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平尾誠二著(2012)『理不尽に勝つ』株式会社PHP研究所

理不尽も経験次第

社会人生活が長くなると、いろんな理不尽に遭遇するのではないかと思う。わたしももう50歳の後半だけど、理不尽だけでも相当数経験してきた方である。平尾氏も「世の中はフェアであるはずがない」あるいは「立場によってフェアの定義は変わる」という認識を最初で述べている。

さらに「いちばん嫌いな人間は星一徹」ということだが、この本を最後まで読むと、実はこの星一徹感も変わってくるのが面白い…

人間は「どうして自分だけがこんな目に遭うのだろう…」(p.30)と思うもので、平尾氏も読んでるわたしもそのように感じるときが人生には必ず存在するのだろう…
またその人物が伸びるか伸びないかの判断材料は、平尾氏の経験では、失敗したときにその原因を人のせいにするか否かということらしい(p.40)。そして、調子が良い時は悲観的に、悪い時は楽観的に自分をみるとのこと(p.46)。

本書は随所に伏見工業時代の山口先生の教えが現れてくる。ひとりだけチームから浮いていると見える時は、周囲以上に本人の問題が大きいとの言葉はなかなか考えさせられる。また「媚びない、キレない、意地を張らない」は、社会人やベテランになっても必要な考えのように思える。「なんとかなるさ」という意味の解説もなかなか面白い(p.83)。意外だったのは、ラグビー選手の場合、さぼり癖のある選手のほうがじつは練習を真剣にやっているというのが厳然たる事実だそうである(p.112)。やるときに集中してやるほうが良いという判断。確かにここぞという時のパワーは四六時中力を発揮していたら急にはできないのかも知れない。

また平尾氏の考察で興味深いのは、クリティカル・モーメントと呼ぶ点に関して、日本はここぞという時の勝負どころが弱く、重要な判断を迫られた時の決断力が不足しているという認識。これはラグビーだけのことではなく、日本のあらゆる部分で同じことが言える。One for All, All for One.の解釈も「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」ではなく、「みんなはひとつのために」その一つの共通の目的のために頑張るという意味と捉える。確かにそうかも知れない。というよりその方がしっくりくる気がする。

本書は後半には「理不尽は人を鍛える。強いエネルギーを出させる」と説いている。さらに昨今の若者は理不尽への免疫が無いと説く。そして、大切なのは理不尽を排除せず乗り越えることと述べている。

平尾氏は最後まで星一徹は嫌いな様子だけど、理不尽はある意味必要悪のような感じに捉えていたのではないだろうか。それがあるからこそ、ラグビーに必要な強靭な体力と、それを支える強靭な精神のようなものが有無を言わず育成されていくのではないか、そう感じた次第…

かなりの折り目が…

この本の帯にも書かれていたが、自分の弱点を強さに変え、鍛えられて成長するには、理不尽な体験もまたそのための一つのツールに過ぎないのかも知れない。今回もかなりの数でページに折り目がついてしまった…

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