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ささやかな夕方③

第三話

(ユリ)

巡り巡る季節は秋をいとも簡単に近づけた頃。

初めて君と喋った。

きっかけはカンナ先輩との会話の流れ。
「そういえばヒロと話したことあったっけ?」
そんなことを聞かれ、先輩の目線の先に君を見てあの人のことかと理解する。この時まで名前すら知らなかった。
「ないと思う」
たぶんそう答えた気がする。

先輩が私を紹介するためにヒロを呼んだ。
同い年なんだよ~とか言われたっけ。

呼ばれた君の顔は前髪がかかってよく見えないし、体型もかなりほっそりとしていた。しかも全く笑わないし、表情がない。いったい頭の中では何を考えているのだろうか。何も読めない。

「こんにちは」と私が言うと、
君は「どうも」とだけ答える。
初めての会話はそれだけ。

「無愛想だけど良い奴だから」
カンナ先輩はそう言うけどやっぱり少し苦手かも。


マイナスから始まったこの糸にも満たない関係。
そんな関係がこれから強く太く結びついていく。


そんなこと、この時誰が想像できただろう。

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