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金的目つぶしの意味

最近YouTubeで格闘技やら武術・武道に関する動画をよく見ています。
僕はBMI16のヒョロガリガリクソンですが、やっぱり人は自分に無いものを求めるのか、強い人たちがそれぞれ極めてきた技を披露する様にドキドキわくわくします。

それに最近は格闘技や武術に関する注目度が上がってきてるように思います。総合格闘技の選手もYouTubeで活躍していますし、空手や外国の武術の達人の方たちがその人たちとコラボする動画なんかも人気です。

僕もよくその手の動画はついつい見てしまうのですが、特にkuro-obi worldというチャンネルをよく見ていて、そこに登場する中国武術の宮平保先生にとても興味があるのです。

この方はまず沖縄県で空手を10年、その後中国に渡りさまざまな本場の伝統中国武術を体得、沖縄に戻って道場を開いている方です。
そしてこの人が見せる武術のまぁ恐ろしいったらないわけです。金的目つぶしなんでもござれ。いかに相手にダメージを与えるか。いや、いかに自分の身を守るかという観点に徹底していて、そのための殺人はやむなし、相手を戦闘不能にするためにはあの手この手で…なのです。

しかし、一見すると宮平先生の武術というのは恐ろしいばかりで、その面ばかりが注目されてしまいがちです。簡単に「ここで相手の指を折ります」とか「ここ、目いってもいいですし…」とか言ってしまうし、それでいて(武術の達人にはよく言われるように)温厚な人柄ゆえに、それが逆に怖いなどとYouTubeのコメントでは言われたりしているのを見かけます。

僕も宮平先生の武術は見ていて思わず「うっ」となることがあると同時に、やっぱり面白いなと思うのです。しかしそもそも僕は格闘技もほとんど見ないし興味もなかったのですが、宮平先生のやってらっしゃる中国武術は、そういったテレビで放送できるような「人に見せれる闘い」とはフィールドが違うのは明らかでした。ここに惹かれる部分があったのだと思います。

kuro-obi worldにて、宮平先生が格闘技と武術について語っている場面があり、そこで宮平先生が言っていたのは
「僕が教えている武術の理想は、一生みんなが使わない生活を送れるようになること」

普通、人が物を習うというならばそれは使うためです。ですが武術の場合はおかしな話で、使わないために習得するというのです。宮平先生は老子の言葉を引用します。
「人は一生懸命に粘土をこねて壺をつくる。しかし実際に使うのは空洞の部分だ。」

この言葉は本当に現代における武術の在り方をよく表していると思いました。相手をどのようにすれば怪我させられるのか、殺せてしまうのか。どのような振る舞いをすると自分は殺されてしまうのかという感覚が身につき、そうならないためにはどうすればいいんだという事がわかってくる。

武術・武道というのは、人間に強くあるための精神性を与える。壺を形作るのが金的目つぶしなんでもござれの武術だとして、空洞の部分にあるのは、その武術を通して得られた考え方なのだということ。これが平和な現代で大切にされるべき武術・武道の意義なのだと思うのでした。

これは例えば数学の勉強にも似たようなことが言えると思いました。
「数式を解いたりすることになんの意味があるのか。社会で使う事なんてほとんどないだろう。」みたいなことはちょいちょい言われていますが、”壺”を作るのが数学の勉強だとして、じゃあ実生活で実際に使う”空洞”の部分は何かといえば、その学びを通して得られた論理的思考のことだと思うのです。

先にも言ったように、武道の達人といわれる人が温厚であるというのも、武道の鍛錬の結果身についた人格なのかもしれません。そういった人たちは自ら争いを誘うようなことはしないだろうし、護身という考え方からすればそもそも争いが起こらないようにすることが最高の護身ともいえるでしょうし。

実際の戦闘という事になれば、それは「人に見せられる闘い」ではありません。人間は間違いなく怪我をするだろうし、当然死に得る。
YouTubeで総合格闘技選手と武術家のコラボを見ていて、格闘技というのはあくまでもスポーツであり、武道・武術とは進む道が違うんだという事が案外気づかれてない気がしました。
武術はもちろん技を内包していますが、たまたまそれが、同じく技を内包する格闘技と重なるという点でのみ注目されるんだったら不十分だと思います。

スポーツで獲得できるスポーツマンシップと、「人を殺せる武術」の習得で得られる価値観や考え方。これらはそれぞれ別物だけど、僕みたいなただの視聴者はあくまで技という面を楽しむばかりになりがちな気がする。それ自体は全然悪いことじゃないけど、ただゲームみたいに技を平面的にのみ捉えてしまうのは少々もったいないだろうなと思ってしまうのです。

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