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【エッセイ】神はディテールに宿る

中学時代の担任も部活の顧問の先生も全く覚えてない私だけど、ひとりだけ覚えている先生がいる。

美術の先生で、若い男の人だった。

本当は画家になりたかったけど、それを父親に伝えたら、描いた絵をチェーンソーで切り刻まれたから美術教師になった、公務員だからね、というエピソードが衝撃的だった。ハハハって何でもないことみたいに話すけど、想像しただけでも狂気的な光景。

逆か。何でもないことにしないとダメだったんだろうな、きっと。

その先生がね、教えてくれた。

神はディテールに宿る

先生は教師の顔をしていなかった。
先生はちゃんと画家だった。

感想文やレポートを書かされた講演会の内容も、何度も聞いた校長先生のお話も、卒業式の偉い人のありがたいお言葉も、1ミクロンも覚えていないけれど、そんな高尚な話より新米美術教師の言葉の方がよほど真理に近い気がした。

自分に必要な言葉というものは、メモを取らなくても、無条件に心に響いて、無意識に頭に刻まれるみたい。忘れないようにって思う時点で自分には必要ないのかもね。

最近、私にも妖精くらいなら見えるようになった。あの時はへ?って感じだったけど、ようやく分かった気がする。

ジャケットやコートの内職は全部手縫いで、1着2〜3時間、オプションが多いと4時間くらいかかる。肩が知覚過敏を起こし、目玉の動悸が激しくなる。それでも一息に仕上げて広げると、パッと後光が差すときがある。

一方で自分のお店の試作品はまだまだへっぽこで草も生えない。早く神様をお迎えできるように修行とお祈りの日々。世の中すごく便利になって、大抵のことは片手で済んでしまうけれど、そこに神様はいない。何てったって神はディテールに宿るらしいからね。

背中で語るなんて時代遅れだって?
君は、まだ神様を見たことがないだね。

試作品ポーチ

あれから15年経とうとしているけど、先生はまだ画家でしょうか。それとも一介の教師になっているでしょうか。画家だったら嬉しいな。

ねえ、もし今も神様が見えるなら、それはどんな神様ですか。今度こそ教えてください。

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