見出し画像

当別町のこれからについて、真正面から考えたらやっぱり「放牧」になった

少し前のことですが、2024年3月30日に「とうべつまちづくりフォーラム2024」というものが開かれました。私はそこで話者として講演を行いましたので、今回はその話になります。


前提として、当別町の現在のホットトピックについて少し知っていただく必要があります。

北海道医療大学の移転問題です。

今は当別町の金沢地区(小社の社屋も同地区にあります)にキャンパスを構えている大学ですが、こちらが2028年4月を目処に北広島へ引っ越すというニュースが突然メディアから発表されました。

これはつまり、若者が数千人単位で町から消えるということでして、全く寝耳に水だった当別町は上を下への大騒ぎになりました。
では不動産業や飲食業はどうするのか? 小・中・高・大が揃う町としての誇りは? 引き留めの余地は? 札幌から直通の「JR北海道医療大学駅」の存続は?

医療大側の移転への意思がどうやら固いようであることから、その騒ぎはやがて「跡地の使い方を考えなければ」という方向へとシフトしていきます。
私がお呼ばれしたフォーラムは、その利活用も含めたこれからのまちづくりについて、比較的自由な案を提案させていただくという場でした。

小社は一言で言えば「放牧と野生動物コントロールの会社」です。せっかくの機会ですから、こちらの専門分野を基に、この場所でできることを考えてみました。


大きな緩衝帯をつくろう

当別町という町の立地を語るとき、着目するのはやはり、札幌市の隣にあるという点です。

赤い点線で囲まれているのが当別町。南端が札幌市と接しています

特に航空地図を見ると、山の緑と生活圏の灰色が、ちょうど医療大のあるあたりからくっきりと分かれていることがわかります。

近年は野生動物の市街地への出没が問題になっていますが、それは主に、動物のすみかと人間のすみかがすぐ近くに隣り合ってしまっていることから起こります。2022年に札幌でヒグマが出没したときも、当別で発見されたのと同じ個体が流れてきたのではと言われていました。

そこで私が考えたのは、この当別町の里山の裾野(画像の赤いラインの一部)を緩衝帯に変えていくというものです。

下部の緑丸は、医療大と小社の社屋がある位置です

緩衝帯、つまり動物と人間が互いに近づきすぎないようにすることを目的としたエリアをつくるのはどうでしょう。
具体的には、その一帯の草丈をきれいに短く管理し、見通しをよくして、警戒心のある野生動物を寄り付かせないようにするという方法です。

ではどうやって草丈を短く維持するのかというと、ここで放牧の出番なんです。草食動物の力を借りましょう。そうすれば、飼料を外部から購入しなくても牛や羊を飼い、動物性タンパク質を生産していくことができます。

そして、見通しのよい野原というのは心地が良いものですから、都会の喧騒から少し離れて里山で暮らしたい人が自然と集まってきます。
何を隠そう、小社もそんな暮らしを求めてやってきた方々で構成された会社なんです。社員の約半数が本州からの移住者ですからね。

私が思い描いているのは、そんな好循環の形です。そして、医療大跡地をそのための拠点として整備し、研究機関やベンチャー企業などに入ってもらって運営していきませんか? と、そういうお話です。


改めて整理しますと、この提案によって実現できるモデルは以下の4点です。

①環境再生型農業モデル
やればやるほど何かを破壊していく農業はもう終わり。これからの時代は環境に負荷をかけないだけではなく、森や荒れ地をより炭素固定のできる状態へと再生させていく必要があります。
既にきのとやさんが盤渓の山中で道産子馬の放牧を始めていますが、そういった方法は今後スタンダードになっていくと思われます。

②野生動物共生モデル
先ほど述べた市街地出没についてもそうですし、農業においても、作物が2、3割食べられただけで一気に赤字になる、というのが深刻な課題です。
これではモチベーションも維持できませんし、ひどい場合は農村ごと消滅してしまいます。
動物と人とは、適切な距離をとらねばなりません。そのための有効な策の一つが、緩衝帯をつくることなのです。

③動物性タンパク質生産モデル
地球の人口は80億人を突破し、世界規模で見たときの食糧はギリギリで、とても危うい状態です。
慣行の方法では家畜に輸入穀物を与えるのが一般的ですが、これではタンパク質を生産するためにタンパク質を与えているという状態で、本末転倒だと言わざるを得ません。
草食動物は人間が食べられない草をタンパク質に変換してくれる、本当に貴重な存在です。「経済効率」という言葉に惑わされず、その原点を見つめていきたいところです。

④持続可能な住環境モデル
現在も私は「当別町農村都市交流研究会」という団体の代表を務めています。環境に配慮した農的暮らしをしたい人へ呼びかけ、移住者を募ったところ、25年前は限界集落であった金沢地区に約50棟の住宅が建ちました。
私はもちろんこの場所が好きですし、同じようにこの暮らしを求めてやってくる方々はたくさんいます。どうせ田舎に人は来ないだとか、そんな変な先入観は捨てて、あとはどうやってこの魅力的な場所を発信するか、素直に知恵を出し合うだけだと思っています。


これらすべてをセットで満たすことができたら、本当にすごいことだと思いませんか?
ただ、これらはもちろん一朝一夕で実現できることではありません。3年くらいで結果が出せるなら、とっくにどの自治体も取り組んでいるでしょうからね。まずは研究調査のための拠点を設けるところから、地道に進めていくことになりそうです。


以上の話を受けて、みなさんはどうですか。ワクワクしましたか?
大事なのは、理想を持つこと、志です。あとはまっすぐそこへ向かって行けるかどうか。
難しく、ハードルが高いからこそ、これがうまくいったときのインパクトは大きいものになります。新しいフードテックバレーとして、日本どころかアジアに誇れるモデルになれるでしょう。
当別町にはそのポテンシャルが大いにあります。これは私、本気で言っています。

医療大移転の話が出てから、当別町は「暗雲立ち込める町」「不幸な町」という位置づけで語られることが増えました。こちらの記事のように、消滅可能性自治体に挙げられたりもしているようです。

今現在人口が減り続けているという話ではなく、やはり移転によって一気に減ってしまうだろうという予測込みでの数字だと思われます。

こういった予測に打ちのめされるのも、それはそれで自由なのですが、私はやはりこんなに素晴らしい場所は他にないと思っています。町民自身がそれに気づき、誇りを持つことが大切です。

農業と自然がいっぱいある。消費地に近くて商売もできる。しがらみも少ない。
意欲さえあれば、それを実現できるフィールドはいくらでも整っています。


はたして、当別町は不幸な町でしょうか?
馬鹿言っちゃいけませんよ。これからが楽しみな町です。


この記事が参加している募集

#ふるさとを語ろう

13,704件

#この街がすき

44,138件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?