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【パッチワーク書評】佐藤優著『読書の技法』中世図書館の話

―人類はこうして知性を連鎖させてきた
その姿は現代の我々に知識との向き合い方を問うてくる

佐藤優さんは、ビジネス書の世界で大変な人気を獲得している方である。

その上、本書は数多ある著作でも取り分け人気が高い。noteにおいても、佐藤さんが明かした技法を多くの方々が記事にされている。技法の具体的内容については、そちらに譲りたいと思う。

佐藤さんの魅力は、様々なノウハウを身につけ、それを実践・公開されているところにあることは、もはや言うまでもない。

ただ、佐藤さんの本を読んでいてハッとするのは、そういったノウハウだけではない。ノウハウのウラ付けやプロセスなどを説明する際に披露される、エピソードが秀逸なところにある。

本書でも様々な挿話が披露される。特に印象的だったのが、中世図書館のエピソードである。佐藤さんは同志社大学神学部でキリスト教を学んだ。

その神学部長がこんな話をされたそうだ。

中世の図書館では、本は学生に1冊しか貸してくれず、その本をすべて筆写し終わるか、完全に暗唱するまでは、次を貸してくれなかった。紙とインクはとても高価だったので、簡単には筆写できず、学生は皆、暗唱した。ノルマの本を完全に消化するために、神学部を卒業するまでに 15 ~ 16 年かかったという。

今でも印象に残っていると佐藤さんは書いている。

筆者もこのエピソードに出会ったとき、ある種の興奮のようなものと、自らへの不甲斐なさとがない交ぜになるような複雑な感情となった。小一時間ほど、本を読み進めなくなったことをよく覚えている。

図書館はもちろんのこと、書籍の購入は自由である上、電子書籍まで登場している時代である。現代の恵まれた環境にありながら、自らの努力不足にただただ情けない思いがする。

一方で人類の知性や叡智が、このような努力によって連綿と紡がれてきたのかと思うと、とても感慨を禁じることなどできないのである。

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