそこで得られたデータを連携して表示するアプリ、多くの場合はスマホのアプリがBluetooth等で連動してユーザー側でデータの見える化が手軽にできるソリューションが多く見られる。

ドイツ企業の「Inne.」は、唾液で妊孕性ホルモンが測定できる技術を開発している。スマホと連動する10cm四方程度の大きさのデバイスがあり、そこに唾液を染み込ませたスティックを入れて検査する。スティックの中では小型のイムノアッセイが実装された構造になっており、その結果を画像解析し、妊孕性ホルモンの検出・モニタリングが可能となる。

オーストリアのスタートアップ「Breathe ilo」は、呼気中のCO2量を測定することにより、月経周期を予測するデバイスを開発した。従来は、月経周期の取り方やホルモン検査では、基礎体温の測や、もしくは精緻な検査のためには血液検査が必要になってくる。しかし、こういった手軽に検査・測定ができるバイタルデータを使い必要なホルモン値の予測をしていく、そういった技術がデータを解析により実現されている。

IoTデバイスの先進的な企業の例として、米国スタートアップ「Kegg」を紹介する。膣の中のおりもの(膣内分泌物)を解析することによって、排卵日や妊娠しやすい日、月経周期を予測してするデバイスを提供、アプリと連動してデータが簡単にモニタリングできる。特徴としては、ポーチに入れて持ち歩いたり、隠さず洗面所にも置けるおしゃれなデザインが挙げられる。こういった点が欧米で先行するフェムテックプレイヤーの共通する特徴になっている。

3. 不妊治療向けBtoEサービス

不妊治療において、データ解析による成功事例として、「progyny」が挙げられる。当社は2019年にニューヨークで時価総額$1.3Billion(約1,700億円)で上場した。Femtech企業としては当時ほぼ初めての大型上場であったため、フェムテック領域の中では大きなニュースとなった。現在の時価総額は$3.21Billion(約4,320億円)まで成長している。

当社は、「スマートサイクル」と呼ばれる独自の治療パッケージを提供しており、ホルモン検査結果を踏まえ、ひとりひとりがどういった治療方法を選べば最も短期間で妊娠率高く治療が受けられるかを、蓄積したデータ解析により確立し、ひとりひとりに最適なパーソナライズ治療サポートを行っている。当企業の特徴は、サービス提供をBtoCではなくBtoEモデルで成長した点である。米国でテックジャイアントと呼ばれるGAFAMのような大手IT企業を中心に福利厚生サービスとして広く導入されている。

一方で、このBtoEモデルは、必ずしも日本で短期間で拡大するとは限らない。米国のテクノロジー領域における人材、例えば優秀なエンジニアなどはすぐに転職をして離職してしまうため、そういった優秀な従業員に対して会社のロイヤリティを高め離職せずにいてもらうための福利厚生サービスが、米国を中心に拡大しているという現実がある。

他にも、米国の女性ヘルスケアに関する福利厚生サービスとしては、2020年時点で42%の大手企業、19%の中小企業において不妊治療の支援が福利厚生サービスとして取り入れられており、福利厚生向けに巨大なマーケットが出来ている。


4. 更年期向けサービス「メノテック」市場

不妊治療関連のサービスは、日本だけではなく米国でも盛り上がっているが、一方で、米国では更年期向けのサービスも複数出現している。更年期向けの領域は「Menotech/メノテック」と呼ばれており、今後、6,000億円以上の市場に成長すると言われる。

「ELITONE」は、骨盤底筋向けのEMSトレーニングのプロダクトを提供する。腹筋のトレーニングをするSIXPADの骨盤底筋版と言えばわかりやすいと思う。
EMSパッドを下着に貼り付けて股にある骨盤筋肉に当てることで、家庭では家事をしながら、リモート勤務ではオンライン会議に出席しながら骨盤底筋のトレーニングができる。米国ではFDA認証、欧州ではCE認証を取得し、利用拡大が期待される。

「Embr Labs」は、更年期向けのウェアラブルデバイスとアプリを組み合わせて提供する。このリストバンド型デバイスから温感・冷感の波形を展開し、ホットフラッシュと呼ばれるほてりを落ち着かせたり、睡眠障害の対処として睡眠導入のサポートが可能となる。米企業のJohnson & Johnsonと共同開発した製品である。

また、必ずしも更年期だけではなく、いわゆるプラットフォームとしてユーザー向けに遠隔医療を展開したり、自分の健康状態を「ジャーナル」と呼ばれる日記形式の記録をつけることで、そのデータを活用したパーソナライズ診療が可能になったり、ユーザーが自身の健康状態を可視化をして理解ができるといったサービスが増えてきている。

5. 女性特化した総合医療サービス

卵子凍結のサービスも、欧米では日本よりもかなり進んでいるが、卵子凍結サービス提供を通じて、不妊治療を含め自分の身体・健康状態をより身近に知ることができる統合的なサービスを提供する企業が多数出てきている。

代表的なプレイヤー「kindbody」は、もともとはAMH検査、いわゆる妊孕力(にんようりょく:妊娠できる可能性)を図るホルモン検査を安価に提供し、そこから卵子凍結サービスや統合的な医療サービス誘導するモデルで事業拡大を進める。
特徴として、米国の国土が広さを前提として、バンタイプの車両で地方の都市・町を訪問しながらサービスを提供している。車両の中はおしゃれなカフェのような内装になっており、その中で医療の専門家への相談、AMH検査、卵子凍結の相談や予約ができる。直近では女性に特化したクリニックを運営・全米に展開し、妊娠に関わるホルモン検査・遺伝子検査から体外受精まで、一気通貫でサービスを提供するというビジネスモデルを展開する。

「Tia」は、オンラインのチャットの健康相談・質問ができるアプリから事業を展開してユーザー獲得を拡大し、現在は自社クリニックを立ち上げてサービスを広げている。
クリニック運営においても、アプリ予約や医療従事者とのチャットなど、すべてデジタルチャネルで実装しており、従来の医療サービスに比べ効率的なサービスを女性特化で提供している。
どちらの企業も100億ドルを超える資金調達をして事業拡大を進めている。


6. 日本のビジネスモデル事例 -  D2Cサービス

日本においては、欧米のような幅広いサービスを提供している企業はまだ救なく、現時点でようやく何社か出てきているという状況と考えられる。

日本で事業化で先行するのは、「WRAY」のようなD2Cでプロダクトを提供するモデルが多数出てきている。
WRAYは、主に働く女性に特化して、ホルモンバランスや月経周囲による体調変化に着目し、さまざまなセルフケア製品を提供している。多くの企業は、Femtechというよりはテック要素の少ないフェムケアの製品・サービスで、例えば美容液や体調コントロールするためのサプリメント、それに伴うさまざまなケア用品を提供している。WRAYは製品と紐づけた月経周期トラッキングをLINEアプリとセットで提供している。

ヘルスケア領域におけるビジネスモデルの特長 - who benefits, who uses, and who pays

ここまでいくつかビジネスモデルご紹介をしたが、この領域は、ユーザー、つまり『ベネフィットを受ける人』、そのプロダクト・サービスを『利用する人』、そしてプロダクト・サービスに対価を払う『対価を支払う人』は必ずしも同一ではないのが、この領域の難しさだと感じている。これは、フェムテック領域、より広くはヘルスケア・メディカル全般の特長とも言える。

Femtech事業のビジネスモデル検討のポイント

先ほどの事例「Progyny」は、『対価を支払う』のは企業、サービスを『利用する人』のは本人や医療関係者である。そして実際に『ベネフィットを受ける人』はユーザーである女性自身やその家族だ。
この考え方に基づくと、『ベネフィットを受ける人』としては、女性だけではなく女性の家族、お子様、もしくはパートナーなどが考えられ、ターゲットに応じてさまざまにビジネス設計が異なる。『利用する人』においても、女性自身だけではなく本人をサポートするパートナーや家族、もしくは例えば企業人事が活用するということも十分考えられる。『お金を支払う人』も、当然利用者が払うという場合もあるが、BtoEのモデルで企業であり、場合によっては政府・地方自治体が払うということもあり得る。プロダクト・サービスが医療に近付けば、国の税金である保険適用や健康保険からの支払いを得ることになり、地方自治体・政府がサポートするという場合も想定される。
この『ベネフィットを受ける人』『利用する人』『対価を支払う人』の3者を組み合わせて、どうプロダクト・サービスの収益化を設計していくかが、ビジネスモデルの考え方として重要だと考えられる。
このビジネスモデルの複数パターンに加えて、どれくらい医療寄りをターゲットとして狙うか、あるいはヘルスケア寄りで医療からは距離を置いて、一般的な健康管理などをターゲットとして狙うかといった観点も必要となる。また、女性健康課題の領域、月経に特化するのか、不妊治療に特化するのか、更年期に特化するのか、もしくは幅広く女性の健康全体をサポートをするのか、といった観点で、潜在的な社会ニーズや課題の大きさ・深さを考えることが重要となる。

最後に、そのニーズ・課題に対して、アプリやデジタルのITプラットフォームを活用するか、デバイスを開発して導入するのか、データ活用において誰をターゲットにどんなデータを収集して活用するのか(医療従事者向けにデータを活用するのかユーザー向けなのか等)、このようにさまざまな組み合わせが出てくるのがフェムテック領域の難しさであり、ビジネスモデルを検討する中では工夫や構想の余地がある面白さであると同時に、チャレンジのしがいのあるところだと感じている。

執筆者紹介


一般社団法人Femtech Community Japan 理事 皆川 朋子

外資ITコンサルティングに従事後、英Cambridge大学でのMBA留学を経て、独立系戦略コンサルティングファームの執行役員、人工知能ベンチャー取締役・事業責任者に従事した後、独立系VCに参画しスタートアップへの投資・事業成長の支援、女性起業家支援などに従事。複数のFemtech企業への投資実績を有する。現職は、Women’s Healthに注力するグローバル製薬企業にて女性ヘルスケア領域の事業拡大に従事。2021年3月、Femtech Community Japanを設立。

当記事の内容・図表などにつきましては、自由に個人のブログ・SNS等などでご紹介・掲載いただいて構いません。ただし、引用の際には必ず『出所︓⼀般社団法⼈Femtech Community Japan』の表記、もしくは当記事へのリンクを明記ください。

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