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スーパーコンシェルジュ

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スーパーマーケットの食品担当者だったのに、なんだか突然食品フロアの専門職に!? スーパーマーケットのお仕事小説、全編無料です
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2014年5月の記事一覧

スーパーコンシェルジュ1-①

 1)辞令は突然に  第1話
 
 その日も私は普通に発注をしていた。乾物、乾麺まで終わり、いよいよ調味料コーナーに差し掛かろうという所。顔をあげ、辺りにお客様のいないことを確認して、ちょっとだけ腰を伸ばす。首から下げた発注機は、長時間だと意外に重く、肩も凝れば、腰痛にだってなってしまう。
 
 腰をちょっとトントンとたたいてから、いよいよ醤油の棚に差し掛かった時だった。
 「佐藤さーん、あ、いた

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スーパーコンシェルジュ 1-②

1)辞令は突然に ②

 コンシェルジュ? えーっと、あ、そうだ、コンシェルジュ。なんだっけ、ホテルでフロントの隣とかにコンシェルジュデスクとかって、あったような。あれのことで合ってるのかな。でもそれと私とこのお店の間に、一体なんの関係があるって言うんだろう?
 私がまったくぴんと来ない顔をしているのに気付いたのか、店長はさらに
 「食品フロアの、アドバイザー。お客様にいろいろなアドバイスをしたり

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スーパーコンシェルジュ 1-③

 「さっき佐藤さんは家族と食べるとおいしい、と言ったけど、さすがに一人でごはんを食べてる人に家族を用意してあげることは出来ない。せいぜい……お手伝いくらいなら出来るのかも、だけど。でも今言ったようなことをお客様に提案するということは、うちの店でも十分可能なんじゃないかと思うんだけど、どうかな」
 
 それは……たしかにそうかも知れないけれど。
 「でも、どうやって?」
 だって、私には商品を仕入れ

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スーパーコンシェルジュ 2-①

 2)コンシェルジュって、何?
 売場に帰って、もう今日の勤務時間はほとんど終わりだったけど、チーフの所に顔を出した。
 「チーフ……」
 「情けない顔してるなぁ」
 もちろんチーフは知ってるみたいで、そう言って笑われた。
 「一応店長には『はい』って言っちゃったけど、なんかもう、今階段下りてくる間にもしまったなぁとか、言わなきゃ良かったとか、後悔してきて」
 「まぁまぁ。佐藤さんなら大丈夫って」

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スーパーコンシェルジュ 2-②

 夕食後、潤ちゃんの言ってた番組を探す。見た。
 ちょっと待ってよ。
 「ねぇ、潤ちゃん? 言ってたのって、これ? こういうの、求められてるのかなぁ……」
 泣くぞ。画面に映ってたのは、東京の高級スーパーで「コンシェルジュ」の肩書を持ってる人だったから、多分これなんだけど。
 「無理、っていうか、無理。絶対!無理」
 日本語含めて三か国語を操る、めっちゃ上品なイタリア人のマダムが映ってるんですけど

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スーパーコンシェルジュ 2-③

 翌朝。起きたら少しすっきりしてた。ベッドに入って眠りにつくまでもあれこれ考えて、なんとなく、……なんとなく、なんだけど少し気付いてきたっていうか。
 私、食べること、好きだよ? 今のお仕事、好きだし……誇りも持ってる。じゃぁどうしたいの? って思ったら、お客さんにも同じように「食べることって楽しいなぁ」「幸せだなぁ」って思って欲しい。
 
 これが、私の一番中心かなって思う。
 そうしたらどうす

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スーパーコンシェルジュ 2-④

 休憩を終わって降りると、案の定、チーフ経由で15時に集まってという連絡が回って来ていた。着任まではもう数日あるけど、やっぱりすでに「何かが動き出している」感はあるなぁって思う。
 まぁ仕事が変わるって分かってて、今の業務をずるずると引きずるのもなんだか違うと思うので、それはそれでいいかなと思うんだけどね。
 
 そして……今朝から感じていたんだけど、今までどれだけ私って、自分の売り場の商品を見て

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