見出し画像

アドルフ・F・V・クニッゲ著、服部千佳子訳(2010)『人間交際術』イースト・プレス

至極真っ当な人生を謳歌するための本

以前読んだ森鴎外に関する本の記載の中に、彼の「知恵袋」、「心頭語」の二冊の箴言集についてはフランス革命勃発の前年に刊行されたクニッゲの「交際法」が原典になっているという記載があったことで、その原典の本を検索して見つかったのが本書である。たまたまkindle unlimited利用が可能でタイトルも「人間交際術」であるため、これがその原典であると考え読んでみることにした。

本書のタイトルが「人間交際術」というだけあって、人間同士の交際を如何に円滑に行い、周りから慕われ、かつ、自分をきちんと律するための知恵が簡潔に書かれてある。

各項目題が1ページにシンプルに書かれ、次のページに簡単な解説があるため、ページ数は多いもののサクサクと読書が進む感じがする。
内容的にはどれも至極真っ当なことが書かれているが、そのシンプルさ故に、自分に置き換えて自分を客観的に判断すると、頑固さだったり意地を張りすぎたりするところが反省でき、まだまだ器の大きさが足りないのだと自覚できたりもする。

人間もだんだんと歳を重ねてくると、自分のために叱ってくれる人や、わざわざ嫌なことでも言ってくれる親友というものが少なくなってくるので、時折このような本を読んでは自分を客観的に見つめるという機会を得ることは必要な行為なのだと実感する。

本書のなかでブックマークをつけた部分はかなりの数に登るが、その中でも特に、自分の苦境を訴えない、自立するために欲望を抑える、親切は熟慮のうえで、自分に厳しくあれ、気分屋に深入りしない、軽蔑されたないために、うわさ話を広めない、謙虚であれ、自分をよく研究し改善する、相手の話がつまらなかったら、なじみのない雰囲気に自分を合わせる才を持つ、中心にいようとせず期待を少なくする、他人による他人の評価はあてにならない、人間は行動によって判断する、他人と自分を比べない、結婚相手とは価値観が違ってもいい、勝ちを譲る、酔っぱらいとのつきあい、嫌なことはきっぱり断る…
…そして、最後にこの「本とのつきあい方」で終わるところが本書の粋なところでもある。

やはり長年愛されている本というのは、それなりに意味あることが書かれているのだと改めて感じた次第である。

この本も森鴎外の本に出会ってなかったら一生読むことすらなかったと思う。読書というのは、ある本をきっかけに芋づる式に読み進めることも、なかなか面白い体験や知見を作ってくれると思う。そんな本書との出会いに感謝。

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,141件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?